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二周目のサイコパス(二サイ)  作者: ニキ
一章:Fafnir Re:bellion!
14/17

VS.チャリオット②

 ──このゲームの物理法則は現実通りだ。

 草木を焼けば燃えるし、頭蓋骨を潰されれば生物は死ぬ。

 現実で生命活動が停止することをされれば、生物は即死する。

 それは如何に強力なボスだろうが変わりない。

 故に強敵は大抵即死の危険がある状態では防御や回避を優先するし、圧倒的火力をぶち込めば開幕だろうが四肢切断だって可能だ。


 一歩間違えればバランス崩壊待った無しの仕様に対して、運営が用意した回答は多岐に渡る。

 例えば死んでも何度か復活するクソボスだったり、或いはダメージがまるで通らない超硬度のゴミボスだったり、又はスライムやゴーストみたいなそもそも不定形のボスだったりと。


 様々な即死の対策がボスに為される中、チャリオットにおけるそれは傷口の再生という形で表れた。


「今思えばハリケーンもそうだったけど」


 幾重にも付けた傷口は血のような赤を暫く流した後、何事も無かったかのように不自然に塞がっていく光景。本来ならもうズタボロになっている筈のチャリオットは、今尚元気に暴れていた。ふざけやがって。


 四肢が千切れたら普通にゲームが終わる(GG)し、そうでなくとも傷が残り続けるなら生物なんてすぐ動けなくなる。ゲームとしての都合と物理法則の一貫性を調整した結果、フィジカルによる再生力が序盤の回答として一番便利だったのだろう。


「せめて血が飛び散りゃより没入出来るのに」


 この世界は対人を軸にしたあくまで全年齢対象の作品(ゲーム)だ。出血状態や血魔法といったものはあっても、倫理観がうんぬんかんぬんで攻撃や被弾で血が飛び散ることは無い。

 ダメージのデカさ次第で大きくなる赤いデジタルチックなダメージエフェクトが()の代わりであり、傷口や生物の切断面は揺れる赤い水面のように描写されてしまう。

 無機物相手ならそれでもいいんだけど、せめて生物殺してる最中くらい血肉らせて欲しいよね。私のVR遍歴的に無いと若干寂しいし。


『ゴガァァァッ!?』

「『ヘイトアブソーブ』」


 ──爆砕と爆風、続いて哭る悲鳴。

 (おびただ)しい程の赤い噴霧が闇夜を染め、黒色の残火が巨影を焼く。

 都度、三度目の直撃。

 合わせて明けて直ぐのスキルを使用。イかれた量の敵意が私を捉え、立ち込める煙を引き裂いてそれが来る様を視る。

 毛はズタボロで全身赤い傷跡だらけ、怒りに我を忘れた7mはあろう巨大熊。鼻息は荒く、目は血走り、口から漏れるは怨嗟の怒号。

 精彩を欠くぶん殴りを軽く避け、削いだ肉から赤いエフェクトが私の軌跡を追って刹那に舞う。

 比べてしまえばそれはあまりにも微かな煌めきだ。

 閃光に及ぶべくもなく、ただ筆で一撫でした程度のその残光は──然してとある確信を齎すには十分に足る情報で。


「……なるほどね、割合か」


 エフェクトの量と飛び方さえ見れば私は大体のダメージ計測が出来る。

 魔法の直撃で発生した莫大な量の赤い霧はチャリオットの全身(・・)から数秒を掛けて放出されたが、目立った外傷は残していない。チリチリと焦げる体毛はあるにせよ、傷跡として主だつのは刃物による切り傷達で。

 一瞬で消える私の斬閃と比べて極めて異質なこのエフェクトの出方は……総HPに対する割合ダメージ特有のもの。


(その中でもこれかなり上限(ダメージリミット)高いだろ、普通図体の倍近くには膨れねぇよ)


 だとしたらあの子随分とイかれたNPCだな? 道理でヘイト持ってかれるわ。つかあの魔法私も欲しい、殺したらオーブ落ちるかな?

 ……経験からHPを試算、多分これもう押し切れそう。

 槍も刃こぼれしてきたし発狂も面倒だ、そろそろ決めに行こうかしら? はい決定。そんな案が出た時点でやりたいと思ってる訳なんだし!


「痛いのは嫌いなんだけど、ねッ!」


 ──意識を向ける。

 適切で適当な捌きから、最適で最短の攻略へと脳味噌を切り替えて。

 遅いデカブツなんざ反射だけでどうにかなるとAGIに物を言わせて避けてきた嵐の中へ、戦場へと思考を降ろして。

 慣れて無意識に把握し切った攻撃距離、範囲、予備動作、余波。無造作な反撃を止めて頭を回す。

 咆哮。振り下ろされる両前脚が地面を割り、その体勢からのぶちかまし。

 めくれ上がる土草が凸凹に爆ぜて、戦車が壁となって迫り来て。

 5割程のSTRを足に出力、AGIに乗せ後ろに蹴飛ばす。

 荒れた滑走路から離陸した両足。初速を筋力が跳ね上げたが、されど肩から来る肉の弾速には僅かに劣り──激突。


「──カタパルトってご存知?」


『ズドン!』と足裏に床が届くと同時、膝を曲げて衝撃を極限までぶち殺す。

 相対速度は時速10km程。接地面から赤い火花が散って、射出台に押されるがまま90°傾いた世界で水平に加速!


「縮ゥ地ィ!」


 再度STRを足へ最大出力。押してくるチャリオットをカタパルトに、最大速度で空へ跳べ!

 走行車からボールを投げるが如く、肉体の限界を超えた速度で舞った宙。

 風圧を描き消すコートが闇夜に広がって、体を捻れば蝙蝠の翼のよう(ド派手)にはためいて。

 刹那に迫る大木、三角飛びの要領で縮地を更にパなす。

 ベクトルは斜め上。減速は最低限に、戦闘高度は更に上げて……


「『ブラストジャンプ』!」


 空中で、更なる跳躍。

 角度を付けて進路を曲げ、速度と高度でチャリオットの捕捉を強引に振り切る!


『ッ!?』


『エアハンマー』による自傷跳躍を噛ませて更なる空中機動。

 一瞬の間に私を見失ったチャリオットの対応は反射的な直立と共に頭を振るという無防備なもの。

 軽率にして愚行。

 奇襲、頭上背後からの一閃。


 圧倒的速度で射出された一槍は音を退()けて──チャリオットの首筋を穿ち抜く!


「後頭部……狙ったンだけどなぁ!?」

『グッ……ガアァァァ!』


 肉をブチブチと引き裂く手応え。殺戮の重い衝撃が痺れる程腕に返ってきて脳内に快楽物質が咲き乱れる。

 体重と速度を全て受け渡した超火力の杭が生えたのは、元の狙い所とは遥かにズレた野太い肩部と首の間……クソが本能で躱しやがったコイツ!


 半ばまで刺さった柄への返答は筋力による強引な振り回し。力んだ肉圧によって抜けない槍を握力任せに掴んで耐えるが……悲しいかな『暴風槍』はあくまで自作品、変な方向からの圧力がかかり過ぎて柄がぶち折れた!?


「ほな次回作の材料君ね?」


 中空に投げ捨てられた肉体。きゃあ高いよう怖いよう、レディはもうちょい優しく扱いなー?

 地面からは大体8~9m程だろうか、チャリオットの全長より高い位置にいるじゃん私。

 そんな落ちゆく私を拾うように殴り掛かってくるチャリオット君ですが、ここであなたに悲報です。──鬱陶しい私に集中している間に、もう一人が何してたと思います?


「BANG!」


 閃光。

 轟音と共に爆炎が爆ぜ、それ以上の規模の赤霧が視界を埋め尽くす。

 遠目に詠唱するの見えてたけど、あの子勝負勘は悪くないな。丁度畳み掛けたいタイミングで何も言わずに火力パなせるの褒めて遣わす。それはそれとして明る過ぎて目が痛い、もうちょい光量抑えらんないの?


(なんにせよこれで死n──ッ!?)


 ──炎のカーテンの中から迫る影。


 反射的に左手を盾にした直後、アホみたいな激痛が腕に走る。


 牙を受けた前腕が万力のようなアギトで噛み砕かれ、離す気等皆無な剛顎が力任せに私の体を軽々と持ち上げている。


 プレス機で挟まれ潰されてるかのような、骨と筋肉が砕けて割れていくかのような。


 異音、或いは怪音。『ギチュリ』と意味不明な曲が奏でられ、激熱が内側から引き裂くように爆発した。


 全神経が泣いている。肉の外側が鳴いている。


 止まらない痛みが刹那に感覚を尽く喰いつくして、熱と激痛に脳内情報が支配され…………()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()。ぅゎぁ唾液でぬめってきもちわる!?


『ギッ!?』

「『緊急召喚』『エンチャント』」


 片手懸垂の要領で左肩の位置を固定、チャリオットの舌を引き千切る勢いで右側から体を起こす。

『緊急召喚』発動、右手の中に呼び出すのは大猿の牙。

 超至近距離にある私の胴程もある顔面、避けるスペースなんざ当然無い。

 後ろから振りかぶったナイフ(素材)をスキルで点火──未だニヤケ面だった馬鹿の眼球目掛けその切っ先をぶっ刺した。


『ッ!?!?!?』


 粘膜に殺意を抉り込む。

 繊維を潰して、肉感を貫いて、血管を裂いて、神経を焼いて、命を殺す。

 絶叫で左前腕の拘束が解けるが逃がさない。チャリオットの舌へSTR任せに爪をめり込ませ、殺意のまま指先で鷲掴む。

 炎で焼き爛れていく右手の平。当然ながらクソ熱いがそんなん無視してより深くまで牙の先を突っ込んで。

 眼孔の奥の奥、そこに届いた牙の先。感覚が追い付いたのか絶叫が漸く鳴り響いた。

 激痛の二文字をこれでもかと体現した様を見て私が抱いたのは共感(・・)。分かるよぉこれクソ痛いよねぇ、眼孔の内側から花火が爆ぜて組織を灼き溶かされるような、痺れて震える激熱でしょ? 知ってるよ。

 手の平で牙の付け根すら埋め込む頃にはもう牙はヒビだらけ。急速な耐久消費で砕ける直前だけどお前はまだ徹甲榴弾としての仕事が残ってんだよ……!


「『エレメンタル……バースト』ォ!」


 残存全MPを適用。同時、牙に付与した炎が激しく脈動。

『エレメンタルバースト』、それは武器に付与された属性を火力(エネルギー)として放出させる『纏刃』のもう一つの魔法。

 はてさて私が今チャリオットにぶち込んだのは『エンチャント』によって()を纏った使い捨てナイフだ。

 現在地はボスの眼孔より体内の奥深く……それが今からミサイルとして爆発する!


 閃光。

 世界から音が押し潰されて、右腕の肩までの感覚が破壊される。


 轟音。

 爆炎が粘膜という粘膜から噴火して、強烈な暴風が全身を打ちのめす。


 それは水風船が膨らんで弾けるように。

 体内という狭い空間に住まうには余りにも大き過ぎた炎の津波が、内側から肉を裂いて宵闇に吹き荒ぶ。



『ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!』



「あ痛っ」


 木っ端のように吹き飛ばされて『べしゃっ』と地面に激突した。焼き爛れた右半身とヘッスラしちゃった鼻が痛い。超痛い。こういうつーんとした痛み私一番苦手なんだよな……

 うぅ視界が滲む……なんで生体反応って意思で捩じ伏せらんないんだろう? 前見えねぇから止まれよ涙。



『エリアボス『チャリオット』を討伐!』

『初討伐報酬を獲得しました!』

『エリアボス『チャリオット』をソロ討伐!』

『初ソロ討伐報酬を獲得しました!』

『スキル『地形特攻』のアンロック条件を満たしました!』

『スキル『単騎駆け』のアンロック条件を満たしました!』

『称号『ベアキラー』を獲得しました!』

『称号『シレネの森の主』を獲得しました!』

『レベルが上がりました』

『ステータスポイントを獲得しました』


 《ワールドアナウンス!》

 《エリアボス『チャリオット』を『彁』がソロ討伐しました!》

 《セーフティエリア『シレネ森林大樹広場』が使用可能になりました!》



「……まあ流石に死ぬか」


「だっ大丈夫ですか!?」


「火傷と噛み跡がとても痛い」


 アナウンスと同時に戦闘体勢の思考エンジンが切れて、ドッと疲れに襲われる。

 全身から炎を吹き出して破裂したチャリオット君は当然ながら死んでいた。後に残ったのは肉片(燃えカス)と延焼している草木だけで、数瞬前まで殺し合いしていたのが嘘みたいに辺りは沈黙に包まれている。

 木々の隙間から火力支援をしていたコヒメが慌てて駆け寄ってくるが、生憎今の私に受け止める元気は無いぞ? 両手がボロボロで風に触れるだけでクソ痛いからなはっはっはっ! なにわろとんねん。

 あーだめだへたりこも。起き上がる気力もねぇ。ポーション何個かあったから腕にぶっかけてちと休むか……染みて痛いっ!


「あの……本当に大丈夫?」

「……疲れたからちょっと休ませて」

「あ、はい」


 HPゲージは……ああそっちはまだ余裕あるのか、『火傷Ⅱ』付いてるけどポーションで相殺出来る範囲かな。


 ……まだリザルトとかこの子の魔法についてとか色々確認したいことはあるけれど、それは今即座にする必要のない事で。


「休憩たーいむ……ここ、もうモンスター入ってこないから起きるまで寛いでていいよ」

「え゛……いやいやいや、あの、もしかしてここで寝る気なの?」

「数分。……大分脳味噌鈍ってんなぁ」


 多分、連戦に次ぐ連戦で見えない疲れが溜まっていたのだろう、暫く頭が動きそうにない。ので、合理的に考えてここは休憩するのが吉と見た。


 何に追われてるでも、命の危機がある訳でもない。

 所在無さげな少女を置いて、そうして私は静かに目を閉じた。

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