武闘競技会
サージュたちはアレンタの冒険者協会を訪れた。
冒険者協会から仕事を斡旋してもらうためである。
協会から紹介された仕事は農園での薬草の収穫であった。
農園はアレンタの郊外にあるらしい。
サージュたちはその農園へと向かった。
サージュたちがその農園を訪れたとき、まさに薬草は収穫期を迎えていた。
農園の主はサージュたちを歓迎してくれた。
さっそく、サージュたちは薬草の収穫に当たった。
この農園は中規模の農園であった。
アスカニアでは農業は合理化、効率化されていた。
個人栽培も行われているが主に、大規模、中規模のものが多い。
大規模栽培で大量に栽培するのである。
薬草やハーブは魔道士たちからの需要がある。
もちろん、庶民も薬草を購入するが。
高級ハーブとなると需要は魔道士の独占である。
アスカニアの魔道士は資産家でもあるからである。
この農園では数種類の薬草を栽培していた。
アスカニアでは天然の薬草収集はしない。
非合理的だからである。
それよりも、畑を耕し、農地を作り、合理的な区画を設定して、薬草を植える。
アスカニアでは農業論も研究されていた。
アレンタの大学では農学も研究対象である。
サージュの南の村では農業は個人単位で営まれていたが、アスカニアでは企業による大規模農場と、共同、集団作業で営まれている。
アスカニアの農民は文蒙ではないのである。
アスカニアでも地方、属州では個人経営になってくる。
アスカニア人は科学の民とも呼ばれる。
理性的で合理的だからである。
科学は法学と同じく魔道士の必須科目とされていた。
サージュたちは畑で薬草の収穫に当たった。
午前から午後にかけて作業を行った。
サージュたちは数日この農園に滞在した。
宿舎があり、そこに泊まることができた。
農園での労働は大変であったが充実していた。
サージュはぐっすり眠ることができた。
眠る前にリエンテがハーブティーを入れてくれた。
体にいいだろうと効能をリエンテは語った。
サージュたちは報酬をもらうと農園を後にした。
サージュは原料の栽培に興味を持った。
サージュたちはアレンタの宿に戻ってきた。
その日の午後だった。
どうやら、イーシャとリエンテはカフェのウエイトレスの仕事を見つけたらしい。
明日からそこで働くという。
サージュは武闘競技会のことが気になった。
「なあ、リエンテ、アレンタの武闘競技会って知っているか?」
「はい、少しだけですが。アレンタのコロッセウムで行われています」
「俺はそれに出場しようと思っているんだ。上位勝利者には賞金がでるらしい。それに自分の腕も試してみたいしな」
「でしたら明日、コロッセウムを訪れるといいでしょう。コロッセウムは円形闘技場ですから、見まちがえることはありませんよ」
サージュは次の日、コロッセウムを訪れた。
受付はすぐに見つかった。
受付嬢は言った。
「競技会に出場なさりたいのですね? それでは登録をお願いします」
サージュは自分の名前を紙に書き込んだ。
「これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。それと、試合では競技会指定の武器しか使えません。選べる武器は剣、槍、斧のいずれか一つです。どれも殺傷力を持っていません」
「それでは剣をお願いします」
「剣ですね? わかりました」
受付嬢は書類にチェックを入れた。
「武闘競技会は三日後です。月に一回実施されます。それでは三日後にまたおこし下さい」
サージュは競技会の受付を済ませた。
「さてと、これからどうしようかな……そうだ。イーシャとリエンテのカフェに行ってみるか」
サージュはイーシャとリエンテが働いているカフェ「プランタジネッテ」にやってきた。
「いらっしゃいませ!」
サージュは店に入ると、声をかけられた。
「こちらにどうぞ!」
サージュはウエイトレスの案内に従い、席に着いた。
「お決まりになりましたら声をおかけください!」
サージュはメニューに目を通した。
それからサージュはイーシャとリエンテの姿を探した。
サージュはイーシャの姿を見つけた。
イーシャは客から注文を受けているようだった。
次にリエンテの姿を探した。
リエンテはコーヒーとケーキを運んで客のもとに届けていた。
「あれ? サージュ?」
「イーシャ、来てみたよ。いい店だな。客の入りも上々じゃないか」
イーシャはウエイトレスとしてエプロンをつけていた。
「なんだか、サージュに見られるのって恥ずかしいわね」
「ははは。スタッフはエプロンをつけるのか? よく似合っているよ」
「ありがとう。ところで注文は決まったの?」
「ここのおすすめは?」
「もちろん、コーヒーよ」
「じゃあ、それにするよ」
「わかったわ。コーヒー一カップね」
このカフェには魔道士たちの姿も見られた。
コーヒーはアレンタに伝わると爆発的な勢いで魔道士たちに広まった。
そうして、コーヒーを東方から運搬するコーヒー貿易が始まった。
「あら? サージュさんではありませんか。いらっしゃいませ」
「やあ、リエンテ」
リエンテもスタッフとしてエプロンをつけていた。
「コロッセウムには行ってきたのですか?」
「ああ、行ってきたよ。受付も済ませてきた。競技会は三日後だってさ」
「そうですか。その日はわたくしたちも休みなので、ぜひ応援させてもらいますわ。ではわたくしは忙しいのでこれで失礼させていただきます。ごゆっくりして行ってください」
リエンテはサージュのもとから立ち去った。
「ごゆっくり、ね」
このままこの席に居座れるのはおおよそ長くて一時間だろうな。
サージュはそう思った。
カフェは社交の場でもあった。
人々はここで情報の交換をしているのだ。
そこで一つの論争が起きた。
カフェにい続けられるのは最長でどのくらいか?
ある人は30分、ある人は45分、ある人は20分、ある人は1時間と主張した。
これはアレンタ大学の学生の議論としてアレンタでは有名であった。
事の始まりはアレンタ大学の学生たち――魔道士の子弟たちが議論を延々と続けたことが原因だった。
店側から、大学に苦情が届いたのである。
かくして論争とはかかわりなく、慣例として、「一時間が限度、しかしおよそ30分にすべし」となった。
「はい、こちらコーヒーになります」
イーシャがコーヒーをサージュのもとに運んできた。
「ありがとう、イーシャ」
「熱いわよ。そういえばリエンテさんから聞いたんだけどサージュは今度の武闘競技会に出場するんですって?」
「ああ、もう受付を済ませてきたよ」
「コロッセウムでやるんですってね。私たち、その日は休みだから見に行ってあげるわね」
「ははは。どこまで俺の腕が通じるかわからないけどね。どんな奴らが出てくるんだろうな」
「それじゃ、私は仕事に戻るからゆっくりして行って」
イーシャは去っていった。
サージュはコーヒーを飲んだ。
確かに熱い。
それにしてもどんな人たちが競技会に出てくるんだろうか。
サージュにはそれが楽しみだった。
未知の猛者たち――それらの人たちと手合わせができるのだ。