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二周目のサイコパス(二サイ)  作者: ニキ
一章:Fafnir Re:bellion!
13/17

VS.チャリオット①

 適当にエンカウントを処理しながら歩いて数十分、見通しの悪い視界を切り開き続けた(燃やし尽くした)先は不自然な空白地帯。

 木々の間隔が拡がって視線が通る……沢山の木に囲まれる森の中で、唯一ぽっかりと空いた樹木の無い平地。

 中心地点には一際目立つ大木がそびえ立ち、異様で神聖な雰囲気を作り出している、分かりやすいボスエリアの手前にて。

 一旦森林破壊を停止し木陰から中を覗けば、私達のターゲットは苛立たしげに大木で爪を研いでいる。


『【巨大熊】チャリオット:Lv30』


 うん、目ぇばっちし開いてるしなんなら臨戦態勢極まってるわ。寝とけよマジで、深夜だぞ今。


「……どうしよう、あの様子じゃ先制奇襲出来ないじゃん」

「……ひ、退()くというのは?」

「無し。しゃあないコヒメちゃんには覚悟決めてもらうか」

「な、なんの?」

「……狙われたら、頑張って逃げてね?☆」

「ちょっ」


 絶句してる様子の少女を置いて、さあ槍を片手に突撃だー!

 道中打ち合わせた私達の作戦はこうだ。


 ①寝てるだろうチャリオットに開幕先制でコヒメが魔法をぶち込む

 ②後はその場のノリ(アドリブ)で私がどうにかする

 ③トドメにコヒメが魔法をぶち込む


(①の後にコヒメが隠れてりゃ攻撃者が私と勘違いして安全なタイマン(・・・・・・・)に持ち込める手筈だったんだけど……)


「やほ(無邪気な刺突)」

『グァ!?』


 まぁ無理なら仕方ないので普通に()ろう。


 ()()()()()()()()()を終え、軽く縮地をパなして肩の高さで放った槍は、風を切ってボスの膝裏に直撃。

 毛皮を貫き抵抗を伝えたのはその分厚過ぎる筋肉。横へ裂くように穂先を切り抜けば、刹那に頭上から影が迫る。

 軸足起点に身を翻し、紙一重で躱した私の視界はどこまでも黒に染まっていて。

 爆音。爆ぜ飛ぶ地片が飛び散り、イかれた質量の暴力により世界が揺れた。

 その振動はかつての大猿の両拳より遥かに重く、そしてデカい。


 闇夜の中ですらよく分かる漆黒の威圧感。

 鍛え抜かれた筋肉が、荒々しい傷跡が、丸太のように膨れ上がってそこにいた。

 7mはあるだろう、余りにもデカすぎる熊。

 それは物理の具現にして、筋力の重戦車。

 ハリケーンすら小さく見える……このエリアに住まうもう一つの壁が、私の全てを巨影で覆う!


『グルアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』

「相も変わらずボスはみぃんなうるせぇな」


 開戦と同時にゲーム内BGMが鳴り始めた。大猿戦は熱気でスルーしていたアップテンポな曲調は、ジャズ風味の明るい高BPMが勇気と疾走感を煽る。

 幾度と無く聞いたデイブレのボス汎用曲。ボリュームを思考操作で下に調整すると同時、それを描き消す至近距離での咆哮。

 合わせて舌を軽く切って強制怯み(スタン)を極小のダメージ判定で解除、赤い血のような痰(ダメージエフェクト)を言葉と共に吐き捨てる。

 耳と口内からの痛みを殺意に変えれば、さぁ白兵戦の開幕だ。


(後衛とのダメージレースはMMOの花だよなぁ!)


 コヒメの火力は現状不明だが、妖刀カンスト+ボス武器で火力負けしたら廃人の名折れだぞ私?

 旋風のように切り込んで、跳躍を多用しすれ違いざまに斬閃を幾度も放つ。

 腰のランタンがカチャカチャ跳ねて、風圧にたなびくコートが私の軌跡を追う。

 夜闇を駆ける光と、それを塗り潰すような轟音。

 着弾する前脚の腱に穂先を捩じ込んで、タックルの側面から脇腹を派手に切り裂いて。

 数瞬前にいた座標が暴力的な筋力で破壊されて、足が止まれば死ぬなこれ!


「速度はハリケーンの方がキツイかなァ、代わりに範囲はあるけどまぁそれだけっ!」


 見るからにパワータイプなチャリオットのフィジカルはハリケーン以上ではあるが、されど小回りが効かない分差し込む隙には困らない。

 血飛沫のようなダメージエフェクト、それを自分から被りに行って!

 吹き荒ぶ風圧と、相対するように得た肉を切る感触。まるで鎧みてぇな手応えだな? (すじ)多過ぎて食べにくそう。

 姿勢を下げて力を足に、追撃を跳ね飛ぶように避け、すれ違いざまに連撃を叩き込む。

 手足のように舞う長槍。

 攻撃範囲ギリギリから、迎撃の尖兵を縦横無尽に削り取る。

 剛の拳をひらりと躱し、削ぐように閃光を走らせて。うーん正に"流"といった槍捌きだぁ、我ながら惚れ惚れする。


(あっ魔法来た)


 手に馴染み過ぎてさっきから最早何も考えてない。自動で殺意と回避を入力していた脳が、持て余した集中力で背後から迫る魔法を認識した。

 数はそれなり、圧は結構。私しか見てない熱視線に目を合わせて後は勘頼り。ステップで規則的なリズムを踏んで、1.2の3で縮地気味の超低空でのバク宙退避。


 移ろう視界で捉えたのは黒く燃える炎。槍の形を取る六本のそれらが私の顔面すれすれを通過し、チャリオットへ飛んで行く。


(初見。NPC専用かな?)


 空き手で無理矢理地面を掴んで上体を跳ね上げる。開脚して重心整理とブレーキを並行処理、同時間にボスに直撃するコヒメの魔法。

 文字に起こすなら『ちゅどーん』といった炸裂音を奏でた爆炎……吹き上がり方凄いなおい、ボスの半分以上燃えてない? わぁいたそ。


「ヘイトやばそー」


 まぁでも十分稼げてる筈だし問題無かろう。

 ライトアップされて見やすくなった火達磨に突貫、炎を振り払うように暴れる隙だらけの(すね)へとぐさり。

 肉を裂いて抉り込む刃先。捻りながら抜いて再度の刺突。刹那の間に繰り返してボスの痛覚をおちょくり、悲鳴とも絶叫とも取れる咆哮を響かせて──直後に迫る壁。

 トラックみたいな突撃を股下に抜けて回避し、追撃に備えて反転した私が捉えたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()

 ……うん?


『グガアアアァァァァァァァ!!!!!』


「は?」


「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 なんつーバ火力出してんのあいつ!? 私結構ヘイト稼いだ筈だよねぇ!?


「どうっ見てもッ! お通しのような技でしたよねぇアレ!? お前どんだけ高位の魔法使ってんの!?」

「ふ、普通の魔法しか使ってない! い、いつも使ってたやつしか使ってないってば!」

「じゃあなんでくまさんあんなにキレてんの?」

「知らないけど!?」


 知っとけよ。

 流石にあの勢いは不味いと縮地で急加速発進、チャリオットをギリで追い抜いてコヒメを確保、そして横っ跳び!

 直後に木々をぶち抜いて巨大熊が通り過ぎ、外れたと見るやこちらを……否、コヒメを憎悪の籠った目で睨む。

 ああこれ敵が増えたからちょっかい出したんじゃなく、ガチでコヒメに狙い定めて先に殺しに来てるやつだー。あれだけ私が殴っといて一撃でこうなるって一体どんな火力してるのこの子? ヘイトの取られ方が普通に不愉快なんすけど!?


「で、避けられそう?」

「む、無理ですぅ!」


 泣き言を言いよってからに。じゃあ私一生君を抱えて戦わなきゃいけないじゃん。クエストに派生しないから死んだら困るの私なんだけど?

 再度の肉弾。迫る壁。

 左脇に人間抱えながら躱すとなると無茶な態勢が取り辛い、反撃入れるのを泣く泣く諦め素直に距離を離して流す。

 あ、でも一撃入れれそう。後ろ脚の腱へとざしゅり。……ダメだ手応えがねぇ! 力が上手く伝わんねぇから刃が浅くしか埋まらねぇ!?


「チッ……『ヘイトエクスチェンジ』取得、『ヘイトアブソーブ』発動」


 しゃらくさい(イラついた)ので習得可能スキル一覧を展開、検索を入れて目当てのスキルを取得し説明も見ずに内包アーツを即使用。……弱職だからか本当に何でも取れるなサバイバー。

 瞬間、寒気がする程の殺意に襲われる。あは、やっとこっち向いてくれたじゃん!


「私のビルドはどこへ向かっているんだろう」

「きゃあ!?」


 本来タンク職くらいしか取れない筈のヘイト操作スキルで、コヒメのヘイトの半分を吸収してて思う。……HPとVITに下方補正入る職業で盾も持たず、なんで私こんなスキル取ってんだ?

 火力負けのストレス(衝動)と言ってしまえばそれまでだけど、冷静な理性は活躍機会が限定的(非効率)過ぎると訴えて止まなくて。

 そもそもからして何をされてる方なの案件ではあったけど、こっから私のビルドってどこに着地出来んだよ。タンクやるの? それは本能的に嫌だけど?


「──距離離す。合図したら魔法よろしく」

「……だ、大丈夫なの?」

「マージンはちゃんと取るよ」


 まぁでも効率には変えらんねえか。

 コヒメを投げ捨て身軽になった体で、物の見事に私目掛けて振ってきた剛腕を捌く。

 脳味噌集中してなくても勝手に動く体様々だな、戦闘経験カンストしてるのは伊達じゃねぇや。


「そもそもこの世界(ゲーム)来てからマトモに集中したことなんてあったか?」


 ハイキックを半身逸らして軽く避け、足の先から(もも)へと穂先でなぞる。

 切り抜けからそのまま跳ね上げ逆袈裟、槍が頭上を向いた所で下に落としながら手中で回転。

 荒々しいボスの横殴りを屈んで対処、低空での払いを合わせ、続く両腕の叩きつけにはサイドステップと突きで返す。

 あ、漸くいいの入った。腕マジで鈍ってるな、さっきからクリティカル出なさ過ぎでは?

 爪での連撃を視認、適当にステップを踏んで距離で避け。図体を活かした詰めのタックルは……引き付けて斜め前に躱し、すれ違いざまに数発ぶすり。

 風を切る音が耳を抜け、それを塗り潰すように豪風が鳴る。

 怒り心頭の巨大熊は出鱈目に吠え散らかして、呼応するかのように闇夜の大地は圧倒的"力"によって爆ぜ飛んで。

 実に野性的、嫌いじゃない。

 惜しむらくは技が一々大雑把過ぎて(高AGIキャラ)と相性最悪なことなんだけど。


(アブソーブ、リキャスト長くね?)


 戦闘は好きとは言え、感情が燃えない相手なら効率的な処理に徹するだけだ。


 クールタイム開け次第合図してとっととコイツ沈めよう。

スキル『ヘイトエクスチェンジ』

2つのアーツを内包するスキルで、それぞれ『自分以外の一人を対象に、自分のヘイトを押し付けるor対象のヘイトを受け取る』ことが可能。『ヘイトアブソーブ』は後者の効果を持つ


習得可能リストに並ぶ条件は『職業によるステータス補正の内、MP.STR.INT.VIT.MNDの合計が-2段階以上』であること

例えば高火力紙装甲の剣士や魔法使い等が自力でヘイト減少出来ないようにするための条件のため、微妙な補正の職やタンク職等が取得出来る(ゲームバランス調整)


サイコちゃんはヘイト稼ぎ(ダメージレース)で負けたのが我慢ならなくて取りました。癇癪が可愛いね

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― 新着の感想 ―
なんだその無理やりハイパーアーマーは・・・ サイコちゃんはそこらのガキより負けず嫌いって1番言われてるから可愛い
かっ可愛い・・・・・・?可愛いか・・・・・・可愛いかも(洗脳済み)
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