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第十二章¦地獄の日々

寒すぎる真冬が終わり、春が過ぎて夏になった。季節は巡り、雨涙は中学三年生を迎えた。


「これからどうしようかな……」


完全に独りになってしまった私は、自分の席でため息をつきながら考えていた。

新しい学年になっても、クラス替えはなかった。かつての友人たちの楽しそうな声が耳に入るたび、胸が締め付けられるような思いだった。羽音とは、あのテストの日以来、ほとんど言葉を交わしていない。「気の持ちようだ」という言葉は、私自身にとって、今はただ重たい響きを持つだけだった。

この時期は体育祭が近づき、体育の時間はほぼ練習に費やされた。その度に心が抉られる。体育のような移動教室では、すべて一人で行動しなければならないからだ。教室で受ける授業なら独りでも問題ない。けれど、体育で皆が何人かで固まっている光景は、私にとって、その場から逃げ出したくなるほど苦痛だった。

だから私は、唯一話しやすい二人組のそばにいるようにしていた。だが、その二人も亜美たちと仲が良いため、そこには常に気まずさが漂っていた。そのせいもあってか、二人も私のことを完全には受け入れていないようだった。

結局、二人の隣にいても寂しさや孤独感が消えることはない。雨涙は、まるで存在しない空気のように、グラウンドの片隅で、自分の影だけを唯一の連れとして立ち尽くしていた。ざわめく周囲の声も、楽しそうな笑顔も、すべてが遠い世界の出来事のように感じられる。体育祭練習の時間は、彼女にとって精神的な試練以外の何物でもなかった。

ぼーっと周囲を見渡していると、授業が始まるのか皆が列を作り始めた。私も重たい足を引きずりながら、皆が集まっているところへ向かい、列に加わった。練習内容は、クラス対抗全員リレーのバトンパスだ。走順はすでに決まっていたため、各自が自分の位置に並ぶ。自然と数人ずつのグループに分かれて話し合う声が飛び交う。


「次は○○の番だから、しっかり準備して」


「いいよ、任せて」といった会話の中、雨涙は居心地の悪さを感じていた。


なぜなら、雨涙はバトンパスが苦手で、いつも落としてしまうからだ。走ることも得意ではなく、不安で仕方がなかった。まだ練習なのでそこまで焦る必要はないはずなのだが、本番と同じように緊張してしまう。

練習が始まると、私は自分自身に「大丈夫、落ち着いて」と心の中で言い聞かせながら、懸命に取り組んだ。走るのは決して速くないけれど、できるだけ頑張って足を高く上げ、前へ前へと進んだ。バトンパスも意識を集中させ、相手の手にしっかり握らせるように、強く掴んで受け渡すように努めた。

そうすると、練習では不思議と上手くいった。バトンは一度も落ちることなく、スムーズに次の走者へと渡った。とりあえず一件落着。雨涙は胸を撫で下ろし、少しだけ安堵の息をついた。


練習が終わり、教室に戻る移動教室の時間。体育のジャージ姿の生徒たちがゾロゾロと廊下を歩く中、私はまた独り、少し離れた位置を歩いていた。


「……体育祭、どうしようかな」


ポツリと呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく、廊下の喧騒に消えていった。中学最後の体育祭。皆にとっては楽しい思い出になるはずのイベントも、雨涙にとっては乗り越えるべき苦痛な日になりそうだった。


教室に戻っても、その空気は変わらなかった。羽音たちとの溝は深まる一方で、修復の兆しすら見えない。このまま中学生活が終わってしまうのだろうか。自分の居場所は、どこにもないのだろうか。


夕暮れ時、帰り支度をするクラスメイトたちの中で、私は机に突っ伏したまま動けずにいた。


「もう、どうでもいいか……」


心の中のつぶやきが、今の私の精一杯の感情だった。明日も、明後日も、この苦痛に満ちた日々は続いていく。逃げ出したくても、逃げ場はどこにもない。誰もいない教室で、私は、ただ独り静かに泣いていた。


──次の日──


今日も朝から太陽が照りつけ、グラウンドはすでに熱気を帯びていた。体育祭練習の二日目。今日は綱引きのチーム決めと、それぞれの立ち位置を決めるらしい。


「よし、集合!」先生の声がグラウンドに響き渡る。生徒たちは各クラスのラインにざわめきながら集まった。


私は昨日と同じように、皆から少し距離を置いた場所に立っていた。綱引きは、全員が参加する競技だ。どこにいても、誰かと関わらなければならない。またしても独りになる恐怖と、皆の輪に入らなければならない気まずさの間で、私は小さく身を縮めた。


「チームは公平に分けるよー、番号順でA、Bの二つのチームに分かれてね〜」


先生が説明を始める。単純な分け方だったため、特に異論は出なかった。私はBチームになった。


チームに分かれると、自然と集団ができあがる。雨涙はBチームの列の最後尾に、遠慮がちに並んだ。亜美たちもBチームに入っていたので気まづくて仕方なかった。それに水を差すように、クラスの委員長が雨涙と亜美達はまだ仲がいいと思っていたので


「雨涙の後ろが羽音で……」


そう言うと、羽音達は気まづそうにしていて、その様子を悟ったのか、場所を変更してくれた。


「みんな、好きな位置に入っていいよ〜、力の強い男子は前の方とか、後ろでまとめる役とか」


先生が大まかな指示を出す。生徒たちはワイワイと話し合いながら、綱の周りに散らばっていく。誰かに「ここなら大丈夫かな?」と聞かれたので私は静かに頷いた。綱の真ん中あたり、女子の列の隙間に、ぽつんと立つ。誰も気に留める様子はない。


練習が始まった。笛の合図とともに、皆が一斉に綱を引く。私も必死で綱を握りしめ、全体重をかけて後ろに引っ張った。手のひらが擦れてヒリヒリするが、今はそれどころではない。


「負けるなー!」「もっと腰を入れて!」


怒号のような声援が飛び交う。皆の熱量に圧倒されながらも、私は自分の役割を果たそうと無我夢中だった。周りを見渡す余裕はない。ただ、目の前の綱だけを見ていた。


結局、Bチームは他クラスに負けてしまったけれど、練習はつつがなく終わった。私は、自分の手のひらにできた小さな水ぶくれを見つめた。痛みと共に、少しだけ、皆と同じことに参加できたという実感が湧いていた。


体育の授業が終わり、移動教室の時間になる。雨涙は今日も独りだった。


教室へ戻る廊下を歩きながら、私は思った。体育祭当日も、きっと辛いだろう。けれど、今日のように無我夢中でいられる瞬間が少しでもあれば、なんとか乗り切れるかもしれない、と。中学最後の夏は、まだ始まったばかりだった。

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