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「世界の終わり」(最終回)

「もう限界だ!これ以上この世界では何もできない!」

 魔王である僕が叫ぶと、天がパックリと割れて、そこから声が聞こえてきた。女性の声が。


「もう限界なのね?」


「ああ、そうだ」と、僕は答える。


「もうおしまいなのね?」


「ああ、そうだ!」


「本当に本当に終わりでいいのね?」


「終わりでいい!」


「わかった。じゃあ、帰ってきなさい」

 女性の声と共に、僕は天の割れ目へと吸い込まれていった。


         *


 気がつくと、そこは部屋の中だった。

 見覚えのある自室。僕の部屋だ。もちろん、魔王でもなんでもない。ただ1人の平凡な少年の部屋。


「そうか、帰ってきたのか…」

 その瞬間、僕は全てを思い出した。


「おかえりなさい、テオ」と、先ほどの女性の声がした。


 声のした方を振り向くと、そこにはホウセンカが立っていた。

 ホウセンカは僕専用の女性型AI。見た目は人間と変わらない。だが、実際には単なる立体映像だ。


「随分と長かったわね。今回の旅は」


「ああ、そうだね。随分と長かった。一体、何年いたんだろう?あの世界に?」

 僕は、ホウセンカに向かってうなずきながら答える。


 そう!

 勇者も、魔王も、魔物も、それ以外の種族たちも、みんなみんな仮想世界の上に作られた存在だったのだ。

 一番最初にあの世界に降り立った時に、こちらの世界での記憶を全部忘れるように設定しておいた。その方がリアリティが増し、心の底から楽しめるから。


「随分と好き勝手やったみたいね?」

 AIホウセンカがたずねてくる。


「全部見てたんだろ?」


「まあね」


「好き勝手やらせてもらったさ。勇者もやったし、魔王もやった。軍隊を指揮して特攻させたり、人間たちの街や国を滅ぼしたり。魔王の城をラビリンス化し、襲ってくる冒険者たちを撃退し、それからそれから…」


 それから、人間の街に遊びに行って、世界を救う会に参加し、仮面の剣士として活躍し、魔界と人間界の和平を成立させ、そこから先も冒険は続いていった。

 だが、もうやり尽くした。あの世界でやるべきコトは全部やった。限界だった。

 最後に僕が叫んだ言葉はウソじゃない。心の底からの叫びだ。


「じゃあ、満足したのね?」


「ああ、満足した。心は満たされたよ」

 僕はそう答えながら、頭の中はまだボンヤリとしていた。まだ現実の世界に適応し切れていないのだ。


(さっきまで暮らしていた世界の方が真実で、こちらの世界の方が仮想ということはないだろうか?)

 そんな風に考えたりもする。


 そもそも、本当にあそこは偽物の世界だったのか?

 無数にある並行世界の1つで、今も現実に存在し、人々は自分の生活を営み続けているのではないのか?

 どちらが偽物などということはなく、両方とも本物なのでは?

 あるいは、僕が暮らしているこの世界だって、どこかの誰かが作った空想世界に過ぎないではないか?


「だけど、僕にそれを確かめる(すべ)はないか…」


「ん?何の話?」と、AIホウセンカがたずねてくる。


「いや、たとえばここが誰かの作り出した仮想世界だとして、それを確かめる方法は僕にはないのだなと思って」


「そうねぇ。この世界で作り出された技術ならば、いくらでも証明のしようがあるわ。私にだって、そのくらいの能力は与えられてる」


「けど、未知の技術で作られていたら確かめようがないわけだろう?僕らよりも上位の存在…そう、言うなれば“神様”のような存在がいたとして、その神様が僕らには理解できないような科学技術だとか魔法だとかを使って、この世界そのものを創造していたとしたら」


「それは無理ね。いずれ人間もその領域にまで進化できるかも知れないけれど。現時点では、この世界が仮想空間かどうか見破ることはできない」

 ホウセンカは投げ捨てるように答えた。


「それに、人間が現時点より進化したとして、さらに上位の存在はいるかも。神様を作った神様。その神様を作った神様。さらに、その神様を…まったくもってきりがないな」


「そうね。でも、それは本当に問題なのかしら?」


「ん?問題はない?僕が現実に存在していようが、空想の産物なのか、どちらでも関係がないというのかい?」


「そうよ。だって、どうせ認識できはしないんでしょ?自分が現実に生きているかどうか確証がないのであれば、一生懸命に生きていくしかないじゃないの」


「なるほど。そりゃ、そうか…」


 ホウセンカの言うコトももっともだ。

 どうせ証明しようがないんだったら、気に病む必要もない。

 向こうの世界の人々だって、そうだったじゃないか。自分が仮想世界の存在であるとも知らずに、ただ一生懸命に命を大事にしながら生きていた。

 ならば、僕もそれを見習うべきか。


「まったく君はいいコトを言う。AIってのは実に賢いよ。僕ら人間よりも賢いくらいだ。もしも、神様なんてものが本当に存在するとしたら、きっと君みたいな者なんだろうね」

 そう言って僕は手元のデバイスを操作して、ホウセンカの姿を消した。

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