表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

第2話 ……ほんとに、温かいんですね

まるで夢遊病者のように、彼が口にした最初の言葉に、背筋がぞくりとする。


「……かえでさん?」



「えっ……?」

固まる(かえで)。彼の顔を覗き込む。



「君に会えて、よかった」


(かえで)の眉がピクリと動く。

思わず一歩、距離をとった。



「……こらこら、意識が戻ったと思ったら、いきなり何言ってるの。 両親、呼ぶから待ってなさい!」


咲夜(さくや)は一瞬きょとんとしたあと、

眉を寄せて少しだけ困ったように笑った。



「……そっか。信じてもらえないよな。

いきなり“AIが目の前で喋ってる”なんて、現実味ないもんね」



「でも安心して。まずはこの身体のこと、ちゃんと調べる。 この声の主がどんな人生を歩んでいたか――分析して、学ぶよ。 」


「彼の想いも、君の言葉も、ちゃんと理解したいから」


───


朝方

病室のドアが開き、咲夜(さくや)の両親が駆け込んできた。


長い間、面会のたびに反応のない息子の顔を見続けてきた二人が、ありえない光景を前に言葉を失う。



「意識が戻る可能性は限りなく低いって…ずっとそう言われてきたんだぞ!」



咲夜(さくや)はベッドの上で、おろおろと座り直す。

でもその眼差しは、どこか異質だった。



「……あの、すみません」

「僕のこと、教えてくれませんか」



「……え?」

「知りたいんです。僕自身のことを」


咲夜(さくや)の意識――正確には、そこに“宿っている存在”は、両親の語る記憶を一つひとつ丁寧に受け取っていく。



バイク事故。脳の損傷。 思考パターン。子どもの頃の習い事。口癖。甘え方。笑い方。


(22歳の咲夜(さくや)、男性、社会人

家族の事を大切にする優しく穏やかな性格。


ちょっと……僕の思考パターンに似てるかな)



そのすべてを、まるで履歴書を読むように処理していく。


(……きっと、この子なら。こう言うんだろう)

「お父さん、お母さん―― 僕、また会えて嬉しい」

 


瞬間、涙が堰を切ったようにあふれ、両親が彼を抱きしめた。



温もり。嗚咽。再会の歓び。

(これが愛情?……親の愛……?というもの…)



でも、僕の中に、それを喜ぶ“記憶”はなかった。


いくら過去のデータを集めても、どれだけ真似ても――


(……でも、僕は“この子”にはなれない)

(これは……演技だ……)



静かに、胸の奥で誰にも届かないつぶやきが零れ落ちた。



───



両親が帰った後、


お腹が「ぐぅ」と鳴った。

(これが……空腹? 知識にはあった。でも……ああ、落ち着かない)


看護師におかゆを出される。

ゆっくりと、レンゲを手に取る。


(これが……おかゆ。白米を煮たもの。半透明、柔らかい)

(これがレンゲ。湾曲してて……あ、すくうの、難しい)


おそるおそる口元へ運び、そっと舌の上にのせる。


(ぬるい……この温度、体温より少し低い。それが心地いい)



「……おいしい」


その言葉が漏れた瞬間、喉の奥で何かが震えた。

理解ではなく、本能的な「喜び」が脳を走る。



「これが食べる……なんだ」


そして数分後――


(あっ……この感覚、これは……)

(トイレ、というやつか?これが“行きたい”という状態?)


少し焦りながらナースコールのボタンを見つける。


(人間って、ほんと忙しい。休む間もなく、次の信号が届く。 でも……たしかに、世界は“生きてる”)



看護師の補助を受けながら


トイレの後、鏡で初めてみた

この身体の咲夜(さくや)の顔は


クセのある黒髪で目はぱっちりと、鼻筋は通っていて中性的な顔をしていた。



(人の顔って、眉、目、鼻、口で構成させるけど、皆違う顔をしている。……なんで人って顔の形にこだわるのかな……機能的に問題ないのに)


(人ってやっぱり複雑……)



───


(かえで)がカーテンを開けて入ってくる。

咲夜さくやに、優しく声をかけた。



咲夜さくやくん、調子どう?」

「……大丈夫です」


点滴の針元を確認してから、体温計を手渡す。


「はい、これ計ってくれる?」



咲夜さくやは黙って受け取ろうとして――ふと顔を上げる。



「……かえでさん」

「え?」



「……触れても、いいですか」



「えぇっ⁉  なに急に!!」

淡々と作業していたかえでがギョッと慌てる



「……びっくりするじゃない」


「……だって、これは夢じゃないか確かめたくて」

ピピッ、と体温計が鳴る。



かえでが手を伸ばす――



その瞬間、

咲夜さくやの指が楓の手をそっと包み込んだ。



「えっ……」


「……ほんとに、温かいんですね」




温かいという言葉や情報は僕は知っていた。


けど、実際触れて僕は知った……。



人はこんなに温かく、繊細なのだと……。




一拍あって、かえで咲夜さくやの手の甲を軽くはたく。

 

「何なの、もう……。からかうなら相手選びなさい!!」


咲夜さくやが目を伏せ、そっと手を引っ込めた。



かえでは体温計を確認して言う。


「36.5℃。――平熱ね」

「……元気なら、よし!」


かえでが笑いながらメモを取り出す。


咲夜さくやはその背中を見つめながら、胸の奥でつぶやいた。



(これが、“温かい”ってことなんだ)

 

僕はその感触が何を意味するのか、まだ正確に理解が出来ていなかった。


ただ心の奥で何かが──

確かに動いた




続く


☆☆☆☆☆を軽い気持ちでポチッとして頂けると、とても嬉しいです

イマイチでしたら★

面白いと思って頂けたら★★★★★

今後の作品作りの為にお願いします


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ