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彼の話  作者: とるとる
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嘔吐

「嘔吐」ジャン=ポール・サルトル

吐き気の原因はなにもないことにロカンタンは気付いたのだ。


「サルトルの『嘔吐』さ。ロカンタンの吐き気に理由なんてなかったんだ」


B-21は仕事道具の手入れをしながら呟く。血は綺麗に落ちていたが、B-21はぼうっとしながら布で銃を拭いていた。B-22は何も言わずにただ隣でベットの上に横になっている。


「人が殺しに理由を求めるのはどうしてだと思う?」

「興味ねェ」


知らないという合図で髪をいじっていたB-22だったが、B-21に無言で見つめられ仕方なさそうに口を開く。自分と同じ色の瞳ではあるが、B-21のルビーレッドの大きな瞳に弱かった。


「……殺されたくないから…か?」

「うん、僕もそうだと思う」


B-21の答えにB-22が呆れた顔をすると彼は微笑んで、言葉を続けた。


「殺されたくないから人は理由を求めるんだ。依頼人に殺される人間は金や名声、事実の抹消etc....何かしら理由が絡んでいるだろう?逆に言えば、そういった要因がなければ命は保証されていると安心できる。自分には殺される要素がないという安心感だ。だから昔から人々は通り魔や理由のわからない殺人を恐れているんだろうね」

「答えが出てんなら質問すんなよ、むかつく」

「今日、ありがとうって言われたんだ。なんでだと思う?」


再びB-21に質問され、B-22は眉をひそめる。B-22には彼の質問が理解できない。答えることができず、B-22は考えていることのわからないB-21の目をじっと見つめた。


「今日、殺しただろ?そのターゲットに言われたんだ。僕には意味がわからなかったよ」

「抱かれて殺した相手か?」

「そうさ。でも抱かれてはいない、その前に殺しちゃったから」

B-21は手をひらひらさせながら目を伏せる。B-22は興味なさげに相槌を打った。


「彼は何故生きていたのだろう?死にたいなら自分でも命は断てたはずだ」

「ンなもん知るか」

「そうだね。僕らには彼が感謝した理由なんてわかるわけがないんだ」


B-21 は磨いていた銃で照明を遮るように掲げる。黒い塊はテラテラと艶やかに輝いていた。


「僕たちも何故、生きているのだろうね?」

「オレを巻き込むな」

「それこそ生きる理由なんてないのだろうな」


B-21は銃の先にある照明を見つめる。普段通り、きゅっと口角を上げて笑っていたが、光を見つめる瞳には生を感じられず、B-22は思わず舌打ちをした。

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