竜たちの会議
「準備はいいか? 用意はできているのか?」
「もう、約束の時間はとっくに過ぎているぞ」
「いつまで待たせるのだ」
「もう少し待ちましょう。もしかしたら参加するかもしれませんから」
これは竜族の最高会議であった。
竜たちは住みかを動かず、テレパシーで会話していた。
この会議に参加できるのは、竜の中でも知性を持つ者に限られていた。
「いい加減に始めるべきだ。不参加者のことなどどうでもいい」
「皇竜ルブリウスは参加しないようだな。まったく感応せず、こちらの話に耳をかすつもりはないようだ」
「自派勢力を持っているからだろう。独断でやるつもりなのではないか?」
「では、始めるとしよう。議題は人間と竜とのかかわりについて、だ」
「私たち竜と人間はどのようにかかわるべきだと思いますか?」
「つまり、我々竜と人間の関係についてということだな?」
「はい、そうです」
「目下、我々にとって人間は脅威の種族だ」
「竜たちが次々と狩られている」
「だが、狩られているのは下級の、知能を持たない者にすぎない」
「いや、これは重大な危機だ。このままでは竜たちは絶滅してしまう」
「人間たちは都市建設するとを。周辺地域を自分たちの領土にしていく。その過程で我々竜と衝突するのだ」
「都市の中には竜狩りに大きな賞金を出しているところもあるそうだ。つまり竜を殺せばカネになるとな」
「我々竜は人間と出会わないほうが良い。どこかほかの地へと移住すべきではないか?」
「なぜ、昔から住んでいる我々が出て行かねばならないのか! ふざけるな! 人間の方こそ、我らの土地を犯しているのだ!」
「そうだ。これは人間が我らを侵害しているからこそ、起きていることなのだ!」
「人間と対話できるだろうか? 対話し、共存の道を探すことが?」
「バカな」
「できるわけがない」
「愚かなことだ」
「対話するにしても、人間側に代表する者がない」
「代表者か代表機関か……いずれにしても対話のしようがない。どちらもないのだから」
「およそ人間と対話しようなどという考えが誤っているのだ」
「それでは、双方絶滅戦争になってしまいます!」
「私は人間との共存は不可能と考える」
「その通りだ。我々は互いに相容れぬ種族だ」
「人間の平和と竜の平和は違う」
「では我々はこの問題――人間と竜の関係をどう扱えばいいだろうか?」
「町や都市を焼き払うべきだ」
「いいや、それでは手ぬるい。戦争だ!」
「そうだ、戦いだ! 戦いによって結論を出すべきだ」
「しかし、我々は軍勢を保有していない」
竜の多数派は人間との抗争に傾いていた。
「人間ハ我々竜族ニトッテ大キナ脅威トナッタ。私ハ全人間ヲ根絶ヤシニスベキト考エル。人間ノ世界ヲ、国々ヲスベテ滅ボス。我々ト人間ハ共存ナドデキナイ。ドチラカ一方ガ滅ブシカナイノダ」
「フォルネウス……それはさすがにやりすぎでは……」
「そこまでやらずともよいのではないか? 国や都市を破壊するので十分だ」
「確か、あなたは軍勢を保有していたな、女竜王フォルネウスよ?」
「私ハ人間ヲコノ世界カラ一掃スル。人間ハ病原菌ノヨウナ存在ダ。害悪ニスギナイ。私ニハソレヲ行ウ用意ガアル」
「フォルネウス……感応を断ったか……会議から外れたようだ」
「でも人間のすべてが害悪ではないでしょう。必ず、対話、共存、友愛を持つ人たちがいるはずです。人間にも善き人が」
「それは希望論にすぎない。事態は緊迫しており、楽観な見方などすべきではない」
「美竜王よ、あなたはどうやら人間を信用しているようだが、私にいは信用できん」
「夢物語だ」
「あなたが人間に優しくしても、人間は害悪で報いるだろう、美竜王よ」
「ルブリウスはどうするつもりだろうか? 参加を呼び掛けたが招集には応じなかった」
「彼は自分の帝国を打ち建てるつもりだ。魔獣の帝国をな」
「いずれにしても、ルブリウスは人間世界に侵攻するだろう。もっとも、ルブリウスは人間を支配、搾取するために生かしておくだろうが」
「白竜よ、あなたはどう考えているのだ?」
「先ほどから何も話していないが? どういう意見なのだ?」
「私にはこの問題の解決の見通しが何一つ見えない。まず我々は意見の一致を見出したことなどない。我々には団結や共働や集結といったものがない。ゆえにこんにちまで失態を我々は続けてきた」
「問題は我々の側にもある、そう言いたいのか?」
「私にはわからない。はたして対話や共存などできるのかどうか……できるのならばそれが最も好ましいと私は思う」
「できはしまい。人間のほうが話を聞く耳を持たないからだ」
「私も人間と話が通じるとは思えない」
「つまるところ、この会議では何一つ有益な意見や提案は出なかったようだな」
「これは会議のせいではないだろう」
「我々の不一致が明らかになっただけだ」
「もはや、続けるのも無意味か。なら私も去らせてもらう」
「私もだ。これ以上続けても何も解決しない」
「美竜王よ、あなたはどう思うか? あなたが一番人間の側に友愛を示しているが?」
「白竜よ、私はできることなら人間を信じたいのです。双方の友愛が、この二つの種族の平和を保つと願っています」
「結局、我々竜の側はバラバラなのだ。他方、人間の側も一枚岩ではない。多くの都市や国に分かれている。対話しようにも、対話のしようがないのだ。これが現実か」
竜たちの最高会議は自然消滅した。