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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
6/65

リエンテ

マンドラゴラを倒した次の日。

朝になった。

サージュは宿屋の部屋で目を覚ました。

サージュは用意を済ませると、部屋の外に出た。

「あ、サージュ、おはよう」

「イーシャ、おはよう」

隣の部屋からイーシャが出てきた。

ばったりと出会い、互いにあいさつする。

今日、サージュは町を見て回るつもりだった。

「今日はどうするの?」

「今日は町に出て見て回ろう」

「わかったわ」

イーシャはうなずいた。

サージュとイーシャはさっそく宿を出て、町中へと向かった。

商業都市ヴェノーザは交易によって栄えた町である。

町にはたくさんの店が軒を連ね、商売に励んでいた。

サージュとイーシャはいろんな店を見て回った。

この町では商人文化が栄えており、服や靴といった身の回りの品でも商業の色どりがあった。

町の道路でも、多くの商人や旅人が行きかっていた。

商人たちは旅人を捕まえて、商いをしていた。

街道交易、それがヴェノーザの空気であった。

街道を通って、いろんな品物が都市に流入してくるのであった。

二人が町を散策していると何やらあわただしい一群を見かけた。

めいめいに武装していた。

「何だろう?」

「武装している人たちね。何かあったのかしら?」

サージュとイーシャは武装している一群に注目した。

彼らには緊張感があった。

どうもただ事ではないらしい。

サージュは事の次第を尋ねてみることにした。

「あの、何かあったのですか?」

「この先の広場に飛竜が現れたんだ」

「飛竜、ですか?」

「今のところおとなしくしてるが、いったい何をしでかすかわからないからね」

「我々はこの町の自警団員なんだが、竜と正面から戦えるほどの装備ではないんだ」

「だから、今はこうして警戒、監視することしかできないんだ」

自警団員が次々と口にした。

今は自警団が飛竜を警戒しているさなかのようだ。

「この先の広場に飛竜が現れたらしい」

「飛竜?」

「この人たちは町の自警団で、飛竜を監視しているみたいだ」

「ふーん、そう。それにしても、また竜なのね」

「そうだな」

「こんなに竜と出会えることってあり得るのかしら?」

イーシャは竜の出現をいぶかしんだ。

「とにかくこのまま何事もなく、立ち去ってもらいたいな」

「竜を刺激するのはやめておいた方がいい。暴れ出すかもしれないからな」

サージュは自警団員が話をしているのを耳にした。

「みなさん! お任せください! この剣にかけて、竜など私が倒してみせます!」

そこに現れたのはピエットだった。

ピエットは剣を抜き、高く掲げた。

相変わらずの派手な服装である。

「ピエット……」

「何を言っているのよ、あの人は……」

サージュとイーシャはピエットに呆れた。

ピエットは宣言した通り、広場に向かって走っていった。

「俺たちも行こう! ピエットを止めないと!」

「まったく、何を考えているのかしら!」

サージュとイーシャはピエットを追って広場へと向かった。

「フフフフ、この私が飛竜など打ち倒してみせましょう!」

ピエットは不敵に言った。

広場には竜がいた。

広場の中心には噴水が湧き出ており、飛竜は水を飲んでいた。

そこに、サージュとイーシャが到着した。

「ピエット、竜を刺激するな!」

「危ないわよ!」

今のところ飛竜はおとなしく暴れ出すような気配はない。

「ややっ! お二人とも久しいですね。ですが、心配には及びません! 私の刃で飛竜などたちまちたやすく仕留めてごらんに見せましょう!」

ピエットはなおも誤解した。

「ああ、もう! そうじゃなくて!」

サージュがピエットを止めようとしたその時。

「お二人とも、ここはわたくしに任せてください」

サージュとイーシャの背後から声がした。

二人は後ろを振り返った。

そこには一人の女性がいた。

この女性は神秘的な雰囲気を出していた。

手には杖を持っていた。

彼女は長い桃色の髪をしていた。

「任さてくださいって、どうする気なの?」

「大丈夫です」

そう言うと女性は二人のもとを通り過ぎ、飛竜に近づいて行った。

「危険だ!」

サージュが口にした。

しかし、女性は飛竜と触れることができる距離まで歩いて行った。

飛竜が女性の存在に気づいた。

女性は飛竜を見上げた。

女性は飛竜にサージュがわからない言葉で話しかけた。

「さあ、もうお帰りなさい」

飛竜は翼を広げると、羽ばたいて広場から去っていった。

「すごい……いったい何をしたんだ?」

サージュは目の前で起こったできごとに呆然ぼうぜんとした。

「さあ、これでもう安全です。飛竜は去りました」

女性はサージュに近づいて言った。

「何をしたの? 何かをしゃべっていたけれど?」

イーシャが女性に尋ねた。

「竜の言葉で話しかけたのです。竜に通じる言葉です。私はあの飛竜にここから去るよう促しました」

「あなたは?」

サージュが聞いた。

「わたくしはリエンテ(Liente)と申します」

「リエンテ……」

「お二人には感謝します。あの竜に危害を加えなくて」

「いや、特に感謝されることはしてないさ」

「……お二人に聞きたいことがあります」

「何?」

「人間と竜は互いに共存できると思いますか? それともできないと思いますか?」

リエンテは自信がなさげだった。

どこか迷いがあるようにサージュには見えた。

「そうだな。互いに領有圏を侵犯しなければ共存して行けるんじゃないかな。もっともそれを竜が理解できるかはわからないけど……」

「そうね……竜が人間を襲わなければできるかもしれないわ」

「そう、ですね。ありがとうございます」

リエンテは笑った。

「私には人間と竜が共存できるか、わかりません。竜にも善きものと悪しきものがいるのも事実です。悪しき竜は人間に危害をくわえるでしょうから」

「それは人間の側でも同じさ。善い人もいれば悪い人もいる」

「難しいことを聞いてしまい、もうしわけありませんでした。では、私はこれで失礼します」

リエンテはサージュとイーシャに一礼すると、広場から去っていった。

サージュはその様子を見守った。

「神秘的な人だったな」

「そうね……竜の言葉を話せる人……」

「あああああああ!?」

そこでピエットが大声を上げた。

頭のハットを両手で抑えている。

「私の誉れはどこに行ってしまったのですか!? せっかく私の武勇伝に新しい1ページができ上るはずでしたのに!?」

「……それはどうでもいい」

サージュは呆れてつぶやいた。

飛竜がいなくなったことで、自警団の監視は解かれ、自警団は解散した。

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