第十章¦失われた居場所
「雨涙、明日話がある」
昨日、そう亜美に言われ、私は嫌な予感を抱えながら、亜美と話をするために家の近くの公園に向かった。
嫌な予感は的中していた──
「雨涙、あのさ」
冷たい態度で亜美がそう話し出した。
「うん…?」不安げに私が言うと
「私もう、雨涙とは友達に戻りたくない」
そう亜美にはっきり言われてしまい、私は絶望した。
───「私もう、雨涙とは友達に戻りたくない」
その言葉が、雨涙の耳の中で何度も反響した。絶望──いや、それ以上に、世界が色を失っていくような感覚だった。昨日までの和やかな空気は嘘のように消え去り、目の前に立つ亜美は、氷のように冷たい表情をしていた。
「え、なんで……? この前、みんなで話し合って、また友達に戻るって……」私の声は震えていた。必死に状況を理解しようとしたが、頭の中は真っ白だった。
亜美は感情の乗らない目で雨涙を見つめ、淡々と言葉を続けた。「あの時は、とりあえず場を収めようと思っただけ。あの後、菜月たちとも話したけど、みんな同じ気持ちだった」
「同じ気持ちって……」
「雨涙、あなたが変わったのはいいことかもしれない。でもね、私たちの知ってる雨涙じゃない。あなたのせいで羽音は……」亜美はなにか言おうとしたが辞めた。
一呼吸置くと
「なんだか、上から目線っていうか……私たちとは違う人間になっちゃったみたい」
亜美の言葉は、私が良かれと思って積み上げてきた変化を、音を立てて崩していった。
「違う……そんなつもりじゃなかった、私はただ、変わりたかっただけで……」
「その『変わった自分』と私たちは合わないってこと、それでもまだ納得いかないなら羽音達とも話してみれば?、きっと同じこと言われるよ」亜美はそう言い放ち、雨涙に背を向けた。
「じゃあね」
亜美の背中が遠ざかっていく。公園のベンチに一人残された私は、膝から崩れ落ちた。
空は青く澄み渡り、子供たちの遊ぶ声が遠くで聞こえる。しかし、私の心の中は嵐だった。自分が良かれと思って始めた行動が、本当に大切だった友情を壊したのだ。瞑想も、自分を変える努力も、すべてが裏目に出た。
亜美とは小学校からの仲で、喧嘩も多かった。その度に、親同士の仲が良かったため、半ば強制的に仲直りをさせられてきた。だが、それももう限界を迎えてしまったらしい。
「私、間違ってたのかな……」
私は、静かに涙を流し始めた。これが、彼女の人生で最も孤独な瞬間だった。そして、この日から、雨涙の心は再び閉ざされていくことになる。以前とは違う、もっと深い暗闇の中へと。




