肉体強化手術
「グウウウウウ…」
魔王である僕はうなり声を上げる。
足元には勇者たちの死体が転がっている。が、僕の方も無傷ではない。かなりの痛手を負ってしまった。
「珍しく強い冒険者たちだったな…」
最近、冒険者たちのレベルがメキメキと上がっている。
平均レベルも上がってきているし、中にはとんでもないバケモノもいる。
無論、魔王である僕が負けるわけはないが、並の魔物では太刀打ちできないだろう。
「このままではマズいな」
魔力や耐性は格段に上がっている。未知の術をいくつも覚え、剣による必殺技も数多く身につけた。だが、肉体そのものの強化には限界がある。
「さらなる禁術に手を出すしかないか…」
ついに僕は決心する。
それは肉体を直接強化する手術だ。
「ほんとにいいでゲスか?」と、魔界のマッドドクターがたずねてくる。
「ああ、やってくれ。思い切りな」
僕に迷いはない。
「では…」
そう答えると、マッドドクターはメスを手にした。
*
手術は成功した。
僕はさらなる力を得た。
人間だった頃の姿はもうない。異形の存在へと変わったのだ。
なぜ、これまでの魔王たちがゴテゴテとした禍々しい姿であったのか?今はよくわかる。
「力に対しては力だ。だろ?」
人間たちが技を極め、新しい魔法を覚え、未知の武器や防具や兵器を開発する。
魔物たちも、それに応じて進化する。進化の限界に達したらどうするか?
このように物理的に手を加えて、さらなる進化をしてきたのだ。
「不毛な争いかも知れない。だが、争いをやめれば進化は止まる。残りの人類の歴史も、魔物の歴史も頭打ち。永遠に同じレベルのまま続いていくだけ。それでいいのか?」
そう!人も魔物も、争い合うことでさらなる高みへと達してきた。
競争がなくなれば、残るのは安定だけ。安定は同時に停滞でもある。
何より、魔王になる道を選んだのは僕自身ではないか。退屈だからという理由で!
「だが、待てよ…」と、考え直す。
その“競争”とやらは、本当に戦いでなければならないのか?
命を賭し、血で血を洗う争いでなくとも、もっと平和的な戦い方もあるのでは?
たとえば、魔術の研究所をいくつも建設し、各研究所同士で競い合う。そういうやり方はどうだろう?
ひたすらに、ただひたすらに力を求め、能力を上げていく。
新魔王城の建設も着々と進んでいる。
実に魔王らしい生き方だ。
その一方で、僕は“人間と魔物の共存”という理想を夢に見るのだった。
*
それからも勇者たちは、旧魔王城へと攻め入ってきた。
ほとんどの冒険者は、ラビリンスで迷い命尽き果てたり、途中のトラップに引っかかったりした。
だが、時として、最後の部屋である大広間までたどり着く冒険者たちもいる。
そのたびに僕は、正々堂々と相手をしてやった。
ほとんどの勇者や戦士や魔法使いたちはひとひねりだ。
なす術もなく、魔王である僕の前に倒れていった。
それでも、ほんの一握りの勇者たちは、僕に手傷を負わせ、時には第2形態に変身するまで追い込まれた。
「ムウウウウウ。勇者どもめ。なかなかやりおる。日に日に力をつけてきているのがわかる。このままでは、いずれやられる時も来るやも知れん…」
いつの間にか、僕は魔王らしい口調になっていた。特に人前で喋る時には。
「ええい!もっと!もっとだ!もっと力を!」
そう言って、僕はさらなる肉体強化手術を受ける。
そのたびにマッドドクターは僕にたずねてくる。
「ほんとにいいでゲスか?」
「ああ、構わん。やってくれ」
こうして、僕は魔王としての第3形態・第4形態・第5形態と、さらなる姿を獲得していった。
代わりに心はどんどん虚しくなっていく。
「ほんとにこんなコトがやりたかったのだろうか?これが僕の望んでいた人生?」
力ばかりを追い求めて何になるのか?キリがないではないか。
いや、どこかに終わりはある。限界は来る。その限界の地点まで、僕は手術を続け、力を求め続けるのか?
わからない。
わからないまま、戦いは続く。




