世界を救う会
小屋の中にいたのは人間の男女。
若者もいれば老人もいる。
「アレアレ?新しいお仲間さんですかな?」
老婆が言った。
「まだわからないのよ。けど、見どころがあると思って」
ここまで僕を案内してくれた女性が答える。
彼女の名はリーベ。ここは“世界を救う会”なのだという。
おのおのが自己紹介を終え、僕は適当な名前を語った。
「僕はテオ。しがない冒険者をやっています」
その名は、かつて僕が勇者時代に使っていた名だった。
「よろしくね、テオ君。さっき簡単に説明したように、私たちは世界を救うために活動をしているの」と、リーベ。
「具体的には?」と、僕は問う。
「具体的には…そうねえ。人間と魔物の和解を目指しているの。最終的には魔王とも和解して、人間も魔物も差別なく平等に暮らせる世界を作りたいと思ってる」
「素晴らしい!」と、僕。
「でしょ?」
リーベは途端に笑顔になる。
先ほどまでつぼみだった花が美しく咲いたみたいに。
「けど、現実味がない。実現できるのかい?その夢は?」
「そこなのよね…」
花は途端にしぼむ。
「だけど、最初からあきらめていたら何もできないでしょ?どんな偉業だって、最初の最初はチッポケな計画から始まったの。夢や希望という肥料があれば、いつかその計画は実現する!」
「かもね」
僕はそっけなく答えながら、それでも過去の自分を思い出していた。
そういえば、僕が勇者となり、魔王を倒そうと誓った日だって、最初はチッポケな計画に過ぎなかった。
レベルだって低かったし、無謀な夢に過ぎなかった。誰もがバカにし、鼻で笑った。
だが、結果的にその夢はかなえられた。
「だから、あなたにも協力してもらいたいのよ、テオ」
僕はしばらくの間、考えた。
(正直、無謀だよ。彼らの計画は夢物語だ。ほんのひとひねりで魔王軍に握り潰されてしまうほどに。だが、その魔王軍が味方についたら?当の魔王本人が協力者となったら?)
「いいだろう。君らに協力しよう」
「やった~!」
小屋の中に歓声が上がる。
「バンザ~イ!」
「また1人仲間が増えたぞ!また1歩夢に近づいた!」
「いける!いけるぞ!オレたちはやれるんだ!」
小屋の中に、世界を救う会のメンバーたちの声が響き渡る。
(なんと無邪気なのだろうか?逆を言えば、なんと純真なのか?)
僕はあきれると同時にある種の感動をも覚えていた。
さて、ここで僕には選択肢が与えられた。
1つは、彼らから情報を抜き取れるだけ抜き取って、最終的に魔王軍の◆を送り込み全滅させる道。
もう1つは、言葉通り彼らに協力し、最終的に魔物と人間たちの和解を探る道。
どちらを選ぶべきだろうか?
現実を考えれば、答えは1つしかなかった。
組織が小さなうちに叩き潰しておくのだ。テーブルの上で羽を休めているハエを潰すように。
だが、僕はもう一方の無謀な計画の方に魅力を感じていた。
(そもそも僕が魔王を受け継いだのはなぜだった?あのまま勇者として凱旋して、人間たちから英雄とあがめられる道を選ばなかったのはなぜだった?)
退屈だったからだろう!
ならば、今回もどちらを選ぶかは決まっている。
より退屈を紛らわせてくれる選択肢の方だ。
「人間と魔物の和解か…」と、僕はつぶやく。
「そうよ!素晴らしい夢でしょ?一緒にかなえましょうね!」
そう言ってリーベは、僕に抱きついてきた。
(そうだ。これだ。これなんだ。僕の人生に足りなかったのは。退屈を紛らわせてくれる未知の出来事。世界なんてどうなったって構いはしない。魔界も人間界もどうでもいい。ただ、一番おもしろそうな道を選ぶ。それだけだ)




