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肥大化する世界を救う会

 世界を救う会は、街から街へ、国から国へと伝わっていき、メンバーを増やし、賛同者を増やし、やがて怒濤のうなりとなって人間界を埋め尽くした。

 その基本思想は“和解”であり、魔物たちを退治することではなかったが、それでも魔界の住人たちは恐れおののいた。


「魔王様!魔王様、大変でございます!」

 アドバイザーのグレゴリーが玉座のある大広間へと駆け込んでくる。


「どうした?グレゴリー。そんなに慌てて」


「魔王様はご存じないのですか?人間界で流行している“世界を救う会”を」


「なんだ、そのコトか。奴らは何もできはせんよ。勇者どもとは違っていて、ただ平和を訴えているだけの頭がお花畑の集団に過ぎん。捨て置け、捨て置け」


「ですが。人数的には見過ごせない数にふくらんでおります。このまま放置していては、やがて我々にとっても脅威となりましょう」


「大丈夫だって。何も問題はない。何もな」

 それはそうだ。今や世界を救う会のリーダー的存在となった“仮面の剣士”は、僕自身なのだから。


 すでに世界は僕の手のひらの上にある。

 今後どうするのか?人間たちを扇動し、魔界に攻め入るのも。あるいは逆に、人間たちをだまし討ちにし、魔界から大量の魔物たちを送り込むのも自由自在。


 だが、僕はどちらの道も選ぶ気はなかった。

 そう!世界を救う会のかかげているメッセージ通り、真正面からドストレードで勝負する気なのだ!


「魔王様がそうおっしゃるなら、私めから申し上げることは何もありません」

 グレゴリーが言った。


「なら、黙っておけ」


「ですが、このまま進めば、魔界は滅びかねませんぞ」


「くどい!魔界の王は誰ぞ?魔物たちを()べ、強固な軍団を作り上げたのは誰ぞ?」


「それは魔王様に他なりません…」


「その魔王に逆らうというのか!ならば、まず首を斬られるのはお前となるぞ!グレゴリー!」


「いえ、めっそうもない…」


「もういい。下がれ。この件に関しては私に考えがある。全て私の指示通りに従っておればよいのだ」

 僕がそう命じると、グレゴリーが小声でつぶやくのが聞こえた。


(やれやれ。この魔王様も、もうあまり長くはもたないか…)


「ん?何か言ったか?」


「いいえ、何も」

 そう答えて、グレゴリーはそそくさと退散していった。


         *


 それから、しばらくの時が過ぎ、世界を救う会はさらに勢力を増していった。

 そうなってくると、人々の意見も変わり始める。


「このまま、人間と魔物たちの和解を目指していていいのだろうか?」

「そうだ!そうだ!今や、我々も大きな力を得た!」

「これだけの人数、これだけの規模の組織があれば、魔王軍だろうが何だろうが一気に制圧できるんじゃないのか?」

「武力を求める時が来たのかも知れんな。護身術などではなく、徹底的に敵を殲滅し、追い詰め、支配下に置くような力が」

「だけど、それだと本来の教義に反しない?あくまで私たちが目指してきたのは平和な世界よ。それをわざわざ戦乱の世の中に向かっていくだなんて…」


 議論は尽きない。

 今や優秀な副官となったリーベが、組織のリーダー的存在となった僕に向かってたずねてくる。


「ねえ?テオはどう思うの?みんなの言うように、武力を手に入れて魔界に攻め込んでいった方がいい?それとも、元々の目的通り和解を目指す方がいいと思う?」


「フム…」と、僕はわざわざ間を置いて考える姿を見せる。

 もちろん、最初から結論は決まっているのだが。


「そうだな。確かに力は必要だ。軍備を整え、より強力な魔法を覚え、魔王軍に対抗できるほどの軍隊を作り上げる。それもいいだろう。『力なき正義は無力』とも言うからな」


「なら…」と、口を開きかけるリーベ。


 僕はそれを制しながら答えた。

「だが、正義なき力もまた意味を持たない。あくまで目的は人間界と魔界の和平。和解を目指そう!魔王と交渉するのだ!そのために最低限の軍備も整える。交渉が決裂した時のためにな!」


 うおおおおおおお!と、地鳴りのような歓声が上がった。

 人々は熱気に満ち満ちている。こういう時の人間は成長が早い。人は何か目的を持ち、1点に向かって突き進む時に最高の力を発揮する。

 事実、これ以降、世界を救う会を中心として、人間たちは剣に魔法に体術にと、短期間で劇的な成長を遂げていった。

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