ドリアン・グレイの肖像
「ドリアン・グレイの肖像」オスカー・ワイルド
人を殺すことに罪悪感はない。
B-21はきっぱりと言い放った。
B-22はどうだかと言いたげな表情をし、鼻で笑う。B-22の素振りに少し不服そうな顔をしつつもB-21は言葉を続ける。
「ターゲットにされるってことは依頼人にとって害があるからってことだ。そんな人間、ロクな奴じゃないしさ。世の中崇められる人間がいるってことはゴミにも等しい…死んだ方がいい人間もいるってことだろう?それが標的だと僕は思ってる」
B-21は穏やかに微笑む。B-22は小指で耳をほじり、適当に相槌を打っていた。
「ただ、何故彼らがターゲットにされたのか、どういった経緯で殺しの対象となってしまったのか、彼らの過ごしてた人生に対して興味が湧いて……しこりみたいなものはあるな…」
「しこりねェ?ンなもんこれっぽっちもねェな」
「だから君は僕の番なんだろう?普通、依頼でもなきゃ殺害した後の現場へ同行なんてしないし………君も相当『変わり者』さ」
B-21に和やかな笑みを向けられ、B-22は眉を歪めそっぽを向く。
二人は標的を殺した現場に足を運んでいた。
数日前、殺しの依頼であっさりとターゲットを射殺したのだが、何日間も花が添えられているのだ。その花は枯れることなく、種類も日によって変わるのだった。
本来殺されるような人間に花が添えられることなどない。あってもせいぜい1回だけで変えられることはなく朽ちてゴミとして捨てられるのがオチだった。ただ、彼が死んだ場所には毎日と言っていいほど供えられている花が変わる。B-21は全くもって理解ができないからと足を運び、自ら調査しようと思ったのだった。
「B-22 はさ、美青年が何年経っても歳を取らず、代わりに彼の肖像画が歳を取る話って知っているかい?」
B-22はB-21の長い話が始まることを察知し、うんざりとした表情でため息をつく。自分が答えなければこの会話が終わらないことを知っているB-22は、重い口を開いた。
「ホラー映画で見た」
「ホラーじゃない、フィクションの伝記さ」
心外と言わんばかりにB-21が間髪を入れず返事をする。言わんこっちゃないと額と目を手で押し当てながらB-22は文句を言う。
「何が言いてえんだよ?」
待っていましたと言わんばかりの表情をしたB-21がB-22の顔をのぞき込む。キラキラと輝くB-21の瞳は幼さを残していた。
「君は『ドリアン・グレイの肖像』という作品だってこと知っていたか?数百ページある中で実際に肖像に変化があるのは読み始めて半分ぐらいからなんだ。この作品はそこの部分だけが有名になってしまって主人公ドリアンの考えの変化や出会った人についてはスルーだ。感情の乏しい僕にも心の中にぽっかりと穴が空いた気分にはなるよ」
捲したてるように言葉を放つB-21へB-22は疑問を投げかける。
「その流れで考えるとオマエはドリアンとやらの人生を手繰るようにそのターゲットの生き様について辿んのか?」
「君のそういうところ、僕は好きだよ」
「ウゼェ…その遠回しに話すクセ、やめらんねェのかよ」
「ふふ、ドリアンはさ、初めは純粋な青年だったんだ。ただ、ヘンリー卿と出会ってから彼の価値観は変わってしまったんだよ。ヘンリー卿の影響を受けたって言い方は作中では批判されていたが………まぁ、そんな感じだ。僕がこの小説で一番好きなのはヘンリー卿の価値観だな。悪徳について語っていたんだが、サドとは考えが違って面白かったよ」
「あァ?からかってんのか?」
「悪い、話が逸れてしまったね。僕がターゲットについて知りたいのは、彼がどこで生活をし、誰と会話をして何を感じたかを知りたいんだ。何を感じるかは完全に僕の想像の世界だ。価値観は人によって違うし受け取り方も違う。僕はターゲットは殺されるべき人間だって言ったけど君にとっては違うだろ?殺しを狩りだと思っている君にとってターゲットは獲物だ。僕には君の価値観はわからないし君にも僕の価値観はわからない。言葉で伝えたとしても認識の違いでまた変わったものになるかもしれない。ただ、僕は標的…いや、彼を殺したことは世の中から害悪を排除したという考えには変わりないよ。だって、彼の死を願う人がいたのだから。だから生前の彼を知ったところで何も変わらないんだ、本当は。じゃあ僕は何を求めているのだろう?」
「…はァ?わけわかんねェ」
B-21の纏まらない話に、B-22は口をあんぐりとさせる。そんなB-22の姿を見たB-21は声を上げて朗らかに笑う。
「どんな話をしても君は理解しようと努めてくれるから好きだよ」
「ウッゼェ…」
くだらないとB-22は舌打ちをし、そっぽを向く。
B-22のキラキラと銀色に輝く髪にB-21 は視線を向ける。彼の髪は組織から支給される薬の影響で白くなってしまい本人は不満げであったが、B-21は光を通す透き通った彼のさらさらな髪の毛が好きだった。
「僕は正解を知らないだけだ」
「ハッ、オレのやることが全部正解だ」
「ふふふ、だから君が僕の番いなんだろうな」
B-22にはB-21の考えることは何一つ理解できない。ただ、それでも共に連れ添って歩んでしまう理由をB-22は分かっていた。




