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指揮系統はメチャクチャ

「魔王様!魔王様!大変でございます!」

 アドバイザーのグレゴリーが叫びながら近づいてくる。


「どうした?グレゴリー。何か問題が起きたのなら、担当者にまかせればいいではないか。そのために、経理やら軍事やら人材育成やら、それぞれの担当者を決めたのだろう?」


「それ、それ!問題はそこですよ!」


「そこ?どこだ?」


「だから、それぞれの担当者ですよ。みんな好き勝手やり放題で、指揮系統はメチャクチャ!経理の担当は予算をちょろまかして、私腹を肥やすし。軍事担当は、自分の好きな国を攻めに行っては人間たちに返り討ちにあい。育成担当は、ひいきをして特定の人材しか育てようとしません!」


「な、な、な、なんだって!?」


 僕が自分の修行に明け暮れている間に、みんな好き勝手やってくれたらしい。

 “それぞれの得意分野を生かし、担当者を決める”というやり方自体は悪くなかったのだが、どうやら人選を誤ったようだ。


「仕方がない。もう1度やり直しだ。これからは、試験を行い、適性のある者をしかるべき役職につかせる」

 僕はそう命じたが、グレゴリーはまだ不満そうだ。


「能力の問題だけではありません。肝心なのは“誠意”です。正しき心を持っていない者が上に立てば、何度でも同じことが繰り返されるでしょう」


「ウ~ム…誠意に正しき心ねぇ」


 元々、魔王軍というのは荒くれ者どもの集まりだ。

 “誠意”とか“正しき心”とか“真心”とか、そういうのとは縁遠い存在。これが人間の組織であれば話は別だろうが…

 いや、仮に人間の組織であったとしても、時間と共にやはり腐敗していく。組織というのは、そういうものなのだ。


「結局、管理が必要というわけか…」


 あちらを立てればこちらが立たず。

 管理し過ぎれば、自分の時間は失われ、オマケに部下たちからも不満がもれる。

 かといって、全く管理しなければ、みんな好き放題やって組織は崩壊する。

 何ごともバランスが大切というわけか。


「それにしたって、以前と同じやり方に戻せば、以前と同じ問題が発生する。どうすりゃいいんだ?」

 僕はため息まじりに不満の声を上げた。


「では、まずは“人事担当”を決めてはいかがですかな?」

 グレゴリーが提案してくる。


「人事担当?」


「そうです。魔王様は、人事担当1人を任命する。この人選は徹底的に吟味して行います。そうして、その者が残りの担当者全てを管理する」


「その人事担当者とやらが、無能だった時は?」


「だから、人選が重要なのですよ。それに、あとからクビをすげかえることもできます。もちろん、その他の担当者も決定権は魔王様にあります。人事担当は、魔王様に進言するのみ。とはいえ、人に精通していなければなりません」


「フム。なるほどな」

 そのアイデアは悪くないように思えた。


「いかがです?」と、グレゴリー。


「で、誰にする?お前はできないのか?グレゴリー」


滅相(めっそう)もない!わたくしめは単なるアドバイザー!基本的なあれやこれやは語れても、その先は無理!人事には人事にたけた専門家が必要にございます!」


「わかった。じゃあ、せめて、それらしき人物をピックアップしてくれ。お前の目から見て『これは!』と思える人材だ。いや、誰の目から見ても明らかに人を見る目のある人物だ。いいな?」


「ハッ!おおせのままに!」


 こうして、僕は魔王軍の人事担当を選ぶことになった。


         *


 ペラペラと書類をめくりながら、僕はつぶやく。

「どれもこれも一長一短って感じだなぁ。言っちゃ悪いけど、理想の人材は見当たらないな」


「それは仕方がないことでございます。何ごともリスクとメリットは表裏一体。すぐれている部分があれば、劣っている部分もある。それらを総合的に判断して決断なさいませ」

 アドバイザーのグレゴリーが、頭のてっぺんのハゲた部分をキラリと光らせながら言った。


「何ごともリスクとメリットねぇ。ヨッシ!とりあえず面接してみよう!魔王軍における理想の人事担当を決めるために!」


 ゴブリンの軍事長官、1000年以上生きている魔術師、偉大な知識が頭の中いっぱいに詰まっているドラゴン…などなど。

 僕は片っ端から面接していったが、どうにもピンとこない。


「なんていうか、こう…もっと頭の切れる感じ?冷酷で、賢くて、目的のためにならば手段を選ばない的な。そういうのいないの?」


「頭脳明晰な方なら、これまでにも何人もいたでしょう?」と、グレゴリー。


「けど、みんなピントがボヤケてるっていうか。『人事担当になったら、お給料が跳ね上がるんでしょ?』とか『人事の特権を使って、自分の好き勝手に部隊を編成してみせる!』とか、そういう野心的なのばっかりなんだよね」


「野心は必要にございます」


「そりゃ、そうなんだけど。方向性が違うっていうの?その野心を別の方向に向けてもらいたいんだよね。『お国のためなら我が命要らぬ!』みたいな」


 あたりまえといえば、あたりまえなのだけど。

 魔王軍に所属するメンバーは、誰も彼も自分勝手なのだ。

「せっかく生まれてきたんだ。戦場で活躍して、うまいもん食って、かわいい女の子を抱いて、おもしろおかしく生きてやる!」みたいなタイプが多い。

 あとは「ひたすら魔術を極めてやる!」とか「誰も見たことのない最強の合成魔獣を作り上げてやる!」といった研究者タイプとか。


 いや、どちらも魔王軍には必要なのだ。人間たちと戦うには、どうしたって前線に出て戦う者が要るし、研究開発でより強力な魔法や魔物も生み出して欲しい。

 ただ“人事担当”となると話が別だ。もっと冷静に物事を判断し、自分の夢や希望を脇に置いておいてでも、仕事をまっとうできる能力が要る。


「では、少々リスクは増しますが、別の者たちを紹介いたしましょう」

 グレゴリーが提案してきた。


「別の者?リスクは増す?一体どういう…」

 つぶやく僕に、グレゴリーはある書類の束を手渡した。


「こ、これは…」

 僕は目をまん丸にして驚いた。

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