第十三章¦痛む心
明日は、待ちに待った体育祭当日。今までの練習で積み重ねてきた成果を、力いっぱいに発揮する日だ。
放課後の6時間目。ホームルームは、ハチマキにクラスメイトのメッセージを書き込む時間になった。教室内はすぐに賑やかになり、互いのハチマキを回し合っている。
雨涙には、親しい友人がいない。この空気の中で、一人だけ浮いているのが自分だと痛感する。「気まずいな」と思いながら席に座り、じっと考え込んでいた。
すると、皆からメッセージを貰って回っているらしい、明るい雰囲気の女の子が私のところへやって来た。
「雨瀬さん、メッセージ書いて」
雨涙は苗字で呼ばれるのが苦手だった。クラスで浮いている存在だから、ほとんどの生徒から「雨瀬さん」と呼ばれている。その中でも特に嫌だったのが、前まで仲が良かったはずの亜美たちにまで、最近はそう呼ばれるようになってしまったことだ。
前までの仲の良さは、本当に消えてしまったの?
そう感じた瞬間、私はどうしようもなく嫌な気持ちになった。
私は「いいよ」とだけ言ってハチマキを受け取り、メッセージを書いて渡した。
「あ、私のもお願い」
ついでなので、自分のハチマキも差し出す。その子は嫌がる素振りも見せず、「おっけー」と気軽に言って、メッセージを書いてくれた。
それをきっかけに、雨涙も何人かにハチマキを回してもらうことにし、席から立った。
すると、菜月が少し気を使うような話し方で、「皆から書いてもらってるから、私のにも書いて」と話しかけてくれた。私は内心驚きながらも、ハチマキを交換し、メッセージを書き合った。
さらに、菜月の隣にいた亜美からも「ついでだから、私のも書いて」と声がかかる。言い方は少し冷たかったけれど、話しかけてくれたことが嬉しくて、すぐにハチマキを交換した。
ただ一人、羽音だけは、最後まで一切話しかけてこなかったし、交換することもなかった。
(気まずいな……)
私は複雑な思いを抱えたまま席に戻り、心の中でそう呟いた。
それから、気持ちを切り替えて、私は好きな人——友一にも書いてもらうことにした。
なかなか話しかけられなかったが、近くにいた子が友一のところへ行くタイミングを狙い、一緒について行くことで自然な流れを作り出した。勇気を出して、声をかける。
「友一、書いて」
すると、友一はハチマキを受け取りながら「いいよ」と言ってくれた。彼は空いているところに、「がんばれよ」と一言だけ書いて返してくれた。
私はそれが嬉しくてたまらなかった。自分の席に戻り、そのたった一言のメッセージを、じっと見つめていた。
それから、ホームルームが終わり、帰りの時間になった。
私は、この地獄のような教室から早く出たかったので、チャイムが鳴った瞬間、鞄を掴んで教室から飛び出した。
「やっと帰れる……」
誰もいない廊下を歩きながら、頭の中は明日の体育祭のことでいっぱいだった。
「明日、大丈夫かな。バトンパス、成功するかな……」
不安が次々と押し寄せてくる。考えれば考えるほど、胸が苦しくなった。
ずっと考えていても仕方がない。私は気持ちを振り切るように走り出し、急いで家に帰っていった。




