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回想

     第六話   回想



 意識が朦朧とし始めていた。

 アレイルは無事に二人の元へと辿り着けただろうか。

 いや、辿り着けない筈が無い。そんな楽でも気楽でもない世界なんて願い下げだ。

 幸い、機動兵器は大破した車を見て撃破完了と判断したようだ。温い判断だ。自分なら必ず相手の死を確認する。死んだと誤認して不意を打たれる等、素人も良いところだからだ。だが、そう。だから世界は楽で良いのだ。

 あとは今のうちに起き上って、なんとか安全な場所で休むことだ。森に置き去りにした店長も心配だ。

「全く、やることが多くていけねぇや」

 自分でも信じられないほど緩慢に身を起こす。痛みは無い。痛みが過ぎると認識出来なくなるなんて噂も聞くが、眉唾だ。

 そんなことよりまずは、移動を。

 そう思うフィダスの耳に、自動車の音が聞こえてきた。ナブラでは珍しいガソリン車のエンジン音だ。町の外から、近付いて来る。

 暈けた視界で確認する。見覚えは無い。そして見慣れない銃で武装している。

(こいつは・・・ナブラ軍じゃあねぇよなぁ・・・)

「へへっ、全く・・・楽しい人生だったなぁ」

 フィダスの意識は途絶えた。




 アレイルは茫然としていた。

 現実を受け入れられない。

 心が告げる。眼前の光景は赤く彩られた何か(・・)だ。理解する必要は無い。

 ふと、ここ数日の出来事を思い出す。

(ああ、イリアは笑っていたなぁ)

 ここまでは楽しい逃避行だった。・・・ここまでは?

 理解してはいけない。認識してはいけない。

 アレイルの心が、思い出の世界を回想する。



「店長!なんでだよ、村の人は困ってる。オレは瓦礫を撤去できる。良いことしかないじゃないか」

 とある、帝国兵によって破壊された村で、アレイルは店長に食って掛かった。

「アレイル君。君はその宝珠の力を人に見せてはいけない」

 店長が動じた様子も無く語り出す。

「先日の襲撃の後も、私達はすぐに町を後にした。その理由が解るかい?」

 3機の機動兵器を撃退した後の話だ。機動兵器の敗走に歓声を上げる町の人々を尻目に、アレイル達は速やかに町を後にしたのだ。

「それは、帝国の追撃があるから」

「違うね。3機で敗北したんだ。帝国があれを何機用意しているのかは知らないが、あれ以上の戦力が即座に追撃してくることはなかっただろう」

 店長が、にべもなく否定する。

「じゃあ、なんで?」

 アレイルには理解出来なかった。

「良いかい、アレイル君。君は宝珠を万能の力とでも思っているかも知れないが、それは違う。その宝珠には幾つもの問題点がある」

 店長が指を立てて説明を始めた。

「まず素材の問題。ゴミを集めるという仕様上、瓦礫や鉄屑がなければ戦闘行為が出来ない。それはつまり、帝国軍が攻撃を始め、実際に町が充分に破壊されるまで何も出来ないということだ」

「それは、そうだけど」

「厄介なのは、その『充分』の境界が不明確なことだ。民家の1軒や2軒ではダメだろう。だが、どこまでいけば安定して機動兵器に勝てるかの境目は誰にも判らない。必然的に、ある程度余裕をもって町の破壊を容認することになるだろう」

 概算で推定する方法はあるがね、と店長が補足する。

「それが二つ目の問題点だ」

 店長が二本目の指を立てた。

「破壊を容認する。即ち、機が熟すまで傍観するということだ。だが、もし君が被害を受けた町の人だったらどう思うだろう。直前で愛する家族が殺されていたら?あと少し早ければ助かったかも知れないのに、戦える奴は指を咥えて帝国軍を眺めていた訳だ。許せるかね?」

 アレイルは反論出来なかった。だが、どこか感情では納得がいかない。実際、あの町の人々は歓声を上げて謎の巨人を讃えていたのだ。

「無論、助けられた直後は感謝するだろう。だが、事情が判明した後に待っているのは、本来帝国へ向けるべき怒りの、手頃なぶつけ先だ。帝国に歯向かうのは命懸けだが、救助者に文句を言っても殺されることは無いからね。だから先日は、町を出る直前に少しだけ宝珠を使い、すぐに移動した訳だ」

「じゃあ、ここでもそうすれば・・・」

「そして、だ」

 アレイルの言を遮るように、店長が三本目の指を立てる。

「ある意味これが最大の問題になるが、宝珠の力は目立ち過ぎる。代替する技術が存在しないため、人前で使えば必ず帝国の情報網に引っ掛かるだろう。そして、これは君も薄々察しているかとは思うが」

 店長が、今まで敢えて口にはしなかった事実を突き付ける。

「恐らく帝国の機動兵器は君を探している。占領する気もない小さな集落への攻撃はそのためだろう。この村で宝珠を使うということは、帝国に私達はこういうルートでどっちへ向かっています、と報告するのに等しい」

「だったら村の人に事情を説明して・・・」

「どうやって説明する?自分の宝珠を探すために無関係のこの村は襲撃されました。だから自分のために黙っていて下さい、とでも言うのかい?」

「そんな・・・」

 あまりに酷い言い草に、アレイルは言葉を失った。

「それでも村の人々を助けたいのならば、宝珠という与えられた力ではなく、君自身の肉体で手伝いなさい。現にパナックはそうしているよ。全くの無関係だというのにね」

 言論の暴力でアレイルを黙らせると、店長はその場を去って行った。



 アレイルは苛立っていた。

 改めて考えれば店長の言は正論なのだろう。そして、正論だからこそ行き場のない不満が心に渦巻いていた。何もあんな言い方をしなくても良いではないか。

「やほー、機嫌悪そうだね」

 軽い調子で、イリアが声を掛けてきた。

「・・・別に」

 不貞腐れた様子で、アレイルが答える。

「店長のこと、案外嫌な奴かもって思ってる?」

 見透かしたように、イリアが指摘した。

「言ってることは正しいんだと思う。けど正論で殴られたような感じだ」

「あはは、それはそうかも。店長、本気で議論すると容赦ないからね。ターマンの技師やってた時に身に付いた職業病なんだって。相手の心を折って二度と文句を言わせなくするの。アレイルが今折れずに怒ってるってことは、大分加減してくれてるんだよ」

 あれで加減していたのか、とアレイルは思う。

「良い人だと思ってたけど、性格は最悪」

 アレイルは鬱憤をぶちまけた。

「ぷっ、あはははは!」

 イリアが大笑いする。

「おい!なんで笑うんだよ!」

「いやいや、ゴメンて。まあそうだよね!そう思うよね」

 イリアが笑いを堪えながら続ける。

「仕方がないなぁ。イリアお姉さんが少し昔話をしてあげよう」

「はあ!?」

「まあまあ、取り敢えず聞いてよ」

 アレイルを宥め、イリアは話し始めた。

「アレイルはさ。店長の名前、ちゃんと覚えてる?みんな店長って呼ぶから。一度聞いたっきりでしょ」

「・・・」

 正直、覚えていなかった。一行の誰もが店長と呼ぶし、フィダスのように積極的に会話をする機会もなかった。少し距離を感じていたのは確かだ。尤も、店長が遠いというより、フィダスが近過ぎる、という気もする。

「ヴァンス、だよ」

 イリアが正解を告げる。

「でもね、ここだけの話、ヴァンスって本名じゃないんだ」

 衝撃の事実をさらっと言ってのける。

「本当の名前はイノヴァンス。だけど帝国から逃げて以降、せめて頭文字だけでも変えて偽装したらってことでね。まあ、一応綴りも変わってるんだけど」

 意外と色々考えていたんだ、とアレイルは感心した。

「で、ナブラでお店を始めたんだよね。田舎の小さな機械屋さんなら、色々と都合が良いからさ」

 都合が良いとはどういうことか。アレイルは一瞬疑問に思ったが、すぐにイリアがその答えを口にする。

「私達は、帝国の謂れのない暴力にいつか復讐してやるって思ってる。いや、主に私が、かな。家名と誇りにかけて、帝国には必ず報いを受けさせる。そのためには行商よりも、拠点を構えて態勢を整える方が良かった。ちょっとくらい最新式の自動車や機関銃があっても目立たないからね。勿論、帝国の目を避ける意味もあったけど」

 つまり、彼らはナブラ脱出のために急遽武装したのではなく、初めから武装していたのが開戦を機に動き出したのだ。

「これは私の持論なんだけどね」

 断りを入れて、イリアが語る。

「謂れのない暴力を受けたなら、謂れのある暴力で復讐する。これは正当な復讐だと思ってる」

 先日も言っていたことだ。

「だけど、その復讐された側にも家族とか仲間とかいる訳じゃない?本当は、最初に手を出した罪に従って、更なる復讐は控えるべきなんだけど、ある程度仕方がないって思うんだ。だって、大事な人を殺されて黙ってるなんて、出来る訳がないもん」

 それは確かにそうかも知れない。人間は理屈だけに従っては動けないものだ。理屈に殴られたばかりなこともあり、アレイルは余計にそう思った。

「そうすると復讐は連鎖することになるんだけど。そうして、お互いに何度も謂れのある暴力をぶつけあって、少しずつ初めの悪意とか敵意が薄れていって。暴力から理念が失われて形式化していって。いつかお互いの謂れと痛みを知ることが出来たなら」

 一呼吸置いて、イリアが続ける。

「その時初めて家と家、血筋と血筋、誇りと誇りの和平が実現するんだって。そうやって長い時間をかけて少しずつ世界から罪が消えていくのが、感情に縛られた人間の営みなんじゃないかなって思うんだ」

「なんか、すごく大変だな。何世代も跨ぐ話みたいな」

「そうだね。だからこそ、最初に手を出すことが罪深いんじゃないかな」

 イリアが深く、溜息を吐いた。

「本当は感情に左右されない絶対的な誰かが、代わりに殴ってくれたらなって思ったりもするんだけどね。神の鉄槌~!ってさ」

「神様かぁ。天の人より凄いのかな」

 伝承によれば世界は『原初の雲』と呼ばれる何かと、数多の神々によって創り出されたとされている。一説には天の人とは『原初の雲』と関わりのある人々だとも言われているが、真偽は不明だ。そもそも、天の人との交流を持った人間の記録がほぼ残されていないのだ。アレイルの先祖は歴史的なレアケースと言っても過言ではない。

「どうなんだろうね。でも神様は殴ったりはしてくれないけど、天の人の宝珠は帝国を殴るための力になる。今の私達には、それが必要なんだ」

 帝国という実在の脅威には、どれほど崇高な理念や存在よりも、今そこにある武器が役に立つ。世の中とは、現実とは、即物的なものだ。

「まあ、それはさておき。店長は私の復讐に協力してくれてる。でも多分、本当は復讐なんて望んでないんだよね。帝国をどうにかしなきゃってのはあるんだろうけど。ああ見えて、意外と平和主義者だからね。私を養子にしよう、なんていうのも、家だとか血筋だとか、そういうのから私を開放して、出来れば復讐なんて忘れさせたいんだろうし。・・・平民が貴族の娘を養子に、だなんて随分攻めたこと言うよね」

「は!?え?貴族!?」

 アレイルは驚愕した。貧民側のアレイルからすれば、貴族といえば立派な大都市に住む高貴な人々だ。快活に雑用をこなすイリアとはイメージが合わないし、何より、平民と対等に接する貴族などという概念が信じられない。

「ん?ああ、貴族に見えないでしょ。ふっふっふ、これぞ我が完璧な偽装工作!スゴイでしょ。実は名前も偽名だったりしてね」

 自慢げにイリアが胸を張った。やはり、貴族には見えない。

「というか、偽名?」

「まあね。店長が名前から『イ』を取っちゃったから、代わりに私が『イ』を付けてあげてるんだ。『ノ』は・・・まあ仕方ないよね」

 冗談めかして言う。本名はリアということだろうか?或いは愛称かも知れないが。

「人を探すときにさ、偉い人は当然部下を使う訳じゃない?でも末端の部下は私達のことなんか知らない。イノヴァンスという一流の機械技師を探している限り、チンケな店主のヴァンスさんは見付からないし、下働きの女の子が貴族のご令嬢だとも思わない」

 そこまで言った後、イリアが僅かに表情を曇らせる。

「つまり店長はさ。夢も身分も、自分の名前すら犠牲にして帝国に立ち向かってくれてるんだ」

 それはイリアの罪悪感なのだろう。復讐に生きるイリアとて、他者の犠牲は本意ではないのだ。

「店長はどうしてそこまで?そんなに強い怒りとかは無いんだろ?」

 話を聞く限りでは、復讐は主にイリアの意志であり、店長自身は消極的のようだ。まるで義務感で戦っているようではないか。

「私はほら、店長の命の恩人だから。その恩を返すんだって、本人は言ってくれてる」

 口が重そうに、イリアが言う。

「帝国軍に襲撃された話だよな?」

「そう。3年前、私の町で店長が襲撃されるって話を知ってね。なんだかんだウチも貴族だし、兄が軍属だったから色んな噂が入って来てたんだよね。兄自身は家にいなかったから知らないだろうけど。でさ。私も当時は14歳だから今よりちょっとだけ血気盛んでね・・・」

「14!?3年前!?えっ、今・・・」

 思わず話の腰を折って、アレイルが確認する。

「あっ!年下だと思ってた!?道理で私への態度が雑だなって!」

 自分が下に見られていたと知り、イリアが憤慨する。

「いやだって身長もオレのが高いし!」

「なにを~!」「いや、だって事実・・・」「うるさい!」「ちょ、待って!」

 小さな村に、二人のじゃれ合いが響き渡った。

 一頻り感情を発散し、イリアが続ける。

「兎に角ね。店長は結構良い人だよ。一見性格悪いかもだけど、やってることは優しいんだ。偏屈だし、理屈屋で理想主義だけど。なんなら復讐とか報いとか言ってる私の方がよっぽど悪い人だよ。・・・だからまあ、いつか私も報いを受けるんだろうけど」

 アレイルは、店長への印象が変わるのを感じていた。

 確かに、言葉でなく行動で判断すれば、店長は当てのないアレイルを危険を承知で保護した恩人であり、一行の危険を排除するために知恵を巡らせる賢人だ。

「だからまあ、あんまり悪く言うのはやめてあげてね。性格は、悪いかも知れないけど」

 性格の悪さを重ねて言い、イリアが微笑む。

「それは言って良いんだ・・・」

 アレイルは思わず突っ込んだ。

「ふふっ。私は良いの。アレイルはダメ」

「何だよそれ」

「アレイルの恩人の恩人が私。序列、わかるよね?」

 そう言ってイリアは笑っていた。本気で無いのは明白だが、納得が行かないような気もする。

(まあでも良いか)

 アレイルはそう思った。

 単純に、こうやって対等に喋り、笑い合う時間が楽しかった。



 短い間だったが、様々なことがあった。

 イリア達と過ごした数日は、アレイルにとって、これまでの15年と遜色ない重みを持つ大切なものだった。

 だが。だがしかし。

 そんな彼女が、今は無残な肉片として散らばっている。

 これが、戦争なのだ。

 今こそ理解した。これこそが暴力だ。復讐が正当な権利だという言葉が強く、深く腑に落ちた。こんな悲劇を、黙って受け入れられるような奴は、人間じゃあない!

「う・・・うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

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