和解への道
僕はまた1人で人間界へ遊びに出かけるようになった。
もちろん、魔王ではなく人間の姿で。
肉体の強化手術は、僕の体をどんどんバケモノ化させていった。
だが、普段からその姿でいると疲れる。だから、あえて何でもない人間の姿を取ることで力をセーブする。
そういう役割もあった。
「いらっしゃ~い!いらっしゃ~い!本日は防具の特売日だよ!ヨッ!そこの冒険者さんちょっとのぞいていかないかい?」
大通りでは、自分の店の商品を売ろうと、あちこちで元気な声が響いている。
人間と魔物が争い合うことで、経済はうまく回っているのだ。
武器や防具や薬草は飛ぶように売れ、新商品がどんどん開発され、高価な魔法のアイテムなんかも取り引きされるようになっている。
「戦争が一番お金が儲かるし、一番文明を発展させてくれる…か」
僕は大通りに立ちすくみ、ひとりつぶやく。
そう。
戦争が一番文明を発展させてくれるのだ。
そして、お金も動く。
だが、本当にそれでよいのだろうか?
その果てにあるのは世界の崩壊ではないのか?お互いが極限まで軍事力を上げ続けていけば、いずれこの星を滅ぼす力となる。
もしも、それが僕の目的ならば、それでいい。何もかもがメチャクチャに破壊されて、はい、おしまい。
それで、この物語は完。バッドエンドで終了。そういうエンディングを望んでいるならば。
「その終わり方は味気ないか…」
どこかの勇者に倒されておしまい。僕の命もそこまで。
ならば、世界が滅んで終わっても、僕としては同じ。いずれにしろ死を迎えるのだから。
ただ、残された世界は違う。その後も綿々と続いていくか、真っ暗闇に閉ざされて終わるかの違い。
僕自身の命が尽きたとしても、やはり世界そのものは残された方がよいのではないだろうか?たとえ、それが単なる自己満足だったとしても、それでも…
そんなコトを考えながら人間界の街を歩いていると、大通りで何かを叫んでいる人たちに出会った。
「世界を!世界を救いましょう!魔王を倒すのではなく、真の意味で!人間と魔物たちと、手と手を取り合って共存できる世界を!」
声を上げているのは、若い男女たちだった。
ただし、周囲の人々は冷たい反応をしている。
道行く人々は、完全に無視を決め込むか、そうでなくとも悪態をついて去って行くのみ。
「何言ってんだ、お前ら?」
「魔王軍がどんなに危険かわかっているのか?」
「あんたたちにはわからないんでしょうね!魔物に愛する者を殺された気持ちが!」
などと罵詈雑言を吐く者たちもいる。
もっとも、それは事実だ。
我々魔王軍が、どれほど多くの人間を殺し、村や街を焼き、金品を強奪してきたか知れない。
かくいう僕自身も、何人もの勇者たちをこの手にかけてきた。
許してもらえるとは思っていない。が、それはそれ。過去は過去だし、未来は未来。未来には別の道も開けているのではないだろうか?
そこで、僕は、彼らに声をかけてみることにした。
「あの~?すみません」
「はい、何でしょうか?」と、勧誘活動をしていた人間たちの1人が対応してくれた。
「実は、あなたがたの活動に興味がありまして。よろしければ、詳しいお話を聞かせていただけないでしょうか?」
すると、彼らの中でひときわ大きな声を上げていた女性がすり寄ってきて、満面の笑みを見せた。
「ええ、いいですとも!いいですとも!もちろんですよ。ささ、こちらに」
そう言って、彼女は僕の手を引き、どこへやら案内してくれる。
到着したのは、街の外れにある1軒の小屋だった。
「ここですよ。ささ、入って!入って!」
僕をここまで案内してくれた女性の指示に従って、小屋へと足を踏み入れた。




