表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
40/65

女竜王フォルネウス

黒い竜の来襲はそれまでにとどまらなかった。

黒い竜の群れはついにアレンタ上空に現れた。

「あれは何!?」

イーシャはいち早く竜の群れに気づいた。

「あれは……フォルネウスの眷属です! フォルネウスの眷属ニーズヘッグです!」

リエンテが叫んだ。

黒い竜の群れはサージュも確認した。

「あれはいったいなんだ!?」

「黒い、何かがたくさん集まっている……竜? 竜の群れか?」

ディウスは冷静に事態を分析した。

「俺は自分の武器を取りに戻る! おまえも自分の武器を持ってくるんだ!」

「ああ、わかった!」

そう言うとディウスはA組の出入口に走り去った。

サージュもシャイネードを取りに控室に戻った。

サージュはシャイネードを手にすると、再び闘技場に向かった。

黒い竜たちはコロッセウムを襲撃した。

黒い竜たちは口から闇の息をはいて人々を攻撃した。

観客たちは大混乱に陥った。

人の数が多く人口密度が高いため、思うように逃げられなかった。

開催委員会が人々の誘導を試みても、まったく人々には通じなかった。

「観客の皆さん! 落ち着いてください! 一度に押し掛けるのではなくて……!? きゃあああああ!?」

ついに司会のアナウンスまで停止した。

人々はパニックに陥り、我先にと逃げ出そうとして狭い道に殺到した。

人々からはもはや理性が失われていた。

イーシャは空中から飛来する黒い竜にイナズマを放った。

しかし、黒い竜には当たらなかった。

「ああ、もう、狙いにくい!」

「光よ!」

リエンテは杖先に光を収束し、撃ちだした。

光のビームが黒い竜を撃墜した。

サージュは闘技場に再び戻ってくると、黒い竜たちと交戦した。

ニーズヘッグが二体、サージュの前に着地した。

サージュは聖剣シャイネードでニーズヘッグを斬り捨てた。

ニーズヘッグは倒れた。

黒い竜は黒いもやとなって霧散した。

ディウスも黒い竜と戦っていた。

ディウスの武器は長剣だった。

ディウスは黒い竜との戦いでは意外と手を焼いているようだった。

サージュは走りこむと、ディウスの前に立っていた竜たちを一刀のもとに斬り捨てた。

黒い竜たちは倒れ、霧散した。

「大丈夫か?」

サージュがディウスに言った。

「今のは……すごいな。あの竜たちを一撃で仕留めるとは……」


元老院に、ついに首都アレンタにまで黒い竜の群れが現れたことが伝わった。

元老院は騒然となった。

首都アレンタに黒い竜の群れが出現! 

執政官セルウィウスはここに至って、自ら軍を率いる覚悟を決めた。

セルウィウスは首都に待機してた軍団を出撃しせ、黒い竜の迎撃に向かった。

アレンタ市内は戦場と化した。


サージュたちはコロッセウムで黒い竜ニーズヘッグと交戦した。ニーズヘッグは空から蜂の群れのように、現れ攻撃してくる。

イーシャはワンドからイナズマを放った。二匹のニーズヘッグにそれが当たり撃墜させた。

サージュは次々と飛来するニーズヘッグを迎え撃った。

聖剣シャイネードの光が黒い竜を仕留めていく。

「くっ!? きりがないな!?」

サージュは黒い竜を倒しつつも焦燥感にかられた。

いくら倒しても黒い竜は湧いて出てくる。

その時であった。

それまでコロッセウムに飛来してきた黒い竜ニーズヘッグが一斉に去り始めたのだ。

「なんだ? 去っていくのか?」

「黒い竜たちが去っていく……」

イーシャは呆然とした。

「女竜王フォルネウスが眷属たちに引き上げの指示を出したのでしょう。何とかしのげましたね」

そうリエンテが言った。


この情報はただちに元老院に伝わった。

元老院は黒い竜の群れが各都市から引き上げたことを知った。

各都市から黒い竜が飛び去ったという報告を元老院は受けた。

しかし、その後も、軍団への緊急出撃態勢は継続された。

非常事態宣言も出されたままである。

各属州総督にもいつでも竜の攻撃に対処できるようにと、元老院から命じられた。


サージュたちは宿に戻った。

サージュとイーシャはリエンテの部屋に招かれた。

「なあ、リエンテ、今アスカニアでは何が起こっているんだ?」

今は夜だった。

昼には黒い竜の群れがアレンタのコロッセウムを襲った。

サージュたちは黒い竜たちと交戦した。

乱戦だった。

黒い竜たちは蜂の群れのように襲いかかってきた。

被害はコロッセウムだけでなく、戦車レースが開催されていた、ヒッポドルムにまで及んだらしい。

ヒッポドルムは楕円形の競技場で中央にはオベリスクが飾られている。

「今日、コロッセウムを襲撃したのはフォルネウスの眷属たちです。フォルネウスに属する竜たちと考えればわかりやすいでしょうか」

リエンテが冷静に語った。

「どうして竜がアスカニアにやってきたの? それにあの竜たちは露骨に敵意を持っていたわ……」

「フォルネウス、女竜王フォルネウスがついに人間の抹殺を始めたもようです。前にも語りましたが、フォルネウスが望んでいるのは『邪悪な』人間たちの抹殺だからです。フォルネウス……別名は銀ザメですが、彼女は人間たちを敵視しています。彼女の目から見れば、人間たちは病原菌のようなものであり、人間の文明はただの環境破壊にすぎないからです」

「フォルネウスが自分の手下を送り込んできたのか」

「それじゃ、今日の一件じゃ終わらないわね」

「フォルネウスは最終的には人間を絶滅させ、人間の文明を滅ぼすつもりです。フォルネウスは何度でも竜の群れを送り込んでくるでしょう」

「つまり、フォルネウスを倒せば、事態は解決するんじゃないのか?」

サージュがリエンテに尋ねた。

「そうですね。フォルネウスの眷属ニーズヘッグを何体倒してもきりがありません。あの黒い竜たちの頂点に君臨しているのはフォルネウスですから。それがフォルネウスは『女竜王』と呼ばれるゆえでもあります」

「フォルネウスはどこにいるの?」

フォルネウスはアスカニアの北西に住んでいます。彼女の居城は空中庭園ニネヴェ宮です」

「じゃあ、どうやってそこまで行く?」

「それは私が送ろう」

そこに白竜からテレパシーが入った。

「私はフォルネウスの考えには反対だ。人間を根絶やしにするなど、正気の考えとは思えない。人間がどのような存在であれ、この地上で生きていることには意味があると思うからだ」


白竜は一日でアレンタにまでやってきた。

サージュたちはフォルネウスのもとに向かうつもりだった。

サージュたちは夜白竜と合流した。

サージュたちは白竜の背に乗り、夜の中を出発した。

行先はフォルネウスの居城「空中庭園ニネヴェ宮」である。

白竜は夜空の中、サージュたちを乗せて飛んだ。

空には満天の星々が輝き、満月が空に浮かんでいた。

夜は静かだった。

黒い竜の襲撃がウソのようだった。

気流がサージュたちの体に吹き付けてくる。

「寒くはないか?」

「ああ、少し寒い。上空の空気はひんやりとしているな」

サージュが答えた。

夜空には雲がかすんでいた。

白竜は海の上を飛んでいた。

「ねえ、どうして人と竜は争いになるの?」

イーシャが白竜に尋ねた。

「それは何度も話したことだ。だが、それでも一向に決着を見ない。人と竜の在り方、生き方が根本的に違うのだ。文明と自然との対立か」

「文明と自然?」

サージュが言った。

「人は文明を作る。竜は自然のまま。そういうことだ。だとしても、竜は代表にすぎない。人間は今に怪物や魔物とも争うようになるだろう。それらの存在も人間の文明とは相いれないのだから」

「それでも、フォルネウスの眷属からは何か違うものをわたくしは感じました」

「それはどういうことか、美竜王よ」

「説明するのが難しいのですが、フォルネウスは自然よりも『環境』を見ているのではないでしょうか?」

「それでは人の文明と環境が衝突していることになる」

「おそらく、フォルネウスにとって環境こそ一つの天則にもとづく秩序と考えているのではないでしょうか? フォルネウスにとって環境即世界なのではありませんか?」

「ならばフォルネウスから見れば、人間は環境を破壊し、町や都市を建てる野蛮な種族ということになる。フォルネウスの結論は単純明快だ。人間を地上から除去する。そうすれば環境は天則のまま保たれる。人間を除去するために『最終戦争』が行われ、人間が地上から消え去ることで問題は『最終的に』解決される。そういうことになるな」

「フォルネウスにとっては環境は天則、すなわち『アシャ』にもとづいて運行されていると考えているのではありませんか? 天則は同時に世界を運行させる原理でもあると」

「それじゃあ、フォルネウスは天則、世界、秩序、環境を一つと見ているのか?」

サージュが尋ねた。

「なんだか難しいんだけど……」

「いずれにしてもフォルネウスが考えていることは特殊だ。ほかの竜王たちはフォルネウスに否を唱えている。フォルネウスには妥協という発想はない。抹殺、虐殺、除去、一掃、根絶、絶滅……つまりジェノサイドしか残されていない」

「フォルネウスはどうして人間を攻撃させるの?」

「それはフォルネウスが人間を憎んでいるからだ。フォルネウスにとって人間は世界の敵、滅ぼすべき悪ということになろう。気をつけるがいい。フォルネウスとは戦いしか残されていない」

「ああ、わかってる」

サージュは覚悟を決めた。

「見ろ、あれが空中庭園だ」

「あれが……」

サージュたちの前に楕円形をした物体が姿を現した。

「フォルネウスにとっては庭園は物体なのかもしれません。気をつけてください。わたくしはフォルネウスとはほとんど話をしたことがありません」

白竜は空中庭園の下の階に接近した。

サージュたちはここで白竜から降りた。

サージュ、イーシャ、リエンテは長い階段を登っていった。

空中庭園の頂上を目指す。

「なんだか、見えない敵意を感じる」

「本当ね。とげが刺される感じ」

「わたくしも感じます、憎悪の視線を。フォルネウスはわたくしたちの存在に気づいているでしょう」

三人は階段を登り切り、頂上に到達した。

頂上は平らだった。

「ここが空中庭園……」

「何かの気配を感じるわ!」

「女竜王フォルネウスよ! 姿を現しなさい! わたくしは美竜王リエンテです!」

すると空中庭園の背後から、一匹の竜が飛翔して姿を現した。

竜は空中庭園に着陸した。

フォルネウスの姿は異質だった。

ワニのような頭と胴、尾を持ち体の横から翼が生えていた。

手や足はない。

体の色は銀色だった。

「美竜王リエンテカ。コノ裏切リ者メガ。人間ト通ジテ、我ヲ倒ソウトイウノカ?」

「フォルネウス! 人間に危害を加えることをやめなさい! 人もこの地上に生きる生き物の一つです!」

「我ハソウ思ワナイ。人間ハ悪シキ種族ダ。コノ地上、イヤ世界ノ中デ、人間ホド有害ナ存在ナドイナイ。我ハ人間ヲ憎ム」

「わたくしは人間を愛しています! フォルネウス! あなたの考えは間違っています! 人と竜は分かり合うことができます!」

「愚カナ……人間ハ天則カラ外レタ生キ物ダ。人間ハアル地域ニ入ルトマタタクマニ周辺ノ環境ヲ破壊シ、汚染シテイク。天則ハ世界ノ秩序ノ運行ヲ司ル。ソレニヨッテ、環境ハ保タレルノダ。人間ハナゼ天則ニ従ワナイ? ナニユエ、世界ヲ傷ツケル? 人間ガ築クモノ、行ウコト、一切ハ世界ノことわりニ反スルコトダ。ユエニ我ハ人間ヲ滅ボスノダ」

「フォルネウス、俺はそうは思わない! 人間は自然と共に生きていくことができる!」

サージュは聖剣シャイネードを抜いた。

「人間には人間の生き方があるのよ! あなたは人間を憎むあまり、人間を敵視し、悪と決めつけているだけよ!」

イーシャがワンドを取った。

「わたくしには人の友がいます! それは人と竜が共に生きていくことができる証明です!」

「クダラナイコトダ。我ハ世界ノ秩序ト環境ヲ回復サセル。ソノタメニハ、人間ノ文明ハ破壊サレ滅ボサレナケレバナラナイ。人間ハ病原菌デアリ、がん細胞ニスギナイノダカラ。我ハ世界ヲソシテ環境ヲ愛シテイル。人間ハ世界ノ異端者ドモダ。人間ドモヨ、美竜王リエンテヨ、滅ビヲ受ケ入レルガヨイ」

「俺はそんなことを許しはしない! 俺たちは新しい未来と希望を生きていくんだ! おまえの狂った考えは俺が打ち砕く!」

サージュは剣を構えた。

「フン! 我ハコノ世界カラ人間ヲ一掃シテクレル! ソレニヨッテ清ク、正シイ清浄ナ世界ガ実現スルノダ! 我ハ世界ヲ浄化スル!」

フォルネウスが浮かび上がった。

サージュ、イーシャ、リエンテは横一列に並んだ。

サージュが真ん中に、リエンテが左に、イーシャが右に立った。

「フォルネウス! 俺たちはおまえの考えを認めない! おまえは人間を、いや、この世界に生きる一つの生き物を虐殺しようとしているだけだ!」

「ナラバモハヤ言葉ナド無意味ダ! 愚カナ者タチヨ、力デカカッテクガイイ!」

サージュは聖剣シャイネードでフォルネウスを斬りつけた。

サージュは斬撃の後に後ろに下がった。

「聖なる光よ! 邪悪なる存在を滅しなさい! 聖光陣!」

イーシャは神聖魔法を唱えた。

フォルネウスの周りが青白い魔法円で包まれた。

そして、円から青白い光が湧きあがった。

「月の光よ、ここに!」

リエンテが光の魔法を唱えた。

金色の光が球状に広がり、フォルネウスを襲う。

フォルネウスは口から闇の息をはいた。

サージュはシャイネードで闇を打ち消した。

しかし、それでも闇の粒子は三人を呑みこんだ。

「くっ!?」

「きゃああ!?」

「ううう!?」

フォルネウスの闇の息は強力だった。

フォルネウスは上空に飛翔した。

「何をするつもりだ!?」

フォルネウスは上空で回転すると、速い速度でサージュたちの上を飛行した。

フォルネウスの通過と共に地上に衝撃波が巻き起こった。

サージュたちは衝撃波に巻き込まれた。

フォルネウスは再び着陸し、浮かび上がった。

「くっ、なんて攻撃だ!?」

サージュはフォルネウスに反撃した。

光の刃で斬り上げる。

リエンテは光の粒子を杖先に収束した。

「くらいなさい!」

リエンテは光の粒子の光線をフォルネウスに発射した。

フォルネウスはリエンテの光線を受けた。

イーシャはワンドに魔力を込めた。

イーシャがフォルネウスにワンドを向けた。

上空から白い球が勢いよく現れた。

二つの光の球はフォルネウスに当たり、白い爆発を巻き起こした。

そして、サージュがさらに斬りこんだ。

だが、これだけ攻撃を受けてもフォルネウスは平然としていた。

フォルネウスは大きな斧を闇の力で作り出した。

フォルネウスは大きな斧を振るい、サージュを攻撃した。

浮遊する斧をサージュは受け止めた。

フォルネウスは黒い斧を無造作に動かし、サージュを追い払った。

フォルネウスは再び闇の息をはきつけた。

闇の粒子がサージュたちにダメージを与えた。

「今、回復させるわ!」

イーシャは回復魔法を唱えた。

光の柱が三人から上がった。

三人は回復した。

フォルネウスは体から、闇のオーラを発した。

「!? 何だ!?」

「再生です! フォルネウスは再生によってダメージから回復しているのです!」

フォルネウスは再生した。

フォルネウスは闇の息をはいた。

サージュは光の刃で闇の息を防いだ。

イーシャとリエンテは、魔法のバリアで闇の息を受け流した。

フォルネウスは口から黒いレーザーを放ち、黒い大きな波がサージュたちに打ち寄せた。

「うわっ!?」

「きゃあああ!?」

「あああああ!?」

三人ともダメージを受けた。

フォルネウスは口から黒い弾をばらまいた。

サージュたちは回避できなかった。

なおも、フォルネウスは攻撃を続ける。

フォルネウスは闇のエネルギー弾をサージュに向けて発射した。

サージュはそれに斬りつけた。

闇のエネルギー弾はサージュに斬り裂かれた。

サージュはジャンプしてフォルネウスの頭に斬りつけた。

すぐに後退して間合いを取る。

「星の光よ!」

リエンテが杖を前に突き出した。

フォルネウスの上空から星々が光となって降り注いだ。

星々の光がきらめいた。

イーシャは大魔法を唱えた。

フォルネウスの前に白い気流が集まり、収束されていく。

白い魔力は膨大なエネルギーを収束すると、フォルネウスの前で爆発を巻き起こした。

すさまじい、白い爆発がフォルネウスを呑みこんだ。

爆風が荒れ狂う。

フォルネウスが爆風から顔を出した。

フォルネウスは闇の衝撃を放った。

「うっ!?」

サージュたちは衝撃で吹き飛ばされた。

三人とも地面に倒れこんだ。

フォルネウスの体から、青い光が上がった。

フォルネウスは上から鋭い氷を多数、降らせた。

サージュは剣で氷を砕いた。

イーシャとリエンテは立ち上がり、炎を出して氷を溶かした。

サージュは前に跳び出した。

そして嵐のように連続で剣を振るった。

サージュはフォルネウスに接近し続けるのは危険と判断した。

一定の打撃を与えると、サージュは攻撃をやめて、後ろに戻った。

フォルネウスは氷の魔力を解き放った。

サージュたちの足元から冷たい冷気が立ち昇った。

フォルネウスは青白い、氷の息をはいた。

「くっ!? 冷たい!?」

「凍てつく冷気よ!」

「凍える生きです!?」

フォルネウスの攻撃が三人から体力を奪った。

「癒しの水よ、ここに!」

リエンテは回復魔法を唱えた。

水の魔法が三人を回復させる。

フォルネウスは闇の粒子でサージュたちに重い圧力を加えた。

「うっ!? 重い!?」

「何、これ!?」

「これほどの力を持っているのですか!?」

サージュたちは重い圧力にさらされた。

「滅ビヨ!」

フォルネウスは闇の粒子を一点に集中させた。

闇ははじけ飛び、サージュたちを巻き込んで広がった。

サージュたちの悲鳴はかき消された。

サージュたち三人は地面に倒れこんだ。

フォルネウスの力が三人を圧倒した。

「ショセンハコノ程度ダ。我ハ女竜王フォルネウス。アマタノ眷属タチノ上ニ君臨スル女王ナリ」

「まだ、終わっていないさ……」

サージュは倒れている体に力を入れてゆっくりと立ち上がった。

聖剣シャイネードを持って、フォルネウスに構える。

「俺は、まだ戦える!」

「人間ヨ、無駄ナアガキハヤメルガイイ。人間ノ力デハ我ヲ倒スコトナドデキナイ」

「それはやってみなければわからないさ……俺はおまえの力に屈しはしない!」

「ナゼダ? マダ望ミガアルトデモ思ッテイルノカ?」

フォルネウスはサージュを見た。

フォルネウスには表情の変化がなく、不気味だった。

「俺はこの剣を持っている。この剣が希望だ! 俺はこの剣がある限り、何度でも立ち上がる!」

「愚カナ。人間ゴトキガ。死ヌガイイ!」

フォルネウスは口を開いた。

鋭い牙の列が見える。

フォルネウスは闇の魔力を集めて球体を作り出した。

フォルネウスは闇の球体をサージュに向けて発射した。

「はっ!」

聖剣シャイネードが輝いた。

サージュはきらめく光の刃で、闇の球体を切断した。

フォルネウスは闇の息をはいた。

「くっ!?」

サージュは聖剣で闇の息を防いだ。

しかし、闇の息がサージュを押した。

サージュは必死に踏みとどまった。

サージュは剣を上から下に振り下ろした。

闇が縦に斬り裂かれた。

「ナニ? バカナ……」

フォルネウスは口に闇の粒子を収束させた。

フォルネウスは口から闇のビームを放った。

サージュはそれを剣で受け止めた。

「うおおおおおおお!?」

サージュは光の刃でビームを屈折させた。

ビームは夜空に向かって消えていった。

「ナゼダ? ナゼ人ニコノヨウナ力ガアル?」

「それはね、私たちがここで倒れるわけにはいかないからよ……」

イーシャがゆっくりと立ち上がった。

「そうです。わたくしたちはあきらめません……あなたの狂行を止めるために出す……わたくしたちは負けるわけにはいかないのです……」

リエンテが杖を支えにして立ち上がった。

「癒しの水よ! ここに!」

リエンテは水の回復魔法を唱えた。

サージュたち三人に、癒しのしずくが降り注ぐ。

「ワカラナイ。美竜王リエンテヨ、オマエハ人ニ何ヲ期待シテイル? 人ニ何ヲ求メテイル?」

「わたくしは人を愛しています! ゆえにわたくしは人を信じるのです! 人間には可能性があります! わたくしは人間の側にいるのではありません! わたくしは人間共に在るだけです! フォルネウス! あなたのやろうとしていることを、わたくしは認めません! 人間も生きとし生けるものの一つです!」

「美竜王リエンテヨ、考エテミタコトハナイカ? 人間ノイナイ世界。スバラシイトハ思ワナイカ? ソノ世界ハ純粋デ清浄デ美シイ。理想的ナ世界デハナイカ」

「女竜王フォルネウスよ、わたくしには人間が存在しない世界など想像できません。わたくしにとって人の営みは心に触れます。わたくしの理想は人と竜が共存する世界です。人と竜は種族が違えど、共に分かり合うことができます。あなたの考えていることは間違っています!」

リエンテは毅然と、フォルネウスに宣告した。

「愚カナ……人間ノ世界ニイルウチニ『毒』ニ染マッタトミエル。人間ナド愚カデ、野蛮デ下等ナ種族ニスギナイ。人間トハコノ世界ニアヤマッテ誕生シタ種族ナノダ。人間ハ世界ヲタダシクミチビク原理『天則』ニ従ワナイ。ユエニ環境ヲヒタスラ破壊シテイク。人間ハコノ世界ニ必要ガナイ。

全テノ人間ハコノ世界カラ消シ去ラレルベキナノダ!」

フォルネウスは重粒子をサージュたちのもとに収束させた。

重粒子は波動となって球状に広がった。

「くうう!?」

「きゃあああ!?」

「あああああ!?」

サージュたちはフォルネウスの攻撃を受けた。

体力そのものを奪うような攻撃だった。

「人間ヨ! 滅ビヲ受ケ入レヨ! 女竜王フォルネウスノ慈悲ニヨッテ、『無』ニ還ルガイイ!」

フォルネウスは口から闇の息をはいた。

サージュは前に出てそれを光の剣で防いだ。

闇がいっそう強く押し寄せる。

「くっ!?」

サージュは耐え切れそうもなかった。

そこでリエンテが言った。

「サージュさん! わたくしの『光』をあなたに授けます!」

リエンテは杖からサージュの体に光のきらめきを当てた。

「サージュ! 私の『聖なる光』を受け取って!」

イーシャはワンドから青白い光をサージュに送った。

「イーシャ、リエンテ!」

サージュの剣が青白い光を発した。

聖剣シャイネードが神聖なる光を刀身にまとった。

「これが俺たち三人の光だ!!」

サージュは闇の息を斬り裂いた。

「くらえ!」

サージュはフォルネウスの懐に跳びこみ、聖剣シャイネードでフォルネウスを貫いた。

聖なる光の刃はフォルネウスの体を貫通した。

フォルネウスは大きな絶叫を上げた。

「グハッ……ナンダト!? 我ガ人間ゴトキニ……」

サージュは剣をフォルネウスから引き抜いた。

フォルネウスは地面に倒れこんだ。

「……ナゼダ……ナゼ我ガ人間ゴトキニ敗レタノダ……光モ希望モナカッタハズ……」

「俺は自分一人でおまえを倒したんじゃない。イーシャとリエンテの力を受け取って三人の力を一つにして倒したんだ」

サージュは倒れたフォルネウスを見おろした。

「美竜王リエンテヨ……オマエハ人間ヲ信シタコトデ後悔スルダロウ……人間ハオマエヲ裏切ル」

「女竜王フォルネウスよ、わたくしは人間に裏切られても後悔しません。人間にも善き人と悪しき人がいるからです」

リエンテの目には哀れみがあった。

「ソノヨウナ目デ我ヲ見ルナ。我ニ哀レミナド必要ナイ」

フォルネウスの体は崩壊を始めた。

フォルネウスの体が闇の粒子へと還っていく。

「我ハ正シイコトヲシヨウトシタノダ……人間ハ世界ニ仇ナス存在ダ……コノ世界カラ消シ去ラレルベキナノダ……人間ハ世界ニトッテ有害ダカラダ……」

「フォルネウスよ、わたくしはそう思いません。人間には『愛すること』ができます。人間は被造物を万物を愛することができます。それが希望です。今はまだ小さいですがそれは大きな可能性です」

フォルネウスの体は消失しかけていた。

「美竜王リエンテヨ、オマエハドコマデモ愚直トミエルナ……マアイイ……イズレ歴史ガ証明スルダロウ……人間ナド愚カナ種族ニスギナイコトニ……人ノ歴史ナド愚カサノ連続デアルコトニ……」

フォルネウスの体は闇の粒子と化した。そうしてフォルネウスは消えた。

「勝ったんだな、俺たちは……」

「これで、人間の虐殺は防がれたのね。よかった」

「フォルネウス……わたくしはあなたが哀れでなりません」

リエンテはもはや存在しないフォルネウスに向かって言った。

その時空中庭園に震動が足った。

空中庭園が揺れ動いている。

「なんだ、これは!?」

「どうしたの!?」

「サージュさん、イーシャさん、これは空中庭園が崩壊を始めているのです!フォルネウスが消えたからでしょう!」

「どうする!? このままだと、海に投げ出されるぞ!?」

刹那そこに白竜が現れた。

「乗れ! 急げ! 空中庭園が瓦解するぞ!」

サージュたちは白竜の背に乗った。

その直後、空中庭園は瓦解し、瓦礫が海に沈んでいった。

サージュたちはその様子を空から見ていた。

「女竜王フォルネウスが死んだか……これでよかったのかもしれぬな……」

「白竜、ありがとう、助かったよ」

「別に大したことはしていない。私にできるのはこれくらいのことだ。何にしても、フォルネウスの目的『人間の抹殺』は消えた。『最終戦争』も『最終的解決』共に消滅した。

「フォルネウスは最後まで人間を敵視し、憎み、抹殺するという意思を変えませんでした……」

「なんか、かわいそうね。ただ憎悪だけを持っていたなんて……」

「では、帰るとしよう。私はアレンタまで送ろう」

白竜は向きを変え、アレンタを目指して飛んでいった。

サージュは勝った。

しかし、この勝利にはどこか虚しさが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ