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地獄のコック長との会話

 かつての旧魔王城は観光地化し、巨大なラビリンスはアトラクション化してしまった。遊園地みたいなものだ。

 平和な世の中に危険な武器や兵器は似合わない。


 新魔王城の方は、相変わらず魔王である僕の根城となってはいたが、それでも昔に比べると随分と武装解除された。今や政治の中心部となっている。人間たちの出入りも激しい。

 もちろん、アナジルの解き放った凶悪な魔物たちが世界各地に潜伏してはいたが、人間と魔物が協力し合っているのだ。数の少ない彼らは、それほどの脅威とならなかった。


「人間の文化を取り入れて、料理もえらく変わりましたよ。味つけも食材も、いろいろと学ぶものがありましたぜ」と、地獄のコック長。

 地獄のコック長は山羊の頭をした人型の魔物だ。


「そうか。学ぶモノが多かったか。それはよかった」

 魔王である僕は答える。


 料理だけではない。

 魔法も剣術も、人間と魔物が情報を交換することにより、さらなる発展を遂げた。

 特に魔法に関しては、戦闘よりも日常で使えるような利便性の高いものの研究が進んでいる。


「今や、掃除や洗濯も魔法で簡単にできる時代になったからな」


「便利な時代になりましたよ。皿洗いも昔みたいに手間と時間をかけなくともサッと終わらせられる。下働きも、料理よりも魔法を熱心に覚えるくらいですから」

 地獄のコック長が僕の言葉にうなずきながら答える。


 そう。便利な時代になったものだ。

 移動魔法も発達し、人間界から大量の食料や物資が運ばれてくるようになった。

 代わりに魔界からは力の強い魔物たちが、人間界へと出稼ぎ労働に出たりしている。


 力の強い魔物だけではない。頭の切れる者。風や炎を自由自在に操る者。皆がそれぞれの特技を生かして働いている。

 人間界も魔界も関係なく、今や人間も魔物も混在して生きているのだ。


「だが、その一方で全てが平均化してつまらなくなったとも言えないか?」

 僕は自分に問いかけるように言った。

 その言葉に地獄のコック長が答える。


「どうでしょうね?そりゃ、昔の方が個性派あったかも知れませんがね。それでもやっぱり、便利になった今の世の中の方がアッシはいいと思いますがね」


 地獄のコック長の言葉に、僕はうなずきながらも、頭の中では別のコトを考えていた。


 アブジルの言っていたこともよくわかる。

『人間と魔物が協力し合い、退屈な世の中になる。そんな結末は許されない。だから、世の中を混乱させておもしろくしてやる』と。


 確かになぁ…

 退屈さから魔王になった僕だ。その気持ちは痛いほどよくわかる。

 戦争ほどおもしろいモノは他にはない。争いは最高のエンターテインメントだ。だが、それは不毛な争いでもある。


「混乱して刺激的な世の中と、安定して退屈な世の中と、どちらがいいと思う?」

 今度は明らかに地獄のコック長に向けてたずねた。


「どうでしょうね?アッシも魔物の一種ですから。戦いに血が沸く気持ちはわかりますぜ。魔王様が戦場に行けとおっしゃるなら、今すぐにでもここを飛び出して、包丁片手に戦いましょう。けど…」


「けど、今の生活も捨てがたい?」


「そうですねぇ。安定という名の食事は、1度味わうとクセになる。なかなか捨てがたいですねぇ」


「だな」

 そう答えながらも僕は、ぬぐいきれない一抹の不安のようなモノを感じていた。


『人間と魔物が手を取り合って平和に生きていく?それでは、戦乱も何もない。退屈この上ない世界ではありませんか』

 頭の中で、アブジルの言葉が何度もリフレインしていた。

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