人間と魔物の間での二重生活
僕がメンバーに加入して、世界を救う会の面々は喜んでくれた。
特に、最初に僕を勧誘したリーベは。
「あなた天才だわ!私たちに足りなかったのはあなただった!あなたが来てから買いは一気に進展した。計画が現実味を帯びてきた。ついに最後のマスターピースが埋まったのよ!」
僕はリーベの言葉を聞いて、少し照れた。
こんな感覚はいつ以来だろうか?
そう!昔、人間の勇者として世界のために戦っていた頃以来だ。
「へへへ、まあね。けど、僕ひとりでは世界は救えない。君たちの力も大いに必要だ」
僕は照れながら答える。
世界を救う会の活動は順調だった。
順調に会員数を増やしていき、メンバーの士気も上がっている。
僕は、仲間となった荒くれどもに基本的な剣術や体術も教える。
だが、それは戦争のためではない。あくまで和解のため。最低限、自分の身を守るためだ。
それに加えて、僕には魔王としての仕事もあった。
相変わらず魔王城に攻め込んでくる勇者たちの相手もしなければならないし、決断しないといけない案件や出席しなければならない式典や会議などが目白押しだ。
「魔王様。そろそろ新魔王城の完成が近づいてきております。必要な荷物の搬出・搬入や、築城式典の準備など、スケジュールはいっぱいいっぱいですぞ」
アドバイザーのグレゴリーが口うるさく言ってくる。
「わかってる。わかってるよ」
僕はぶっきらぼうに答える。
「なのに、魔王様は最近どこへやらフラフラと遊びに出かけてばかり。魔王様としての自覚が足りませんぞ」
「わかってるって!最低限の仕事はこなしてるだろう!」
「最低限では困るのですよ。最大限でなければ。油断なされていると、今に足元をすくわれますぞ」
グレゴリーの言っていることはもっともだ。
だが、僕には人間と魔物たちの架け橋となるという役割がある。それも、黙ってやらなければならない。一言でももらせば、人間軍からも魔王軍からも袋だたきに遭う可能性が出てくる。
それだけは絶対に避けなければ…
グレゴリーだって信用ならない。
以前は「人間と魔物たちの和解。それも1つの道でございましょう」などと言っていたが、それが本心かどうか。それに、いつ気が変わらないとも限らない。
そもそも、グレゴリーは信用できても、そこから他の者たちに知られて、新たな反逆者を生むかも知れない。
ことは慎重に進めなければ。
しだいに僕は、人間界と魔界を行ったり来たりの二重生活にのめり込んでいった。
(これはこれで悪くないな…)
単調な暮らしに飽きかけていた僕にとって、2つの世界を行き来する多忙な生活スタイルは、人生に張りを生んでくれた。
(まるで高難易度のゲームをプレイしているみたいだ。実は、僕にとってはこういう暮らしの方が性に合っていたようだ)
最初は、人間と魔物たち相容れぬ者たちをどうまとめるのか悩んでいたりもしたが、実際に両方の暮らしを体験してみると共通点も多いことがわかる。
僕のような存在がどんどん増えていけば、いつかは完全に和解する日もやって来るのではないだろうか?
ただし、困ったこともあった。
たとえば、世界を救う会の活動に参加している時に、魔物に遭遇した場合だ。
この場合、僕はどっち側につけばいいのだ?
幸い、末端の魔物たちは魔王の顔を知らないようで、戦闘に突入したからといって、怪しまれることはない。
それでも、適当に攻撃して魔物の方から逃げてくれるように仕向けるのは骨が折れた。
(やれやれ、全力を出して相手をコテンパンにするは得意なのだが。手加減して傷つけないようにするのは大変だなぁ…)
戦闘中、僕はよくそんな風に思った。
しばらくして、僕は人間界で生活する際、マスクをかぶるようになった。
仮装舞踏会でつけるような人形の顔を模した派手なマスクだ。これで、万が一にも魔王の顔を知るような上級モンスターと出会っても安心だろう。
それにしたって、いつかは限界が来る。
組織が大きくなればなるほど知名度は上がっていき、僕の名も知られていくだろう。
いつしか僕は“仮面の剣士”として、魔物たちから恐れられるようになっていた。




