ネクロギガス
サージュたちは各人の部屋で休んだ。
リエンテは自分の部屋に水晶球を置きムクロの探知トラップを仕掛けた。
サージュはイーシャの部屋を訪れた。
ドアをノックする。
「イーシャ、いいか?」
「いいわよ、どうぞ」
サージュはイーシャの部屋の中に入った。
「何?」
「少し、話したいと思ってね」
「それなら、座って話しましょう」
サージュとイーシャはベッドに座った。
「今日、サージュはどこに行ってきたの?」
「ああ、教会に行ってきた。神聖な建物だったよ」
「それで、話しっていうのは?」
「ああ、俺は迷っているんだ。このまま旅を続けるか、それとも南の村に帰るか……」
「そうね……ずいぶん遠くまで来たものね。南の村で暮らしていた時には考えられなかったものね。私も南の村が懐かしいわ」
イーシャは感慨にふけった。
「なんかさ、平和だからこんなことを考えるようになったんだと思う」
「平和だから?」
「俺はこれからどう生きていくのかってことさ。冒険者として生きていくのか、それとも定住して農民として生きていくのか……イーシャはどう思う?」
「私はサージュといっしょなら、どっちでもいいわよ」
イーシャはほおを赤らめて言った。
「それは俺が冒険者で農民でもいいってことか?」
「うん。だって、サージュはサージュだもの。どこに行ったって、どこで何をしたって……」
「ルブリウスが死んだ。だから、竜族による人間世界の侵攻も阻止できた。イシャールも死んだ。人間が竜との戦争に至ることもなくなった。フォルネウスも死んだ。人間の抹殺もついえた。どれも世界的な事件だった。でもそれらはみな解決された。そして世界に平和が訪れた。そうなると考えてしまうんだよ。俺はこのままでいいのかなって……人生は一度きりだ。人は生き、そして死ぬ。誰もが皆この理から逃れられない。俺たちの宗教では人は死後魂となって天国か地獄に行くらしいけど……こんな時には母さんに相談したいな」
「そうね。フォルトゥナさんならいい助言をしてくれると思うわ」
「イーシャの両親なら、どう思う?」
「私の両親は混乱すると思うわ。だっていきなり旅に出るっていなくなったんですもの。もっぱら『善良な人』って評判だけど、その分だけ『外れた』ことが理解できないのよね……」
「イシャールは言った、おまえの生きていることの意味は何だと……」
「なんか、難しいわね」
「なまじ、平和になったからかな……難しいことばかり考える。始まりがあるものには終わりがある……」
二人はしばらく沈黙した。
「サージュさん! イーシャさん!」
そこにリエンテが入ってきた。
「探知しました! 急いで現場に行きましょう!」
「わかった、急ごう!」
サージュたちは宿を出た。
サージュたちはリエンテの水晶球に導かれるまま、夜の町を走った。
「うあ!?」
「がっ!?」
「ぎゃああ!?」
警官たちがやられた。
サージュたちは現場に駆けつけた。
そこには異形の怪物がいた。
この怪物は胴に顔と目、口を持ち、大きな腕をして、二つの足で立っていた。
「こいつが『ムクロ』か!?」
ムクロは右手で一人の警官を握りしめた。
「ああああああ!?」
ムクロは無造作に警官を投げ捨てた。
ムクロはサージュたちに視線を移した。
「なんなの……禍々しい力を感じるわ」
「なんて邪悪な存在感なのでしょうか……邪悪な力に満ちています」
ムクロは灰色の体をしていた。
「行くぞ!」
サージュはムクロに斬りつけた。
ムクロは平然としていた。
サージュはムクロに不気味さを感じた。
ムクロは両手の鋭い爪を振り下ろした。
サージュはバックステップで回避した。
ムクロはサージュを狙い、両腕で薙ぎ払った。
サージュはムクロと距離を取ってかわした。
すぐにサージュはムクロに反撃した。
剣で斬りかかる。
「こいつ、攻撃が効いてないのか!?」
ムクロが右手でサージュを薙ぎ払った。
サージュはジャンプしてかわし、ムクロに斬撃を叩き込んだ。
サージュはムクロの攻撃を警戒し、再びムクロと距離を取った。
「サージュさん、イーシャさん、気をつけてください! ムクロがどんな攻撃をしてくるか、まだわかりません!」
リエンテが二人に警告した。
ムクロは口をふくらませた。
それから激しい炎をはきつけた。
サージュは剣に水をまとわせた。
サージュは水の剣で炎を相殺した。
「聖なる玉よ!」
イーシャは神聖魔法を唱えた。
聖なる玉がムクロの周囲に集まり、レーザーを照射した。
ムクロは聖なる攻撃を受けてよろめいた。
「? 何だ?」
ムクロの体から黒い気が発せられた。
ムクロの傷が再生した。
「再生したのか!?」
ムクロは魔法を唱えた。
炎の波が三人を襲った。
サージュは水の刃で炎の波を斬り裂いた。
そしてサージュはさらに水の刃でムクロを斬りつける。
鋭い刃がムクロに傷を与える。
リエンテは光の魔法を唱えた。
「光よ、ここに!」
きらめく光が降り注ぐ。
ムクロは大きなうめき声を上げた。
「今だ!」
サージュはジャンプしてムクロに斬りつけた。
ムクロはよろめいた。
ムクロは体勢を整えるとサージュを殴りつけてきた。
サージュは横によけてかわした。
さらにムクロはサージュに爪で斬りつけた。
サージュは後方に跳びのいてかわした。
ムクロの傷が再生した。
「また、再生したのか!?」
「これじゃきりがないわ」
「まずいですね……何とかしてムクロの再生を封じなくては……」
ムクロは両手を上げ、口を開けてサージュたちを威圧してきた。
ムクロは口から激しい炎をはいた。
「任せて!」
イーシャはワンドから水流を放った。
ムクロの炎は消化された。
突然、ムクロの体から妖しい光が発せられた。
「何だ?」
ムクロの姿は影と化し、消えていった。
「……どうやら逃げられたようですね」
リエンテはけわしい視線を送った。
「逃がしてしまったわね……」
「ああ、仕留められなかった」
サージュたちはミラネウムの宿で、昼頃目を覚ました。
サージュとイーシャはリエンテの部屋にいた。
「結局、昨日はムクロを逃がしてしまったな」
「そうね。これで振り出しに戻ってしまったわ」
リエンテはテーブルのイスに腰かけて、水晶球を見つめていた。
「サージュさん、イーシャさん、昨日わたくしは気になる反応を見つけたのです」
「気になる反応?」
「それは何なの?」
「うまく説明できないのですが、闇の魔法があった反応なのです。場所は近くまで特定できましたが、そこが何かムクロのことを知る手がかりになるかもしれません。どうでしょう、今から行ってみませんか?」
サージュたちはリエンテの案内のもと、町の中を歩いた。
リエンテは水晶球を前に浮かべて、歩いていた。
「町の郊外に向かっているようです」
サージュたちはさびれた郊外の一軒家を見つけた。
ひと気がない家と、さびれた土地だった。
「何だ、ここは?」
「ここから反応が出ています」
「外から見ると、さびれたボロボロの家にしか見えないけど……」
リエンテは二人を先導した。
「入ってみましょう」
三人はボロボロの家に入った。
家の中には地下へと向かう階段があった。
「階段だ……」
「行ってみましょう」
リエンテは階段を下りて行った。
三人は地下室に足を踏み入れた。
「ずいぶんと、広いのですね」
「何、これ? 焼けこげた跡があるわ」
地下室には黒い焦げた跡がついていた。
「この中で何かが炎上したのか?」
サージュは周りを調べた。
物はみな壊れていた。
「二人とも、来てください!」
「どうした?」
「何かあったの?」
リエンテが二人を呼んだ。
地下室の隅に死体が転がっていた。
「死体だ!」
「これは、何なの!?」
「おそらく、この地下室で実験が行われていたのでしょう。それにこの焼け跡からはムクロの気配を感じます」
死体は焼き焦げ、黒ずんでいた。
サージュは燃え残った書類に目を通した。
「? 究極人造生命体? 『ネクロギガス(Nekrogigas)』? これは……」
「どうしたの、サージュ?」
イーシャがのぞきこんだ。
「リエンテ、この紙を見てくれ」
「はい……究極人造生命体ネクロギガス?」
「ネクロギガス……それがムクロの名前じゃないのか?」
「それでは、ネクロギガスはここで誕生したのでしょうか? おそらく、この死体は闇の魔道士でしょう。ここで闇の魔法の実験をしていたのでしょうね。この人はネクロギガスに殺されてしまったのでしょう……」
その日の夜もリエンテはネクロギガスを探知した。
サージュたちは現場に急行した。
そしてネクロギガスと対面した。
「また、現れたな! 今度は逃がしはしないぞ!」
サージュは剣を構えた。
しかし、ネクロギガスに異変が起こった。
「何だ?」
ネクロギガスの体から、新しく頭が生えた。
この頭は三つの目と、二つの角を持っていた。
ネクロギガスの全身から邪悪で禍々しいオーラが発せられた。
「これが、ネクロギガス……!?」
イーシャが唾をのんだ。
「おそらく、これがネクロギガスの完全体です!」
リエンテは杖をかざした。
光の円陣がネクロギガスを包んだ。
「これで、ネクロギガスの再生を封じます。ですから、わたくしは戦いに参加できません。戦いはお二人に任せます!」
「わかった!」
「あとは任せて!」
サージュとイーシャは戦闘に臨んだ。
ネクロギガスは腹の口から二人に灼熱の炎をはきつけた。
「くっ!?」
サージュは水の剣で炎を防いだ。
イーシャは水の障壁で炎をしのいだ。
ミラネウムの広場での戦いだった。
ネクロギガスの炎はあふれかえった。
サージュはネクロギガスに斬りかかった。
ネクロギガスは豪腕を振るった。
サージュはジャンプしてかわし、再び剣で斬りつけた。
ネクロギガスが鋭い爪を振り下ろした。
サージュは横にそれてかわした。
「聖なる光よ!」
イーシャがワンドを前に突き出した。
ネクロギガスの足元から聖なる光の柱が現れた。
ネクロギガスはダメージを受けた。
その隙に、サージュは聖なる光の刃でネクロギガスをめった斬りにした。
ネクロギガスはふらついた。
ネクロギガスは大きな手をサージュに叩きつけた。
サージュは後ろに下がってかわした。
ネクロギガスは両手に魔力を集めた。
ネクロギガスは両手を突き出し、魔力を解き放った。
赤い爆発がサージュたちのあいだで起きた。
「くっ、やるな……」
サージュとイーシャはとっさに水の障壁で防いでいた。
なおもネクロギガスは魔力を高めた。
ネクロギガスは両手を突き出し、熱線を放った。
サージュとイーシャは左と右によけた。
熱線が町中を突き抜けていった。
ネクロギガスは手に炎を集め、炎の塊をイーシャに投げつけた。
「水よ!」
イーシャはワンドから水の球を発射して炎を迎撃した。
ネクロギガスはイーシャを狙って灼熱の炎をはいた。
「!? そうはさせるか!」
サージュは水を剣にまとわせると、力をこめて炎を斬り裂いた。
サージュはイーシャの前に立ちふさがった。
「どうやら、私が狙われているみたい……」
「俺が奴の注意をこっちにそらす!」
サージュは再びネクロギガスに斬りかかった。
剣で横に斬り払う。
ネクロギガスは両腕でサージュと格闘を始めた。
サージュはネクロギガスの攻撃を巧みにかわし、剣で斬りつけた。
イーシャは聖なる魔力をワンドに収束した。
「聖なる槍よ!」
聖なる槍が四本、ネクロギガスめがけて上空から発射された。
槍はネクロギガスに突き刺さった。
ネクロギガスは苦しみ、もだえた。
「これで、最後よ!」
イーシャは大魔法を発動した。
上空に巨大な剣が現れた。
聖なる巨大な剣はネクロギガスに発射された。
巨大な剣はネクロギガスの腹を貫いた。
ネクロギガスは絶叫を上げた。
サージュは聖なる光の剣でネクロギガスを連続で攻撃した。
青白い、光の刃が猛烈にネクロギガスに襲いかかる。
サージュは最大の力をこめて、ネクロギガスに聖なる剣を叩きつけた。
ネクロギガスは大きな悲鳴を上げた。
ネクロギガスは闇の霧と化し、その体は崩壊していった。
ネクロギガスは消滅した。
「お二人とも、お見事です。闇の脅威は去りました」
「リエンテがあいつの再生能力を封じてくれたからさ」
「そうよ。リエンテさんの封印がなかったら、私たちの方が力尽きてしまったかもしれないわ」
「これで『ネクロギガス』の事件は解決したな……」
サージュは聖剣シャイネードを見つめた。
「? どうかしたの、サージュ?」
「いや、別になんでもない」
「そう? ならいいけど……」
「それでは宿に戻りましょうか。今日は安心して眠ることができますね」
サージュは考えていた。
始まりがあるものには終わりがある。
俺たちの旅はどこで終わるのだろうか。
また、どういう終わり方をするのだろか。