魔界監獄開かれる
「魔王様、大変です!」
人間と魔物たちの和平を実現しようと、魔王城にて開かれた第1回会合。
皆が和気あいあいと豪華な食事に手を伸ばす中、突然大広間に衛兵が駆け込んできた。
「何ごとか!?」
魔王である僕はたずねる。
「大変です!魔界監獄が開かれました!」
「魔界監獄が開かれただと?」
僕は衛兵の言葉を繰り返してたずねた。
「ハイッ!監獄に収監されていた極悪人どもは一斉に逃げ出しました!今や、魔界のあちこちあるいは人間界にも潜伏し、反乱をたくらんでるやも知れません!」
その時だった。
空中にアナジル・アジルトンの姿が映し出されたのは!
これは通信の魔法。いわば立体映像の一種だ。
「アナジル!?」
僕は驚いて声をあげる。
アナジル・アジルトンは、魔界の人事長官であり、軍師である。
彼のおかげで、これまで僕の仕事はどれほど軽減されてきたことか。そういう意味では、どんなに感謝しても感謝しきれない。
「魔王様、お気に召していただけましたかな?」と、空中に浮かんだアナジルの映像が語りかけてくる。
「まさか、魔界監獄を開放し、極悪人ども世に放ったのは…」
「そう。私ですよ」
僕の言葉をさえぎるようにアナジルは答える。
「なぜ、そんなバカなコトを?」
「なぜ?バカなコト?バカなコトをされているのは、魔王様の方ではありませんか」
「どういうことだ?」
魔王である僕は問い返す。
「最初に申し上げたはずですよ。私を退屈させないで欲しいと。それなのに、なんですか?この結末は?人間と魔物が手を取り合って平和に生きていく?それでは、戦乱も何もない。退屈この上ない世界ではありませんか」
「それは…」と、僕は二の句が継げない。
「だから、私がおもしろくして差し上げたのですよ」
「それにしたって、こんなやり方!」
「こんなやり方ですと?魔王様の方こそ、このようなやり方で本当に世の中がおもしろくなると思っておられるのですか?」
「なるさ!おもしろくなる!してみせる!戦争など起こさずとも、健全な競争で世の中はおもしろくなっていく。魔物も人間も関係なく、切磋琢磨していけさえすれば!」
「なるほど。“健全な競争”ねぇ。では、対決いたしましょう。この私のやり方と、魔王様あなたのやり方と、どちらが正解なのか?」
アナジルはそう言って不気味な笑いを見せると、通信の魔法を切った。
わずか5分やそこらの出来事だったが、大広間はザワついている。
それはそうだ。これから人間と魔物が協力してやっていこうという晴れの門出の日に、魔界から裏切り者が出て大混乱になっているのだから。
「安心してください!確かに、魔界にも和平に反対する者はおります。おそらく、人間界にも。だが、最初から困難があることはわかっていた。何もかもがいきなりうまくいったりはしない。それでも、長い時をかけて、共に手を取り合える環境を整えていきましょう!」
魔王である僕は叫んだ。
うおおおおおおお!と、大きなうねりのような賛同の声が大広間に響き渡る。
それから食事会は再開された。
地獄のコックたちの出す料理は人間たちの舌をうならせ、賛辞の声があちこちから聞こえてくる。
食事会のあとに催された会議も滞りなく進んだ。
むしろ、アナジルの反乱の報が伝えられる前よりも結束力が強まったくらいだ。
「何にでも反対者はいますよ」
「な~に試練が大きければ大きいほど、目的を達成した時の充実感もまた大きくなる」
「魔界と人間界、共に手を取り合って生きていきましょう!無論、健全な競争は残しながらね」
などと、人間も魔物も口々に語る。
皮肉な話ではあるが、アナジルの行動は人間と魔物たちの和平を急速に進める起爆剤となっていくのだった。




