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プロローグ

 八月下旬、ある日の昼下がり。


 陽炎ゆらめく炎天下なぞどこ吹く風と、クロガネこと黒沢鉄哉くろさわてつやは冷房が程よく効いた探偵事務所(自分の城)で読書をしながら優雅にくつろいでいた時のこと。


 ――ピンポーン。


 呼び鈴が鳴り、応対しようとして、


「私が出ます」


 ぱたぱたと助手である安藤美優あんどうみゆが玄関扉に向かったので、腰を下ろした。

 そして文庫本の続きを読もうとして、栞を挟んでいなかったことに気付く。

 はて、どこまで読んでいたかと一ページ目からパラパラしていると、


「クロガネさんクロガネさん!」


 慌てた様子で駆け寄って来た美優が、その手に持っていた大きな段ボール箱をドンッとクロガネのデスクに置いた。


「いきなり何だよ? びっくりするだろうが」


 思わず落とした本を拾い上げる。


「ごめんなさい。だけど見てくださいこれ!」


 興奮状態の助手に促されて段ボール箱の上面に貼られた伝票を見る。


 宛先は『クロガネ探偵事務所 安藤美優様』、差出人は市内の呉服店名が明記されてあった。


「ようやっと来たか。結構ギリギリだったな」


 思わずカレンダーを見やったクロガネは安堵する。

 段ボールの中身は制服だ。

 来月から私立才羽(さいば)学園に編入する美優のために、二週間ほど前から発注していたものである。


 例年地域によっては、学生服や制服の納入は入学式に間に合わないという問題が少なからず発生するため心配していたのだが、それも杞憂に終わった。


「ちょっと着替えて来ますね♪」


 緑色の義眼を爛々と輝かせて段ボールを持ち上げた美優は、上機嫌で脱衣所に向かう。二階の自室に行くのも惜しいと言わんばかりだ。


 浮かれた様子の助手にクロガネは苦笑し、再々度文庫本の続きを読もうとして、


「クロガネさーん、今時のスカートの丈って膝下ですか? 膝上ですか?」


「いや知らんがな」


 脱衣所からの声に、真顔で応えた。

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