表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私が立派な国王にいたします。〜ヤンデレ令嬢はその婚約破棄を認めない〜

作者: 暁紅桜

その日は。国王陛下の誕生パーティーでした。

多くの貴族が出席し、陛下の誕生をお祝いするこの国のとても大事なパーティー。

そんな日に私は一人で登城し、目の前に現れた私をエスコートするはずだった第一王子、ウルシティア・アクアリーナの傍には、噂に名高い伯爵令嬢、アニエスティル・リリアーノ

様がいらっしゃった。

そして、殿下は声高らかに私にこう言ってきたのです。


「イルヴィス・ヴィクトール。今この場をで、貴様の罪を暴き、そして貴様との婚約を破棄する!!」


自分の父親の誕生日パーティーで、彼は高らかに婚約破棄宣言をされた。

随分前から殿下が隣にいる彼女と関係を持っていることは知っていた。だけど、彼女が将来的に国母になることはない。

私と殿下の結婚は国が決めたこと。国王陛下に王妃様はもちろん、宰相様や騎士団長様。多くの貴族の決定によって決まったことで、覆すことできない。


「殿下。私と婚約破棄をし、そちらのリリアーノ嬢と婚約されるということでしょうか?」

「その通りだ」

「その事を、国王陛下と王妃様はご存知なのですか?」

「父上と母上にはまだ伝えていない。だが、許可は降りるだろう」


自信たっぷりな顔をしながら、傍にいらっしゃるリリアーノ嬢を抱き寄せられた。

つまり、許可もなく勝手に婚約破棄を殿下が公言されているだけ、ということだ。

愛おしそうにお互いを見つめ合うお二人。

私という婚約者がいながら、堂々と二人で出かけたり、私よりも彼女を優先することがあった。きっと次期国王としてのプレッシャーなどでお疲れなのだろうと思い、彼の仕事を手伝い、息抜きのために彼女と一緒にいることに目をつぶっていた。

きっといつか、彼は次期国王として立派になられ、私のことを見てくれる。彼女とはただの友人の関係だと、そう思っていた。でも、先ほどの発言は次期国王になる殿下には相応しくない発言。

許されることじゃない。


「イルヴィス。私はお前との婚約を破棄し、アニスと婚約する」

「殿下、いけません。イルヴィス様は幼い頃より王妃となるために努力されていらっしゃいました。なのに、婚約破棄されては、今までの彼女の努力が全て無駄になってしまいます」

「あぁ、なんて優しい子なんだ。酷い仕打ちを受けていたというのに、あんな悪女を気にかけるなど、君はまるで聖女のようだ」


あぁなんて茶番。なんて不快な光景だろうか。

周りの目など気にせず、公共の場でイチャイチャと。もうすぐ陛下がおいでになるというのにこんな問題を起こすなんて、本当に悪い方だわ。


「殿下。殿下のお気持ちはご理解いたしました。私の目から見ても、お二人が仲睦まじいことは理解できます」

「ふん、随分物分かりがいいな。まぁいい。では父上と母上が来られたらお前の方から……」

「だからこそ、その婚約破棄はお断りさせていただきます」


にっこりと満面の笑みを浮かべて、陛下の言葉を拒否した。

署名も、陛下の許可もない。その場の発言に拘束力はない。国の決定を、殿下お一人の発言で覆すことはできない。殿下自身も、先ほど私の方から陛下と王妃様に婚約破棄を申し出るように言われていた。でも私は、あなたとの婚約を破棄するつもりはありません。


「断るだと……ふざけるな!私はお前と結婚などしたくない!お前のような悪女とまぐわい、子を作るなど悍ましくて仕方ない」

「随分と酷い物言いですね。殿下にそこまで拒絶されるようなことをした覚えはありませんが……まさか、先ほど言われていた罪と何か関係が?」


私がそう尋ねれば、殿下は怒りの表情から顔をわずかに歪ませたまま笑みを浮かべる。

罪など、私には身に覚えがない。真面目に王妃教育を受け、殿下のために仕事を代わり、彼女との関係にも目を瞑っていた私に罪などあるはずがない。


「いいだろう。元々それもここで話すつもりだったからな」


殿下は、私がしたと言う罪を口にする。

まず鉄板とも言えるリリアーノ嬢へのいじめ。お茶会に誘わない、そこ有る事無い事噂を立てる。ドレスや宝石類を買えないようにお店に根回しをして、見窄らしい格好の彼女を笑っただとか。

そして2つ目。私が殿下以外の複数の男性と関係を持っていたと。基本的に婚約相手とは結婚するまでは体を重ねてはいけない決まりだった。私はそれを守っていたし、殿下以外の男性に興味など全くない。

証拠品は私がその殿方とやり取りをした写真だったり、数名の貴族の令嬢と子息の証言。

そして3つ目が、私が他国に国の情報を流していたということだった。次期王妃という立場を利用し、得た知識や情報を他国に売った。つまり私が売国行為を行なったということだ。

どれも全くと言っていいほど身に覚えがない。


「身に覚えがありません」

「白々しい、証拠品や目撃者もいるのだぞ!」

「そんなもの、決定的なものにはなりません。嘘を浮いてるかもしれないですし、手紙も筆跡を似せれば作ることもできます」

「黙れ!本当に気に入らない。昔から貴様はそのように私を見下すような態度を!」

「私は幼い頃より殿下の婚約者として、次期国母として恥ずかしくない行動と教養を磨いてきました。辛いこともたくさんありました。でも私は、この国が大好きで、殿下を愛しておりましたので頑張れたのです」

「愛している、だと……貴様にそのような言葉を言われるなど、虫唾が走る!」


昔の殿下はお優しかった。

確かに冷たい方でしたし、私に対して劣等感を抱いていました。

きっと周りが私と殿下を比較して、殿下に酷いことを言ったのでしょう。だから殿下はこんなにも次期国王として相応しくない行動や発言をするようになった。

殿下は何も悪くありません。悪いのは周りの人間たちなのです。


「殿下、申し訳ありませんがすでにこちらは調べがついています。先ほど殿下が言われた私への罪は、全て濡れ衣でしかありません」

「なんだと」

「私は全て存じております。殿下がそちらのリリアーノ嬢に唆され、私と婚約破棄をするために多くの人に口裏をあわせるようにお金を渡していたことを」

「なっ……何をバカなことを。それこそお前の言ったように作り出した証拠品や嘘ではないのか!」

「それがそうではないのです。この事実を調べたのは私ではなく、国王陛下と王妃様なのですから」


私は視線を上に向け、ドレスの裾を持ち上げて一礼する。

私の行動で気づいたのか、殿下は勢いよく後ろを振り変える。

普段、お二人が会場に来られる時は音楽が流れるのだが、今日はわざとそれをしなかったようだ。


「ち、父上……母上……」

「ウルシティア。本来であれば、お前は廃嫡とし、私の弟の息子であるキリクが次期国王となる予定だった」

「なっ!」

「だが、それをイルヴィスが断ったのだ。”私が、殿下を立派な国王にいたします”と言ってな」

「お可哀想な殿下」


私は今にも崩れ落ちそうな殿下のお顔に触れ、今にもキスをしてしまいそうな距離まで顔を近づけた。

あぁこんなにも殿下の近くに来れたのはいつぶりだろう。なんて愛おしいのかしら。

今にも流れてしまいそうな涙。赤くなったお顔。何かを言いたそうにしてわずかに開く口。

殿下のこんな顔、初めて見ました。大丈夫です殿下。殿下は何も悪くありません、全部殿下の周りの人間が悪いのですから。


「殿下、安心してください。殿下は国王になれます。私と結婚をすれば。でも、もしリリアーノ嬢と結婚……彼女が国母になるようなことがあれば貴方は国王には成れません」

「イ、イルヴィス……」

「私は全て存じております。貴方がどこで何をしているのか。誰と話しているのか全て知っています」


私は優しく抱きしめる。それと同時に、兵士たちがリリアーノ嬢を拘束した。


「アニス!」

「痛い!離して!」

「父上!アニスを離してください!なぜ彼女にこのようなことをされるのですか!?」

「ウルシティア。お前はイルヴィスの罪の一つに国を売ったと言ったな。それは彼女ではなく、その娘の父親であるリリアーノ伯爵が行ったことだ」


そう。元々他国に情報が漏れていたことは陛下も存じておられた。ちょうど出所を探っている時に、リリアーノ嬢が殿下に近づき、関係を固くしようとしていた。

それにより、早い段階で突き止めることができたが、私はそれをしばらくの間目を瞑るように陛下にお願いした。

もちろん、そのままただ情報が流される訳にもいかず、あくまでリリアーノ伯爵が情報がしっかり漏れていると勘違いする程度に気づかれないように情報漏れを防いでもらっていた。


「その娘も知っていたようでな。彼女は元々王妃の座を狙っておったようで、その罪をなすりつけたのだろう」

「ア、アニス……」

「殿下!私は無罪です!そんなこと私は知りません!信じてください」

「……殿下。お尋ね致します。彼女のことを愛していますか?」


絶望的な顔をする殿下の顔を包み込み、私と目を合わせる。

優しく、彼が怯えないように笑みを浮かべて、今にも泣き出しそうに、縋りたそうな殿下に尋ねる。


「あぁ愛している!でなければお前を陥れるようなことはなしない!私はアニスを愛している」


無意識なのか、堂々と私を陥れたことを認められたけど。まぁそれは聞かなかったことにしましょう。だって今、殿下は私のことを見てくださってる。

でも目線だけじゃダメ。もっともっと殿下を私で満たしてしまいたい。


「陛下、王妃様。一つ提案をしてもよろしいでしょうか」

「申してみよ」

「はい。リリアーノ嬢を側室として迎え入れたいのです」


にっこりと笑みを浮かべて私はお二人にお願いをした。

本当なら殿下が私以外を見るような場を作りたくないのですが、でも愛し合う二人を引き離すのは残酷というもの。殿下がちゃんと私を見て、私を愛してくださるのであれば、側室の一人や二人、迎えることはたいしたことではない。


「良いのか?」

「はい。構いません。国のためにも、世継ぎが多いことに越したことはありませんから」


くるりと身を翻し、兵士たちに下がるように伝えてその場に膝をつく彼女のそばに立つ。

怯える彼女を数秒見下ろした後、膝をついて彼女の手を取る。


「リリアーノ嬢。いえ、今からアニス様とお呼びしますね。お互い国のために頑張りましょうね」


にっこりと笑みを浮かべた後、私は耳元で囁く。誰にも聞こえない、そばにいる殿下にさえ聞こえない声で。


「私がしっかり立場というものをわからせてあげます。誰の婚約者に手を出したのか。私がただ貴方たちの関係をただ何も感じず放置していたと思いますか?今すぐにでも貴方を殺したくて仕方なかったんです。貴方を殺して、殿下を部屋に隔離して二度と私以外を見ないよに調教して……でも、私は優しいので別の方法を考えました」


優しく、怯える彼女の頬に手を滑らせ、そのままぎゅっと抱きしめた。

殺すなんて、そんなことはしない。彼女にはきっちり自分の罪を償ってもらわないと。自分が何をして、どんな愚かなことをしてしまったのか自覚してもらわないと。

側室になったら私がちゃんと立場をわからせてあげないと。大丈夫、側室としての義務もしっかり果たさせてあげる。でも、そこに愛情を求めないでほしいな。あくまで貴方が側室になるのは子供を産むため。それ以外に貴方の役割はない。貴方が本当に殿下を愛しているのかもわからないし、たとえ愛していても、私はその感情を認めない。殿下を愛していいのは私だけ。私だけが殿下を愛することができるのだから。


「手始めにこの後お部屋に伺いますね。逃げようだなんて考えないことです」


私が彼女を解放すれば、彼女はその場でくたりと肩を下げる。そんな彼女の様子にわずかに口角が上がるのを感じた。


「殿下」


私はそのまま殿下の元へと行き、彼の手をとり笑みを浮かべる。

その私の顔に何故か殿下は怯えるような表情をしていたが恐らく勘違いだ。

きっと、私の笑みがあまりにも美しく、愛らしいからびっくりしてしまったのだろう。


「私が立派な国王にして差し上げます」





・・・

・・




それから数十年の月日が経った。

王位を継いだウルシティア・アクアリーナ殿下は私、イルヴィス・ヴィクトールと結婚。

殿下が一人っ子ということもあり、世継ぎの不安を解消するために、結婚から半年後、側室としてアニエスティル・リリアーノ伯爵令嬢が迎えられた。

基本的に私が主軸に仕事を行い、殿下は足りない知識を補うために毎晩私と二人でお勉強を行う。

営みは月に5回。仕事の関係で減ることはあるが、最大そのぐらい行う。側室との営みは半年に1回。私が監視をしながら行うようにしていた。

結果、殿下は立派な国王となり、世継ぎは私と殿下の間に5人。側室との間に1人だけでき、将来的に不安を抱くこともない。


だけど、誰も知る由もない。私がどうやって殿下を立派な国王にしたのか。あのリリアーノ様を黙らせ……慎ましい側室にしたのか。

それを知っているのは当の本人たちだけ。

知ってしまったらそうね……私と殿下の関係を邪魔しなければ、幸せに暮らせると思うわ。

まぁそれが本当に幸せかは知らないけど。



【完】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ