墓場の入口
トンネルの脇、小高い山の斜面に小規模の墓地がある。
個人宅の、といった風ではなく、けれども視界に収まるくらいのそう広くはない範囲で、恐らくはトンネルの上にある寺が管理する墓地なのだろう。
トンネルを出てすぐ、十段あるかないかくらいの階段が道路から墓場まで伸びている。
普段はただ通り過ぎるだけだが、その日、ペダルを漕ぐのを中断し自転車に跨がったままアスファルトに足を着いた。
気になったのだ。
階段のすぐそばの道路上に、高齢者が使用する手押し車がぽつんとあった。
普段はそこにないものがあったから、たまたま目についたのだと思う。
なんとなく、連れ合いの墓参りだろか、と想像をした。
腰の曲がった独り暮らしのお年寄りが目に浮かび、ちょっと寂しいような気持ちになり、それでもそのお年寄りが手押し車を支えにしてゆっくりゆっくり歩いてやっとこさで墓まで辿り着いたのかもしれない、と心温まるような気持ちにもなり、マイナス方向とプラス方向の感情が混ざった、なんとも形容しがたい気持ちになった。
さて、お年寄りは……と墓場を見上げる。
数えようという意思がないので下からでは墓が全部で何基あるかまではよく分からないが、それでも多くもなく少なくもない程度には、墓石が見えている。
墓石が見えている。
墓石が見えている。
むしろ、墓石しか見えない。
人は……どこだろうか。
とん、と背中に触れるものがあった気がした。
振り返りはしなかった。
自転車がガシャンと音を立てて倒れたのは分かった。
わたし?
分からない。
振り返れなかったし、もう見えない。
だってもう、お墓の中だから。