マクベス
「マクベス」ウィリアム・シェイクスピア
B-22の腕がB-21の首に巻き付こうとする。
B-21はそれを受け入れようとしたが、はっとした表情でB-22の腕を払いのけた。
「だから…嫌いだって言っているだろう…」
「嫌だ、今すぐやらせろ」
「先に風呂に入ってくれ。その臭い、嫌いだ」
「知るかよ」
「本のことを思い出すからそんな気分じゃなくなるんだ」
B-22は余計なスイッチを押してしまったと苦虫を噛み潰したような表情をする。案の定B-21はB-22と向かい合うようにして説明を始めた。
「シェークスピアはもちろん知っているだろう?ロミオとジュリエットで有名な彼だ。『マクベス』っていう彼の有名な作品があるんだが、知っているかい?」
「知らねェ」
「君はそう言うと思ってたさ。『マクベス』っていう作品は主を護る立場でありながら王を殺してしまったマクベスと王を殺すように唆した妻の話で………まあ、王を殺したことに対して罪悪感を抱いてしまった将軍の話だと思えばいい」
「それと臭いって関係ないだろ?」
「確かに臭いは関係ないんだ。ただの僕の妄想さ。なんだったかな…マクベス夫人は何度も手を洗うってシーンがあるのだけれども血は付いていないのに付いているといって何度も何度も手を洗うんだ。そのシーンを読むと自然と血の臭いがむせ返ってきて…非常に不快だ」
「逞しい妄想力だな」
「それで困っているのさ」
戯けたようにB-21は肩をあげて返事をする。B-22はどうしたもんだかと天井を見上げて深く息を吐く。
「罪悪感に駆られているんだ。付いていない血を洗い流す行為には」
「罪悪感、か」
B-22にとっては慣れない言葉をB-21に真似て繰り返す。B-21は気にする素振りもせず、罪悪感だと再度、呟いた。
「疑問に思わないかい?王である以上、謀反や暗殺か何かで殺されるという可能性は十分考えられた筈だ。昔のエジプトだって王位を狙って毒を盛るのが流行っていただろう?彼らが地位を求めて王を殺してしまうことはなんら不思議なことじゃない。家臣の裏切りを見抜けなかった王に責任があるんだと僕は思うんだが、僕にはその罪悪感がわからないよ」
B-21の言葉にB-22は眉をひそめる。B-22は少し顎に手を当て、考えるふりをしてからゆっくりと口を開いた。
「オマエとその当時の文化ってヤツの違いだろ?騎士道って考え方が昔はあったからなァ。騎士は主君を守るってのが普通だろ?」
「意外にも教養ってヤツはあるらしいな?」
「その教養がないヤツに教えられてンのはドイツだ
よ」
「ドイツの作家といえばミヒャエル・エンデだよね」
「は?話を変えんじゃねェ」
B-21はケラケラと声をあげて笑う。B-22は舌打ちをしながら頭を掻いた。
「そうか騎士道か、盲点だったな。世の中には色々な考え方がある。もっと他人の考え方を知りたいと思うよ」
「ハッ、変なの」
「君も変さ。だから僕は君の理解者になれるんだろう?」
「は?何一つオレのことがわかっちゃあいないからイライラすんだよ」
B-22の放った言葉にB-21は目を丸くさせる。
今初めて知ったというようなB-21の反応を見たB-22は頭を掻きむしり、舌打ちをした。その行動は何か言いたげな様子であったが、言っても無駄だと判断したのかB-21に背を向けて立ち上がる。
B-21は向けられた背中に手を伸ばしたが、その手が届くことはない。手が求めた先の彼はふらりと歩き出し部屋を後にした。




