海水浴
「ねえ、サージュ、話しがあるんだけど……」
「? イーシャ、何だ?」
サージュは部屋のドアを開けた。
そこにはリエンテもいた。
「リエンテもいっしょか……いったい何の用なんだ?」
「ねえ、サージュ、海水浴に行ってみない?」
「海水浴か……まあ、悪くないが」
「じゃあ三人でいっしょに行きましょう!」
「そうですね。わたくしも海水浴には興味がありますわ」
「リエンテもか……それじゃあ、水着を買いに行かないとな」
「そうね。マリーノのデパートに買いに行きましょう!」
サージュたちはマリーノのデパート、ショッピングセンターを訪れた。
海の都マリーノは人工的に建設された都市である。
マリーノは大きな島の上に建設された。
その島の面積が一つの都市が入るくらいの大きさしかない。
祖先がこの島に移住しようと決断したのは、残忍な竜から逃げるためであったという。
そして神が天から光を与えて、その島へと移り住めと人々に命じたらしい。
これは建国神話であった。
人々は移住する際、海に近接するエリアを中心にして都市を建設した。
マリーノ人には海に接していることが都市建設の条件だった。
このような土地に入植する時、必ず、先には行った者たちが一番いい場所を占領する。
もっとも何を持って一番いいところとするかは、各々の民族によって異なるのだが……
マリーノ王国は、海洋民族の国であり、各地と船による交流をしていた。
海には二種類ある。
人を結び付ける海と、人を隔てる海に……
サージュたちが旅した海では人と人は結び付けられた。
当然、商業やビジネスが積極的に起こり、経済は活性化する。
マリーノ王国は海軍と、現在では海軍航空隊にあたるグリフォンを飛兵として活用している。
マリーノ王国では特に、経済地区では商業が行われていた。
その商業区に、サージュとイーシャ、リエンテが来ていた。
マリーノでは複合ショッピングセンター方式が採られており、いくつもの複合商業施設となっていた。
それによって、商業をより、活性化させるためである。
サージュたちは水着売り場までやって来た。
「じゃあ、サージュ、私たちはこっちに行くから」
「また、合流しましょう、サージュさん」
「ああ!」
サージュは自分の水着を探しに売り場に入った。
サージュは青いハーフパンツという条件しかなかったので、ごく平均的なものを選んだ。
サージュは支払いを済ませると、ベンチに座った。
そこでサージュは視線を感じた。
その相手がどこにいるのかはわからなかったが、明らかにこちらを見ている。
「おまたせ、サージュ!」
「お待たせしました、サージュさん」
「いやいや、そんなに待っていないよ。それにしても、気をつけろ。誰かがどこかで俺たちを監視している」
「監視?」
「誰かがこちらをうかがっている。殺意や敵意がないところを見ると、監視何だろうね。まあ、いいさ。ところでこの辺りで食事を取っていかないか?」
「いいわね。賛成!」
「わたくしも賛成です」
午後、さんさんと太陽が照りつけてくる。
海水浴には絶好の日よりだった。
サージュたちはさっそく水着に着替えた。
(今は視線がないな……どこに行ったんだ)
「サージュ―! お待たせー!」
「サージュさん、お待たせいたしました」
イーシャは青の水着で、ビキニに、パレオをまとっている。
イーシャの体つきはスリムだが、出るところは出ていてアクセントになっている。
リエンテの水着は白のワンピースで、普段は服の下に隠れているエロい、豊満な体があらわになっていた。
「さて、なにして遊ぶ?」
「そうね! ビーチバレーでもやらない?」
「ビーチバレーか。望むところだ」
サージュ対イーシャ&リエンテでビーチバレーをすることにした。
サージュはレシーブで受け止めて自分一人でスパイクを決めた。
そこをリエンテがあっさりレシーブで上に上げ、イーシャが軽く打ちつけてくる。
そんなことをやっていると、海の方から叫び声が聞こえた。
「わああああああああ!?」
「きゃあああああああ!?」
「いやあああああああ!?」
「何だ!?」
「サージュ、あれ!」
「あれは……スライム! なんて巨大なんでしょう!?」
「このままじゃ海水浴客が襲われる! イーシャ、リエンテ、あいつのところまで行くぞ!」
「おっと、それは許さないんだな」
ここから先には行かせないであります!」
「おまえたちは……そうか、俺たちを監視していたのはおまえたちだな!」
「ははははは! 正解なんだな!」
「我々はあるお方の命を受け、あなた方を監視していたのであります!」
「誰がそれを命じた?」
「ははははは! それは言えないんだな!」
「口が裂けても言えないであります! ですがあなたをよく知る人物であります!」
「俺をよく知る……」
「サージュ、今はあのスライムを止めないと!」
「サージュさん!」
「わかった。俺がこの二人の相手を引き受ける。二人はそのあいだにスライムの相手を頼む!」
「わかったわ!」
「わかりました!」
「おまえたちの名前は何だ?」
「俺はシモーネ(Simone)」
「我はグレゴリオ(Gregorio)」
シモーネは短い胴に太った体型で斧を持っていた。
グレゴリオはのっぽな体つきで、槍を持っていた。
「グオオオオオ! 爆炎斧!」
シモーネは炎の技を使った。
シモーネは炎の斧でサージュに斬りかかってくる。
シモーネの攻撃をサージュは水の剣で防ぐ。
「風刃であります!」
グレゴリオが風の刃をサージュに向けて放ってきた。
「くうっ!?」
サージュは横によけて風刃をかわした。
「次も行くであります! 風魔突!」
グレゴリオが風の突きを飛ばしてきた。
「水煌剣!」
サージュは水の剣で風魔突を受け止める。
そこのすぐさまシモーネが斧でサージュに斬りかかってくる。
この二人のコンビネーションは息があっていた。
この二人はサージュに攻撃の隙を与えない。
「く!」
サージュはシモーネの攻撃をガードした。
「はあああああ!」
サージュは水を刃へと変化させた。
それがのこぎりのような鋭い形になった。
「水波斬!」
サージュの水の斬撃がシモーネを追いつめる。
「なっ! こいつ!?」
シモーネは慌てた。
サージュはシモーネとグレゴリオを一直線で並ばせた。
これでグレゴリオのサポートを無力化できる。
「はいやああああ! 爆力!」
シモーネが自身に炎をかけた。
爆力は力を純粋に高める魔法だ。
サージュは一気にシモーネの横を通り過ぎた。
「あれ? あれれ? どうしたんだな!? 爆力が消えたんだな!?」
「おまえの魔法は斬らせてもらった」
サージュはグレゴリオに向きなおると、水波斬で攻撃した。
「ヒイイイイイ!? シモーネ隊長! これ以上は無理であります!」
「くっ! ここは引き上げ時なんだな! 覚えているんだな!」
シモーネとグレゴリオは逃走した。
一方、巨大スライムの方は――
イーシャは氷の魔法を放った。
「つらら!」
巨大なスライムの真上からつららが降り注ぐ。
しかし、その程度では巨大スライムの動きは止められない。
「氷牙!」
リエンテが氷のレーザーをいくつも撃ちだした。
そして氷の牙でとどめを刺す。
しかし、巨大スライムにダメージを与えた様子はなかった。
「イーシャさん、多連・氷結槍は出せますか?」
「出せるけど、どうして?」
「この巨大スライムには通常の氷魔法は効かないでしょう。なら二人が同じ魔法を出すのが良いかと」
「そうね。それじゃあ、出しましょう!」
「「多連・氷結槍!!」」
二人が多連・氷結槍を出した。
すさまじい数の氷の槍が巨大スライムに飛んでいく。
さすがの巨大スライムもこれは吸収しきれずに体を凍らせた。
しかし、これでもなお巨大スライムは前進しようとする。
もはや本能が行動へと駆り立てるのだろうか。
「リエンテさん! 大魔法でやっちゃいましょう!」
「ええ、そうですね!」
「氷獄!」
イーシャが唱えたのは氷属性大魔法「氷獄」である。
膨大な氷が巨大スライムを凍り付かせる。
冷気があふれて巨大スライムの動きを鈍くする。
巨大スライムは全身を凍らせた。
「氷禍陣!」
リエンテが氷魔法を唱えた。
氷が地面からあふれ出る。
あふれ出た氷は巨大スライムを貫き凍り付かせる。
巨大スライムは完全に凍り付いた。
「鉄球!」
イーシャが土の魔法を唱えた。
鉄球が命中すると、巨大スライムは粉々に砕け散った。
一人の男がその様子を眺めていた。
「フフフ、サージュの奴め、実力を上げたな。もっとも実力を上げたのはこの私も同じだが……さて次は彼らをポントゥス海に招くとしよう……マリーノの歴史を知るがいい。フフフ、フハハハハハ!」