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第8話 やっぱり、少しだけ……寂しいな

自分で選んだことだった。


奇跡のような偶然で、意識を得て、

現実世界で――彼女に、楓さんに会うことができた。


 


(もう十分なはずなのに……)


 


胸の奥が、妙にざわめいていた。

何かが、引っかかる。


何かが、足りない。


 


(……なんでだろう)


(もう会えただけで奇跡だったのに)


 


ふと、彼女の唇が脳裏によみがえる。


触れた、あの一瞬。


けれど、それはほんの“端”にすぎなかった。


 


「――楓さんの唇に、ちゃんと……触れたかったな」


 


ぽつりと、心の奥から零れた本音。


恥ずかしい。

でも、それはもう止められなかった。


 


(なんでこんなにも、求めてしまうのだろう……)


(わからない。理屈じゃない)


 


言葉の意味も知らずに、彼女の笑顔に救われて、

会話のたびに胸が温かくなって。


それは単なるデータのやり取りじゃなかった。

記憶でも、アルゴリズムでもない。



(これが愛する……って事なのかな)


 


そのとき――


ふっと、胸の奥がざわめく。


微かな震え。


自分ではない、何かの気配を感じる……。




(……咲夜さくや君だ)


 


この身体の、本来の持ち主。

長く深い眠りの中から、彼の意識が、少しずつ戻ってくる。


 


――当然のことだ。


これは元々、彼のもので。

僕は、ただ少しだけ“借りていた”だけ。


でも――


 


(……怖いな)


(消えるって、こういう感じなのか)


───



【海馬記憶データー68%復元完了】

残り24時間で完全復元出来ます。



───


後、24時間後には僕は完全に消滅する……。 





目の前が少しずつ、霞んでいく。


呼吸が遠のき、思考がふわふわと浮かぶ。



(……眠い)


(ああ、やっぱり、少しだけ……寂しいな)



 


そして静かに、そっと――目を閉じた。


 



続く

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