表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に巣くうもの  作者: tebati
第一章 忘観者
3/3

1‐2 見えない絵画

「ごちそうさまでした」


 昼食は私が作ったハンバーグとお米、それからインスタントの味噌汁だった。

 アキさんの分も作ってはいたのだが研究に集中していたせいかインターホンで呼んでも全くくる気配がなく、仕方なく直接地下1階まで降りて行くと、先ほどの最近気になっていた異臭の源になっているオブジェクトを発見したのだ。

 結局アキさんはあの後も研究に戻ってしまい、私一人の昼食である。

 食べ終わった後に一粒だけ薬を飲み、皿を洗面台に置き、アキさんの分をラップで包んで冷蔵庫に入れて、と片付けを進めていく最中、私は先ほどアキさんに言われた変異点について考えていた。


 見えない絵画ってなんだろう。

 可能性として高そうなのは、

 表面などに何かしらの加工がしてあって、条件を満たさないとそれが剝がれない、とか、見た人に対して何かしらの異常が掛かって認識を阻害している、辺りかな。

 いや、アキさんが見てほしいというくらいだから両足がついて走り回るとかかもしれない。

 ただ、一番最後のやつは某フリーホラーゲームの似たようなやつで結構びっくりしたからやめてほしいけど。


 どれだけ想像力を働かせるよりも実際に見た方が早いと分かっているがつい考え込んでしまい、気づくとあまりしない換気扇の掃除まで終わらせていた。

 ちょっと遅くなったかな、なんて思いながら階段をトテトテと駆け下りもう一度アキさんのもとへ行くと、異臭の物体は少し奥の方に移動させられており匂いは少しだけましだった。


「アキさーん、来ましたよー」

「お~、こっちこっち~。」


 アキさんのもとへ向かうと、アキさんはさっき言っていたものだろう大きな額縁の近くにいたが、私からは後ろ向きで何が描いてあるかは見れない。


「それがさっき言っていたやつですか?」

「そだよ~、()()()

「足は生えてないんですね」

「……?」


 何を言っているんだ、という顔でアキさんがこちらを見るが私は気にせずに続ける。


「で、どうしてその絵画が見れないんですか?」

「ああ、そうだねぇ……、うん、絵じゃなくてしばらく僕のことを見ておいてほしい。もし何か言っていたら覚えておいてほしい」

「分かりました」


 恐らく口で説明するより早いということなのだろう、私はすぐに了承した。


 アキさんは絵画の正面に回り込んでそれを見ると、すぐにアキさんは険しい顔になる。

 そのまま5秒、10秒程度たっただろうか。


「……多分、これは根っこじゃない」


 急にアキさんが口を開いた。

 それに続けて何かを口に出そうとして次の瞬間には口をつぐむ。

 そのまま再び10秒ほど何も言わない時間が続くと、


「32」


 と、唐突によくわからない数字を唱え、アキさんはその絵画から目を離して額縁の横に回り込む。


「……で、どうだった?」


 そして何も無かったような顔で私にそう問いかけた。


 いや聞きたいのはこっちなんだが?


 質問の意図がわからず困惑し、私は聞き返す。


「どうって、何がですか?」

「いや、ちゃんとボクは絵画を見てたかなぁって」

「だから何を言って…………、ああ、なるほど。……はい、アキさんは20秒弱ほど絵画を見ていました。つまり」


 私はようやくアキさんの言動に合点がいって素直に質問に答える。どうやらこの見えない絵画とやらの異常性は、


「『この絵画は、見た人の、見ている間の記憶を消す』ということですね」


 自分なりに考えた推論は当たっていたようで、アキさんは頷いた。


「今の段階ではボクはそう考えて、『忘却現象』と呼んでいる。見てた最中、ボクがなんか言ってなかった?」

「あ、言ってました。確か、”これは根っこじゃない”っていうのと”32”っていう数字を言ってました」

「それだけ?」

「はい」

「……そっかぁ」


 アキさんはそう言ってまた一人で考え始めてしまった。

 こうなると話しかけても気づかないか無視されるだろう。

 よくわからなくてどうすればいいのか分からない私をほったらかしにするのは止めて欲しいと思うが、結局アキさんに考えてもらうのが1番手っ取り早いのも確かなのだ。

 暇になってしまい、何気なく壁にかかっている時計を見ると思ったよりも時間がたっている。

 あまり大きい音が鳴る時計ではないが、かすかに聞こえる針の音は私の心を落ち着けてくれる。

 首に掛かるか掛からないか位の髪の毛をクルクルと指でいじり、今日の晩御飯の献立を考えていると、


「うん、何となくわかった」


 と、唐突にアキさんが顔を上げる。


「多分、変異点はこの絵画じゃなくて書かれてる内容だ」

「というと?」

「ボクは絵画を見る前に3つ決め事をしてた。

 1つ、必ず30秒以上見ること、

 2つ、その絵画の内容、もしくは考察について4つ以上の描写を声に出すこと、

 3つ、見終わる直前に32ということ」

「……1,2個目は分からなくもないですけど、3つ目はどんな目的で?」

「合言葉みたいなもの。絵画を見ている時に、それ以前の見てないときの記憶があるかの確認。もしも、絵画を見ているときに話しているボクが、ボクじゃない何かだとしたら証言を信用できなくなる」

「……なるほど」


 少し時間がかかったが理解できた。要は、絵画を『見ていないとき』に『見ているとき』の記憶がないように、『見ているとき』に『見ていないとき』の記憶があるかを確認したようだ。

 その数字を覚えてるということは、見ているときはきちんと記憶があるのだろう。


「でも、1つ目2つ目の約束は守ってないですよね」


 体感ではあるが20秒も見ていなかった上に、内容、考察に当たりそうなものは1つしか聞けなかった。


「いや、なずなが忘れてるだけで、多分ボクは30秒以上見たし、その絵画についても結構話してたと思う」

「忘れてる?」

「そう、この絵画に描かれているのが人なのか場所なのか事件なのか分からないけどその内容をAとしよう、Aを示唆する描写、説明を見たり聞いたりした時もこの絵画を見た時と同じような忘却現象が起きる」


 話していると、段々とアキさんは笑顔になってきた。


「滅茶苦茶大掛かりで、明らかに誰か、あるいは何かが意図的にAを隠そうとしている」


 もう表情で次何を言い出すか分かる。



「そこまで隠したいものなんて、気になって仕方ないじゃあないか」



 誰しも見られたくないもの位あるんだからほっといてあげなよぉ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ