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ラストバトル

 キンッ!キンッ!キンッ!

 金属の武器同士がぶつかり合い、頭に響くような高い音が広間にこだまする。


 僕が手にしているのは、伝説の勇者にのみに与えられると言われている剣。

 対する魔王は、あらゆる武器を扱う。最初は死神が手にするような大鎌(おおがま)。次に騎士がもつような大型の槍。レイピア、斧、弓矢にナイフ。なんでもござれだ。


「どうした?小僧?それで終わりか?」

 ハァハァと息が上がっている僕とは対照的に、魔王の方は余裕しゃくしゃく。まだまだ本気を出していないのがわかる。


「なにくそ!」

 僕は半分ヤケになって突進していく。


「そうでなくては、な」

 魔王は僕と同タイプの剣に持ち替えると、片手で応戦する。

 構わず僕は突進する。

 …と見せかけて、相手が剣で防御する瞬間を狙って、バックステップでかわす。直後に再突進して、敵に斬りつける。

 残念ながら直撃はしなかったが、魔王の体に剣の先が触れ、胸の辺りに1本の細い切り傷をつけた。オマケに奴のマントを大きく斬り裂いてやった。


「ほう。フェイントか」

 感心する魔王。


「熱くなったと思ったかい?頭に血がのぼっているとでも?」

 僕は冷静をよそおって答える。


「思ったね。ちょっとばかし骨のある奴のようだ」

 ニヤリと笑う魔王。


 武器での戦いは不利だと判断した僕は、魔法攻撃に切り替える。

 炎・雷・氷・風。これまでに習得してきた魔法の奥義を惜しげなく発動していく。

 敵もさるもので、属性に合わせた防御をしたかと思うと、こちらのスキを瞬時に見抜き反撃してくる。

 武器だけではなく、魔法に関しても達人のようだ。それでも、いくらか僕の方が勝っているように思えた。


「ほう。たかが人間が、よくその領域まで到達したものだ。しかも、見たところまだ若い。成長の余地があるな、お前」

 魔王にはまだ会話する余裕がある。

 僕の方は、そろそろ限界だ。


「だから、説得でもしようというのか?まさか『部下になれ』とか『世界の半分をやろう』なんて言うわけじゃないだろうな?」

 こちらの限界を悟られないように会話を合わせる。


「まさか、まさか。だが、お前の方から頭を下げて頼むならば考えてやらんこともないぞ」

 魔王は楽しそうに笑った。


 僕は、少し考えてから答えた。

「じゃあ、そうさせてもらおうかな?」


「ン?」と、意外そうな顔をする魔王。


 僕はゆっくりと魔王の方へと歩いて行き、(こうべ)を垂れた。

 …と、その瞬間、(ふところ)からアミュレットを取り出し、魔王に向かって投げつける。


「ウギャ~~~~~!」

 苦しそうな叫び声を上げる魔王。


「どうだ?動けまい」


「卑怯な!貴様、それでも勇者か!?」


「卑怯もひったくれもあるか!勝てばいいんだよ!」


 人類を代表する高僧たちが十数年の時をかけて念を込めた魔法のアミュレットだ。いかな魔王といえども、しばらく動きは取れないはず。

 僕はそのスキに、手にした勇者の剣に残された魔力を全て込めると、魔王めがけて斬りかかった。


 一刀両断!


 光の聖剣となった武器は、魔王の体を真っ二つに斬り裂いた。

 胴から上が切り離され、奴の上半身はドサリと床に落下した。


「ムムム。見事なり。手段は褒められたものではないが、それでもこの私を倒したのだ。その力は本物。誇るがいい」

 上半身だけになりながら、魔王はなお語り続ける。


「ああ、お前に言われなくともそうさせてもらうさ」

 僕は答える。


「だが、耐えられるかな?」

 魔王が妙なコトを言った。


「耐えられるかだって?どういう意味だ?」


「『退屈に耐えられるか?』と()いたのだ」


「だから、どういう意味だ?」


「考えてもみろ、お前はこれまでこの私を倒すために、必死になって修行してきたのだろう?数々の冒険をし、何度も死の(ふち)に立ったはず」


「ああ、その通りだ。それがどうした?」


「目的を果たしたお前に何が残る?残りの人生は、伝説の勇者として褒めそやされ、退屈な時間を過ごすだけではないのか?」


「それは…」


 それは魔王の言う通りだった。

 このあと、僕は故郷の街に帰り、王様に魔王討伐を果たしたことを報告し、あとは…

 あとは、ただ退屈な人生を歩むだけだろう。


 もちろん、人々は僕を歓迎してくれるに決まっている。壮大なパーティーも開かれるだろう。

 だが、そんなものは一瞬だ。一瞬の歓喜を味わい、残りは“かつての勇者”として、剣術や魔法を弟子たちに教え、死んでいくのみ。

 そんな退屈な人生に、僕は耐えられるだろうか?


「クックック…本当によかったのかな?私を倒して?もっと私と遊んでいるべきではなかったのか?そうすれば、お互いにもっと高みに立てたかも知れんというのに」


「うるさい!お前は負けたんだ!敗者の()(ごと)に過ぎん!そんなものは。さっさと消えろ!」


「言われなくとも、そうするさ。そろそろ限界だ。だが、最後に言っておこう。お前はこのあと選択することとなる。退屈な日常に戻るか?それとも…」


「それとも何だ?」


 魔王は僕の質問には答えなかった。

 もう時間だった。奴の体は砂みたいに崩れていって、最後には何もなかったように完全に消えてしまった。


「何だったんだ。最後の言葉は…」

 僕は心の声を言葉にした。だが、聞く者は誰もいない。

 ムダに広い大広間に、僕の独り言が響いただけだった。


         *


 疑問はすぐに解決した。

 魔王を倒してしばらくすると、フードをかぶった背の低い男が現われた。

 男がフードを降ろすと、頭のてっぺんがハゲ上がっていた。


「あなた様には選択権があります」

 頭のてっぺんがハゲ上がった背の低い男は言った。


「選択権?なんだ、それは?」

 僕は当然の疑問を口にする。


「あなたは先代の魔王様を倒されました。よって、このままお帰りいただき、この世界を救った勇者として伝説に残る。それが1つの選択肢」


「当然だな。まっとうな人間なら、誰でもそうする。だが、その前にお前を含めてこの城の残党を全滅させる」


「もちろん、あなた様にはその権利がございます。もう一方の選択肢を選ばなかった場合には、どうぞご自由に。わたくしめも覚悟はできております」と、背の低いハゲ男。


「で、もう一方の選択肢とは?」


「あなた様が次の魔王になることですよ」


「アッ!」と、僕は声を上げた。

 先ほどの戦闘で1つ気になる点があった。

 あの時は戦闘中だったし、微々たる疑問だったのでスルーしていたが、今考えるとやはりおかしい。

 なぜ、魔王は僕と同タイプの剣を扱うことができたのだ?あの剣は伝説の勇者にしか使えないはず。


 僕は、あわてて魔王が消滅した辺りへと駆け寄って、先ほどまで戦闘で使用されていた武器を確認した。


「やっぱりだ…」

 やっぱり僕が持っているのと同タイプ。寸分たがわず同じ型。同じ剣だ。双子と言ってもいいくらいに。


「そういうコトだったのか…」と、僕はつぶやく。


「そういうコトです」と、ハゲ男。


「じゃあ、先代の魔王とやらは、かつての勇者だったわけだな?」


「その通り。察しがよくて助かります。余計な説明をせずに済みますからね」


「これまでに何度もあったのか?こういうコトは?」


「ええ、何度もありましたとも。そのたびに魔王様はパワーアップなされた。なにしろ、先代の魔王を倒した方ですからね。先代の先代よりも、先代の先代の先代よりも、もっとお強いに決まっている」


「そういうシステムか!」

 僕は声を荒げる。


「そういうシステムにございます」


 理にかなっている。実に理にかなっている。

 魔王を倒す能力を持つほどの勇者だ。その勇者が次の魔王のイスに座るならば、代替わりするたびに強力になっていくのは自明の理!


「で、どうなさいます?人間界へとお戻りになって、残りの人生を幸せに暮らしますか?それとも、ここにお残りになさいますか?」


「人間界での余生は退屈極まりないか…」

 僕は魔王が最後に残した言葉を思い出しながら言った。


「でしょうね。これまで冒険の日々を過ごしてきた者には耐えられないくらいに。失礼ながら、あなた様は麻薬患者やギャンブル狂に近い。おそらく、退屈な日常に耐えられず、何かしらの強い快楽を求めるようになるでしょう」


「ギャンブルや麻薬にハマると?」


「あるいは、快楽殺人者とかね。事実、そういう者は多い者ですよ。冒険者の中には、引退して退屈な日常に耐えられず凶悪な犯罪者になった者が何人もいます。なら、いっそのこと…」


「いっそのこと、世界を支配する魔王になれと?」


「はい。まったく理解が早くて助かります」


 僕は散々迷った末、結局、次の魔王となる道を選んだ。

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