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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
37/65

公衆浴場

一週間以上たってようやくサージュの体は回復に向かった。

サージュはなんとか自分の体を動かすことができるようになった。

まだ痛みはあるが、気分はすがすがしかった。

サージュたちは宿で昼食を取った。

その際、これからのことが話題となった。

「ルブリウスもイシャールも倒れた。これで人と竜の戦争はなくなった。リエンテはこれからどうするんだ?」

「そうですね、よろしければまだお二人といっしょに旅がしたいのですが……よろしいでしょうか?」

「ああ、もちろんさ!」

「そうよ、私もリエンテさんがいっしょにいてくれるとうれしいわ」

こうしてリエンテは今しばらくサージュたちと旅をすることになった。

「さて、昼食も済んだことだし、昼からどうしようか?」

「そうね。アレンタに来てから特別何も見てないわね」

「サージュさん、イーシャさん、もしよろしければ公衆浴場に行きませんか?」

「公衆浴場?」

「なんなの、それは?」

「公衆で入れる大きな浴場、つまりおフロです。サージュさんはまだ体に痛みがあるようですし、肉体の回復のためにも、訪れてみてはどうでしょうか?」

「そうだな、行ってみよう」

サージュたちは宿を出て公衆浴場を訪れた。

公衆浴場は大きな施設だったが、利用料は安かった。

男女は別々に分かれて、施設の中に入った。

施設には多くの人が訪れていた。

昼のにぎわいをサージュは感じた。

サージュはイーシャやリエンテと別れて一人、男用の施設に入った。

サージュは服を脱ぐと、体を洗ってから浴場に入った。

「ふう……」

サージュは浴槽の中で熱いお湯に身を任せた。

気のせいかもしれないが、体から痛みが消えていくような気がした。

サージュはベイン、ルブリウス、イシャールとの戦いを思い出した。

三者とも強敵だった。

ベインは重力を操る強敵だった。

未知の力にサージュは翻弄された。

続いてルブリウスはもっと強かった。

ルブリウスの攻撃は尋常ではなかった。

何度も生命の危機に見舞われた。

ルブリウスの攻撃はすさまじかった。

灼熱の息に大魔法……

何よりルブリウスの巨大な体にサージュは本能的に恐怖を感じた。

サージュは改めて竜は恐ろしい生き物だと思った。

それから、イシャールとの戦いを回想した。

あの時サージュは無我夢中だった。

イシャールの鎌による攻撃、圧倒的な魔法攻撃の数々……

よく今、生きているものだ。

イシャールとの戦いは宿命であったが、あれほど激しい戦いはなかった。

自分はシャイネードに救われた。

それがサージュの感想だった。

サージュは何か脱力を感じた。

一種の虚脱感であった。

皇竜ルブリウスとの対決やイシャールとの戦いはとても大きな出来事だった。

それが終わったため、サージュは目標や目的を喪失していた。

これからどうしよう……

サージュは迷っていた。

サージュはお湯に長くつかっていた。

「なあ、今度、武闘競技会を見に行かないか?」

「いいな、見に行こうぜ」

「俺は戦車レースの方が見に行きたい」

「それは次の週でいいだろ? 今回は武闘競技会にしようぜ?」

「しょうがないな。戦車レースは来週にしよう」

サージュの隣で三人の男たちが話をしていた。

どうやら庶民の娯楽について話をしているようだった。

武闘競技会と戦車レース、サージュはこの二つを頭に入れた。

サージュは冒険者協会を訪れることにした。

旅の費用を稼ぐためだった。


イーシャとリエンテも浴場に入っていた。

二人はタオルで髪をまとめ、肩までお湯につかっていた。

「ふう……熱いお湯ね。全身がほぐれるような気がする」

イーシャは浴場のお湯でリラックスした。

イーシャの隣にはリエンテがいた。

「はあ……やはりおフロはいいですね。全身の疲れが取れます。イーシャさん、疲れてはいませんか? 竜の国に行って、帰ってきたのですから」

「うん、少し疲れているわ。竜の国に行ったり、パンテオンに行ったり、最近休む暇がなかったから……」

イーシャは一つ気になることがあった。

というより気にしていた。

リエンテはスタイルがいい、そう思っていたのだ。

イーシャはちらりとリエンテを見た。

リエンテの肌は雪のように白くきれいだった。

うっ!? すごくきれいな肌……

それに長い髪もすてき……

イーシャは自己嫌悪と劣等感にさいなまれた。

リエンテは目を閉じてお湯につかっていたので、イーシャのもんもんとした気持ちに気づくことはなかった。

「はあああ……」

リエンテが大きく息をはいた。

「ところで、イーシャさん」

「何?」

「イーシャさんはサージュさんが好きなんですか?」

「ええ!?」

イーシャは驚き、とっさにリエンテの方を向いた。

イーシャは赤面した。

イーシャの反応を見て、リエンテはくすくすと笑った。

「…………」

イーシャはリエンテと反対方向を向いた。

「……うん、そうよ……」

イーシャは長い沈黙の後答えた。

「まあ……サージュさんは気づいていないようですね……でも、お二人は仲がよろしいんですから自然と結ばれるかもしれませんね」

「……そう、なのかしらね。なんていうか、物心ができたときからいっしょにいたけど……う~ん、その、うまく言えないんだけど、なまじ近い仲だからそれ以上にならないというか……」

「わたくしは別にお二人を無理にくっつけようとしているわけではないんです。ただ、お二人から見て、わたくしが邪魔になるのではないかと思いまして。うふふふ」

「そんなことないわよ」

「うふふふ、それならいいんですが……それにしてもいいお湯ですね」

二人はしばらく無言でお湯につかっていた。

二人はゆったり、まったり、午後の時を過ごした。


サージュたちは公衆浴場から宿に戻ってきた。

サージュはイーシャの妙な態度が気になった。

何か、そわそわしていたのだ。

一体イーシャはどうしたんだろうか?

三人は宿で休んだのち、夕食を取り、就寝した。

特に何も起こらず、平穏な一日が過ぎていった。


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