南の村へ
フォルトゥナは今日も祭儀を司った。
祭壇を水で清めるのはフォルトゥナの日課であった。
「なんなのかしら……ふしぎね。今日は太陽と空が一段と美しく見えるわ」
フォルトゥナは青い空を見た。
フォルトゥナは浜辺にいた。
波の音が繰り返される。
その時フォルトゥナは足音に気づいた。
フォルトゥナの前にはサージュとイーシャがいた。
「ただいま、母さん」
「ただいま、フォルトゥナさん」
「あら二人とも!? うふふ、おかえりなさい」
フォルトゥナは暖かくほほえんだ。
「なあ、母さん、話しがあるんだ」
「何、サージュ?」
二人はテーブルで話をした。
「俺はどう生きるべきなのかな?」
「どうしたの?」
「俺は冒険の旅をしてきた。でも、俺は途中で迷った。このまま旅を続けていいのかって……むしろ定住して、農耕を営むべきなのかなって思ってさ。
だから帰ってきたんだよ。俺はどうしたらいいのかな?」
サージュの言葉にフォルトゥナは深く沈黙した。
そして言葉を発した。
「サージュ、今あなたは神と共に在るのよ」
「それはどういうこと?」
「あなたは宗教的な決断をしなければならないの。宗教とは神と人をそして人と人を結び付けるものよ。あなたは選択しなければならない。つまり、旅する冒険者として生きるか、農耕を営む農民として生きるのかを。
それはどちらの道も正しいのよ。そのどちらの道を選び、進もうと、神はあなたと共に在り、あなたを導き、あなたを招き、そしてあなたを祝福してくださるでしょう。神は天と地の創造主であり、父にして、唯一のお方。サージュ、あなたの決断はイーシャちゃんの人生も変えることになるのよ。どちらの道も正しく間違っていないわ。それでも、そのどちらの道に進むかであなたの人生はまったく違ったものになる」
「……」
フォルトゥナの言葉にサージュは何も言えなかった。
「こういう言い方はあなたの決断に負担をかけてしまうかもしれない。それでもあなたは決めねばならない。人は時に宗教的な判断を迫られる。あなたの生き方はイーシャちゃんの生き方にまで影響をあたえるわ。
そして、あなたは自分自身をもっと知らねばならない。『海の子』としての自分自身を」
サージュは海の前で座っていた。
サージュは海が好きだった。
太陽も月も、空も雲も、星々も好きだった。
それでもサージュは海が一番好きだった。
自分にとって海は生まれ故郷であり、ふるさとだった。
サージュはずっと海を見ていた。
太陽が青い空で輝いている。
「サージュ」
サージュは声の方を見た。
そこにはイーシャがいた。
「隣、いい?」
「ああ、いいよ」
イーシャはサージュの隣に腰を下ろした。
「俺はいろいろな海を見たけど、この海が一番好きだな」
「そうね。私も同じよ。やっぱり南の村の海が一番ね」
イーシャも海を見つめた。
「それで、両親はどうだった?」
「なんていうか、大げさすぎよ。一人娘が旅に出たって、そんなに心配しなくてもいいのに……それにどこかで育て方を間違えたとか思っていたらしいのよ。失礼しちゃうわ」
「でも、イーシャの両親が良い人なのは確かだろ?」
「それはそうなんだけど……ところで、サージュはどうだったの? フォルトゥナさんとなにか話をした?」
「ああ、話した。俺はこれからどう生きて行けばいいのかなってね」
「それで、決まったの? 冒険者? それとも農民?」
サージュはイーシャの方向を向いた。
「始まりがあるものには終わりがある、そう思っていたけれど違うね」
「どうして?」
「新しい始まりさ。新しい始まりが始まるんだ。これから、ね」
「サージュはどっちの道に進むの?」
「俺は冒険者として旅をして生きる。それが俺の答えだ」
「なら私もついて行くわよ。今度も私を置いて行ったら許さないからね」
「そうだな。今度もいっしょに旅をしよう」
サージュはそう言うと、イーシャの左手に自分の右手を重ねた。
イーシャはほおを赤らめた。
そんな二人の様子をフォルトゥナが眺めていた。
あの二人には二人のペースがあるのかしら、ね。
やっぱり自然に任せておくのが一番なのかしら?
フォルトゥナは新しい世代の二人を暖かくほほえましく見ていた。
主よ、あの二人に祝福を。




