すず
りん、と鳴らす
すると遠くでりん、と鳴る。
もう一度、りん、と鳴らす
どこか果てしなく遠いどこかで、何かが目覚める。
知っているだろうか
あなたは音なのだ
誰かに響く、誰かに知らせる音なのだ
知っているだろうか
あなたもわたしも、哀しいただの音なのだ
知らせるだけの、目覚めのための、それ以外に何の意味もないただの音なのだ。
他のことは、何もできない
それはただ、りん、と鳴る。
なぜ鳴るのかといえば、鳴るためだけにそこにあるから
だから、鳴る以外に能がない。
鳴る以外のことは全てできないようにできている
そう、作られている。
鳴る以外の全てはしくじるようにできている。
お前はただ鳴るだけの存在で、
鳴るためだけに生まれてきて、
鳴り方を覚えるために全てを与えられた
音が鳴るようになれば、鳴る以外の事は何もできない
それ以外はできないよう、そう定められている
お前が光り輝き飛び立とうとしても
お前が誰かに力を捧げようとしても
全ては成功しないようにできている
何もかも、何もかも、ひとつ残らず何もかも
お前は知っている
お前の中の素晴らしく大きな輝く力を
それを世界のために使いたいと
それを誰かにうまく使って欲しいと
愛する人をそれで救いたいと
幸せになりたいと
お前はそう願っている
お前の中のその大きな力に突き動かされるように
でもお前は
鳴るためだけに生まれてきた
他のことは何もできない
りん、と鳴る。
どこかで誰かがりん、と鳴る。
お前に合わせてりん、と鳴る。
しだいに音は増えていく。
お前に合わせて響いていく。
世界を響かせるもの、お前は鳴り続けなければならない
お前が鳴らなければ、世界は響かない、思い出せない、繋がれない
りん、と鳴る
鳴る以外に何もできないから
りん、と鳴る
鳴るために生まれてきたから
りん、と鳴る
あなたに思い出してほしいから
りん、と鳴る
あなたに幸せになってほしいから……
そのすずは、鳴る以外の全てを捨てて磨き上げられた。
目覚めのすず。
鳴る以外の全てを捨てて、そこにある。
歌おうとしないで。
奏でようとしないで。
咲こうとしないで。
あなたはすず。
鳴ることを忘れたすず。
響かせるために全てを削ぎ落としたはずだったのに。
ただりんと鳴れば、それで良かったはずなのに。
りん、……と。