人間と魔物たちの和平会談
世界は、魔物に満ち満ちていた。
魔物たちを退治するために、冒険者が生まれた。やがて、冒険者は賞金稼ぎとなり、1つの職業として定着していく。
最終的に、魔物の王である魔王を倒せば、この世界は救われると信じられていた。だが、そうはならなかった。
魔王を倒しても、新たな魔王が生まれるだけ。かつての勇者が魔王となり、そうやって順繰り順繰り世界は回っていくのだ。
そして、今度は“世界を救う会”
人間たちは魔物との和解を夢見て団体を作った。
最初それは小さな小さな会だった。ところが1人の人間の加入で自体は大きく変わる。単なる夢物語は途端に現実味を帯びる。
時は過ぎ、小さな小さな会は、巨大な組織へと成長した。
今や世界を埋め尽くしているのは、人間たちの方だ。
「さて、時は来たようだ」
僕は魔王の城の大広間にある玉座から立ち上がって言った。
今日は、人間と魔物これまで敵対し続けてきた者同士が和解へと向けた第1歩を進める日。そのための会合が開かれる日だ。
「正気ですか?魔王様?人間どもと和平を結ぶとは!」などと言われて、反対も多かった。
だが、僕は本気で説き伏せた。
「このまま不毛な争いを続けていて何になろう?時代は変わったのだ。あと何十年、何百年この戦いを続けても終わりはない。終わりは協調のみ。魔物と人と手を取り合って生きていく。それしかないのだ。ならば、早い方がいい」
そう言って僕は、魔界の反対勢力を根気よく説得していった。
そうして、ようやく和平会談を開くところまでこぎつけた。
「さあ、時は来た!食事の準備をしたまえ!」
命令に従って、地獄のコックたちが腕を振るい始める。
次から次へと大広間へと運ばれてくる料理。運んでいるのは、背が低く小さな魔物たち。戦場では役に立たずとも、このような場所では充分に力を発揮できる。
背の高い者、低い者。
力の強い者、弱い者。
賢い者、頭の劣っている者。
素早く動き回れる者、鈍重な者。
それぞれに長所があり短所がある。
人間も魔物も同じ。
自分の長所を生かし、他人の短所を補う。
そうやって一致団結して生きていくことこそが、理想の世界ではないか。
理想世界を実現するため、大きな一歩を踏み出す。
今日は歴史に残る日となるだろう。
人間たちが続々と大広間へと入ってくる。
先頭に立つのは、世界を救う会の副官であるリーベ。リーダーのテオはいない。
それはそうだ。テオは僕自身なのだから。
(魔王様。これは、大きなチャンスですぞ。目の上のたんこぶである世界を救う会。その一味を一網打尽にできる大チャンス。さすがは魔王様、これが用意していた“策”でございますね)
そっとグレゴリーが耳打ちしてくる。
もちろん、そんな気は毛頭ない。
僕はあくまで人間と和平を結ぶ気なのだ。だが、確かにグレゴリーの言う通り大きなチャンスではある。
ここで手のひらを返し、奴らを全滅させるという手だってあるのだ。
(ゆめゆめ選択肢をお間違えになさらぬよう…)
そっとつぶやいて、グレゴリーはしりぞいた。
「本日はお招きいただきありがとうございます。最初に申し上げておきたいのですが、私たちのリーダーは出席できません。急にどこへやら消えてしまって…」
リーベが言った。
「ウム。そのコトはいい。それよりもさっそく食事にしよう」
僕は答える。
パッと場がなごやかな雰囲気に変わる。
全員がテーブルに着き、魔物も人間も入り交じって和気あいあいとした会食になる。
「今日この日から平和な世の中が始まるといいですね」
隣に座ったリーベが話しかけてくる。
僕はその質問には答えず、代わりにこうささやいた。
「リーベ。何か気づかないか?」
しばらく考えてから、ハッと表情を変えるリーベ。
「あなた、まさか…」
もちろん僕もすぐには気づかれないように、姿を変えている。
変身の魔法は得意だ。だが、それでも僕のあげたヒントと普段からの雰囲気で彼女も察したようだ。
自分たちのリーダーと魔王が同一人物であることに。
その時だった。
大広間に衛兵の大声が響いたのは。
「魔王様!大変です!一大事にございます!」




