出会いと関係の始まり
更新再開
「うぅ……こ、ここどこぉ!?」
──何、コイツ?
それは椅子にしていた死骸が消えきったと同時にだった。
『べちゃり』と、割れた虚空から吐き出されたのは、私をして見覚えの無い少女。
ログアウト処理をしていた指が思わず止まり、見たモノについて反射的に記憶を掘るが……該当、無し。
「……は?」
そこまで認識した瞬間、閉店作業中だった脳味噌が一気に覚醒する。
状況で察するにこの子はイベントNPCだ、そこまでは分かる。だが、NPCの眷属化優良素体リストを全暗記してる私の記憶に、こんな子は存在しない!
記憶の漏れ? 有り得ない。よりにもよって最初期のマップでの遭遇だ、あのリストの性質上、この位置で話題に上がらない方がおかしいし。
──異常事態。
「君は──」
「うぇ!?」
口を動かして、はたと閉じる。
私に気付いてなかったのか、掛けた声に大層びっくりしてシュバっと振り返る少女。
暗がりをぼんやりと照らす余燼で伺い知れる顔色は、恐怖。
前世でクソほど向けられてきたそれに、果たして何と声を掛ければいいのだろう?
何言ってもお通しのようにお出される発狂か、震え声の罵倒しかされたことないんだよなぁと言葉に詰まる中、私の姿をちゃんと認識した少女は……警戒はしつつもほっとしたように息を吐いた。
……それはそれで癪だな?
「あ、あの……?」
「ああ、なんでもないよ。いやなに、急にこんな人気の無い深夜の森に現れたから驚いてね。転移の失敗か何か?」
「へっ!? いや、そのっ!?」
「初っ端『ここどこぉ!?』つっといて、下手な誤魔化しは効かないからね?」
「う゛っ……それは、そのぉ……」
ばつが悪そう。厄ネタ臭満載だな。
(……ふむ)
情報の整理と考察。
見てくれは悪くない。五体は満足、ただしボロボロ。さしずめ良家からの家出か、研究施設からの脱走といった所か?
イベントを踏んだトリガーは? 時間指定をたまたまは……流石に無いな。サービス初日の3~4時に深夜の森の特定地点とか条件があまりに終わってる。
ピンポイントで私の眼前に落ちてきたし、フラグは十中八九私自身。実績か称号か、或いは隠しデータが出現条件だろう。
そして……
「……どこか、行きたいところはあるかい?」
「……えっと、その、」
「あと三秒で答えなきゃ助けない。さーんにーいー……」
「あぁあのっ! 街にっ! 街に連れて行ってくれませんか!?」
「了解」
──クエストの表記がまだ出ない。
(事前交渉、又は関係値による派生? 正式な依頼になるまで受注者が確定していない、ユニークNPCによくある仕様だ)
何事かを話す少女を適当に聞き流し、思考に没入して記憶を探る。
普通、クエスト用のNPCは依頼の受注と共に生成される。汎用クエストが多数のプレイヤーに同時に大量受注されても破綻しないのはそのお陰。
反対に、ゲーム中一人しか存在しないユニークNPC──代表的なのは領主や姫様──は、あれらから依頼を貰うのなら、前提として関係を構築しているプレイヤーで無ければ不可能だった。
以上を総括、整理するなら現状は……
(この子の出現フラグを満たしたのが私。それがたまたまこの場所でクエスト化はまだ未確定。種類はユニーク以上は確定。芋づる式に、前任者が秘匿して失敗したと仮定するなら私が初見なのも説明付く)
「……あの、聞いてる?」
「ごめん、これからのプランを考えてた」
「あ、うん」
(……気に、なるな)
ログアウトの選択は興味関心の喪失からくるものだった。
二周目のMMO、それも初期装備でボスに勝てちまうような退屈な世界で、今私の目の前に居るのは──未知。
私の、知らない、モノ。
このクソみたいに知り尽くした世界で出会った、私だけが手にしている特別への切符。
例えるなら長年遊んだゲームで隠しコマンドが見つかり隠しステージが発掘されたかのような高揚感が、やる気という炉にニトロとなってぶち込まれる!
(もう少しやるか)
「君、名前は?」
「……コヒメ、です」
「私は彁、よろしく」
興味が湧いた。
萎えは遠く、好奇心は零距離に抱いている。
背景か、内容か。面白いかは知らねぇし、どうなるかの予測なんかは付かねぇけど……ただ、今、私はこの出会いが何処に行き着くのかが気になって仕方がない。
願わくば……
「……私の予想だにしない厄ネタだと嬉しいなぁ」
「? 何か言いました?」
「……別に。独り言だよ」
私の腰より低い位置にある頭のつむじを見ながら、口の中を無意識に飛び出た呟きが風に溶けて。
『こてん』と頭を傾げる少女に適当に返しながら、そうして私は暫くの暇潰しを得ることに成功した。
******
「──なんにせよ、ボスを討伐せんと始まらないか」
「……ボス?」
「この森を抜けた先に街がある。で、そこに入るには実力証明のボス討伐が必要。だから狩る」
思考の海から抜け方針を確定。
様々なプランを考えた結果、行先は第二街以外に無いと判断した。
理由その1、レベリングはしておくに越したことはない。
ユニークNPCの場合、イベントがどんな風に転ぼうと自動でレベルが上がることは無い。誰かに引き継ぐつもりが無い以上、この子を鍛えられるのは私だけだ。より良い狩場を得るためにも、森のボス攻略はさっさと済ませた方がいい。
理由その2、今ならプレイヤーが居ない。
リミットはあるが、正規ルートでボスを攻略するならあと二三日は掛かる筈だ。仮にこの子のクエストの発生が時間がかかる物な場合、他のプレイヤーと接触するだけ親密度が分散して私の受注確率が下がる。それだけは頂けない!
イベントの独占? 当然するが?
始まりの街に行く手もあるにはあるが、私に都合が悪いから却下だ却下!
「君、どれくらい戦える?」
「え、あ、えっ、とぉ……」
「お荷物了解」
「戦えますけど!?」
じゃあ最初からそう言えよ面倒臭ぇ、会話に慣れてないのか? 或いは抑圧的な環境で暮らしてたってとこ?
……『ハッ!?』として口を手で塞ぐ様子から見て多分後者かな、オロオロしてこっちの顔色伺ってるし。
「生i「魔法使いって認識でいい?」
「えっ!? あ、はい!」
「ならいいや。ヘイトは取るから好きにパなして、こっちで勝手に合わせるから」
「……あ、あの? 打ち合わせそれだけなの?」
「即興で連携なんて取れないでしょ。私ならどうにかなるし、どうにかするし」
別にこの子がいなかろうと妖刀カンストしてる以上、ソロでも何一つ問題無いし。こんなへっぴり腰でどれだけ戦えるか見れば、クエストの難易度のいい指標になりそうだ。
あ、ボスと言えばハリケーンのリザルト確認ほっぽったままだったや。
戦闘ログを再確認……うわぁ長ぇ、レベルも馬鹿見てぇに上がってるし。
(てかもう30レベル超えたのか)
……二次職、何にしようか?
『PN:彁 Lv31
種族:人間
職業:サバイバー
◼️ステータス
HP:0
MP:0
SP:0
STR:12→50(+50)
INT:0(+50)
VIT:0(+50)
MND:0(+50)
AGI:10→32(+50)
DEX:0(+50)
ステータスポイント:0
◼️状態
『妖刀』(全ステータス補正+50)
◼️習得スキル
職業『マッピング』『罠』『潜伏』『調合』『環境適応』『空間把握』『サバイバル』
技術系統『処刑』『武芸百般』
魔法系統『風魔法』『纏刃』
防御系統『被弾上限』
身体系統『STR強化』『AGI強化』『視力強化』『脚力強化』『集中』『加速』『疾駆』『跳躍』『軽業』
生産系統『合成』
特殊系統『虚空接続』『緊急召喚』『叛逆者』
◼️称号
『一騎当千』『エイプキラー』『夜明けの始まり』『夜明けの一等星』『冒険家』
◼️魔法
風魔法『エアハンマー』『ブラストジャンプ』
纏刃『エンチャント[炎]』『エレメンタルバースト』』
適当にやるつもりが、気付けば真面目にプレイしてて草生える。
こう、無気力だったり適当に生きてるようなキャラが無意識に未来のこと考え始めるの、見てて親のような気持ちにならない?(性癖の開示)
以下習得スキル
『処刑
クリティカル判定と範囲に補正』
『軽業
平衡感覚と身体能力に補正』
『武芸百般
あらゆる攻撃手段がより上達する
※このスキルは他の技術スキルより効果が低く、成長補正低下率が高い』
『纏刃
MPを消費し武器に属性を纏わせれるようになる』
『叛逆者
格上との戦闘中、全ステータス10%上昇』