ベイン
サージュたちは竜の国へと向かう準備を整えた。
「よし、準備はできた。もう、いつでも行ける」
「私も用意できたわ。リエンテさんは?」
「わたくしも出発の準備ができました」
「じゃあ、白竜のもとに行こう!」
サージュたちは宿を出た。
それから白竜がいるという郊外へと向かった。
巨大な白竜の姿は森の中に隠れていた。
サージュは背後を振り返り、アレンタの都を見た。
「? サージュ、何か気になることでもあるの?」
「いや、俺たちがいないあいだに何かあるかもしれないと思ってさ」
サージュが率直な意見を口にした。
「そうですね。何も起こらなければいいのですが……闇の魔道士の存在は気になります」
サージュたちは白竜のもとにたどり着いた。
「久しぶりだな、白竜」
サージュは白竜にあいさつした。
「久しいな。もっとも悠久の時を生きる竜にとって時間や歴史は人間とは異なるものなのだが」
「白竜、ではお願いします。わたくしたちを竜の国まで、ルブリウスの城まで連れて行ってください」
「わかった。では私に乗るがいい」
サージュたちは白竜の背中に乗り、竜の国へと向かった。
風がサージュたちに吹き付けてくる。
サージュは大地の風景が平野から荒野に変わっていくのを見た。
「アスカニアは自然に恵まれた国だ。だからアスカニアでは農業生産力が非常に高い。しかし、竜の国は違う。ここは荒野と砂漠でできている」
空を飛びながら白竜がしゃべった。
「ルブリウスの城はどこにあるんだ?」
「ルブリウスの城は山脈の断崖・絶壁に作られてある」
白竜がふと空で止まり、とどまった。
「見ろ、あれだ。あれがルブリウス城だ」
サージュはルブリウスの城を見た。
ルブリウスの城は、天まで伸びるかのように、上方に、上方にと大空を目指して建っていた。飾りのように小さな尖塔がたくさん作られていた。
「あれがルブリウスの城か」
サージュはルブリウスの城を凝視した。
城の周囲には砂地が広がり、むき出しの岩が砂地に突き刺さっていた。
「入口まで連れて行こう」
白竜は上空で旋回し、ルブリウス城の前で地面に着地した。
三人は白竜から降りた。
「白竜、ここまで運んできてくださりありがとうございます」
リエンテは白竜に礼を述べた。
「何、礼を言われるほどのことではない。それより、気をつけるのだな。必ず、戦いになるだろう」
「ええ、わかっています」
リエンテはうなずいた。
「高いな、この城は……」
サージュはルブリウス城を見上げた。
「そうね。なんだか天を目指しているように見えるわ」
「これがルブリウスの考えなのです。ルブリウスは自らの覇権を誇示しているのです」
リエンテが説明した。
「よし、この中に入ろう!」
サージュたちはルブリウス城の中に入った。
城の中は静かだった。
サージュはこの城の中で多くの竜と遭遇すると思っていたが、竜はまったく姿を見せなかった。
サージュたちは廊下を渡り、階段を上へと登った。
この城は廊下と各部屋、階段でできているようだった。
内装には美的なこだわりがあるらしく、壮麗な装飾が施されていた。
サージュたちは城の中を歩いた。
「静かだ。静かすぎる……」
「まったく敵と出くわさないなんて……」
サージュにはこの静けさがぶきみに思えた。
イーシャも不審を持ったようだ。
「フン、それはな、この城の守りにザコの竜など不要ということだ」
サージュたちが廊下を歩いていた時、扉の奥のホールから、一匹の黒い竜が現れた。
この竜の肌は黒であった。
「ルブリウス様の城に足を踏み入れるとは、命知らずな奴らよ。そんなに死にたいと見える」
黒い竜が言った。
この竜は二足で歩行するタイプの竜でタイラント種であった。
サージュはこの竜がかつて戦ったタイラントと似ていることを思い出した。
しかし、最大の違いはこの竜が言葉を話すということだった。
どうやら、知性を持っているらしい。
サージュは剣を抜いて構えた。
イーシャもワンドを手に取った。
リエンテがサージュとイーシャの前に進み出た。
「わたくしは美竜王リエンテです。竜王の一人としてあなたに命じます。わたくしたちをあなたの主、皇竜ルブリウスのもとに案内しなさい。わたくしは皇竜ルブリウスに話があります」
リエンテは要件を告げた。
「美竜王? それが何だというのだ。ルブリウス様はおまえたちなどに用はない。私はおまえの命令など受ける気はない。なぜ、この私がおまえなどの言うことを聞かねばならんのだ?」
黒い竜は傲然と答えた。
「わたくしを侮辱なさるのですか?」
「フン、私はおまえたちをこの先に通す気はない。私の名はベイン。ルブリウス様第一の部下だ。ここから先に行きたくば、この私を倒してから行くがよい!」
「どうやら話をしても無駄のようですね」
「リエンテ、戦うしかないな!」
サージュはリエンテの後ろから声を出した。
「フン、カスどもが。圧倒的な力の差を思い知るがいい! 燃え尽きろ!」
ベインは大きく息を呑みこんだ。
そして口から燃え盛る黒い炎をはきつけた。
リエンテは杖を前に突き出した。
「光よ!」
リエンテは光の魔法でバリアを展開した。
そうしてベインの黒い炎を受け流した。
サージュは跳びかかり、聖剣シャイネードでベインに斬りつけた。
「フン!」
ベインは左腕を石のように硬化させて、サージュの剣を防いだ。
ベインは左腕を払い、サージュを力で押しのけた。
「くっ!?」
吹き飛ばされたサージュはうまく、床に着地した。
ベインは口から黒い球を何発も撃ちだした。
黒い球は床に着弾すると、爆発した。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
サージュとイーシャはなんとか爆発を回避した。
「くらいなさい!」
リエンテは杖から光のしずくを放った。
「フン、こんなもの!」
ベインは右腕と左腕を交互に振るい、光のしずくを消し去った。
「地よ、震えよ!」
ベインは床を震動させた。
サージュとイーシャは浮足立った。
震動で足場がふらつく。
「くらえい!」
ベインは手から、衝撃のようなものを放った。
「うっ!?」
「きゃあああ!?」
「ううっ!?」
サージュとイーシャはベインの衝撃で後ろに吹き飛ばされ、床に倒れこんだ。
リエンテは杖から魔法のバリアを張り、ベインの攻撃を防いだ。
「なんだ、さっきの攻撃は……!?」
サージュは起き上がった。
「いきなり衝撃が当たったわ……」
イーシャも立ち上がった。
「サージュさん、イーシャさん、気をつけてください! ベインは未知の攻撃を持っています!」
リエンテがサージュとイーシャに注意を促した。
「ひざまずくがいい!」
ベインは右手に魔力を集めると、その魔力を放った。
サージュたちに重い圧力が加えられた。
「これは!? くっ、重い!?」
サージュは圧力にさらされた。重い圧力によって立っていられなくなる。
「なんて力なの……!?」
イーシャは苦し気に膝をついた。
「すさまじい力ですわ……!?」
リエンテも立っているのは難しかった。重圧によってリエンテはしゃがみこんだ。
しばらくして三人は重圧から解放された。
「戦いはこれからよ! 光よ!」
イーシャはワンドに光の魔力を集め、光のビームを撃ちだした。
ベインは両腕でガードし、ビームを防いだ。
サージュはベインに斬りかかった。
「はっ!」
サージュは連続でベインに攻撃した。
ベインは右腕でサージュを薙ぎ払った。
サージュは後ろにジャンプして攻撃をかわした。
「俺がベインの意識を引き付ける。二人は後ろからベインを攻撃してくれ」
サージュがイーシャとリエンテに言った。
「わかったわ!」
「わかりました!」
サージュは再びベインに斬りつけた。
サージュはベインと接近戦に臨んだ。
ベインは腕を振り払い、薙ぎ倒し、力任せに叩きつけた。
また、ベインは鋭い爪でサージュを切り付けた。
サージュはベインの攻撃を見切り、かわして反撃した。
サージュの斬撃がベインに当たった。
「ぐぬう!? こざかしいわ!」
ベインは右手からサージュに衝撃弾を放った。
「うわっ!?」
サージュは剣で衝撃弾を受け止めつつも、耐え切れず、吹き飛ばされた。
床に倒れた。
「雷電よ!」
イーシャはワンドから雷電を放った。
雷電はベインに当たり、ベインをよろめかせた。
「光よ!」
リエンテが光の魔法を唱えた。
光の光線が何本もベインに上から襲いかかる
「ぐおああああ!?」
サージュは立ち上がった。
リエンテの魔法はベインにダメージを与えていた。
サージュはその隙にベインに斬りつけた。
「どうだ!」
サージュは更に追撃してベインに斬りつけた。
「甘いわ!」
「うわ!? なんだ、軽い!?」
サージュはベインの前で浮いてしまった。
サージュの体は突然、軽くなったかのように浮遊した。
そこにベインのパンチが繰り出された。
サージュはとっさにベインのパンチを剣で防いだ。
しかし、その力は大きく、サージュは後ろに吹き飛ばされた。
サージュはまたもや床に倒れこんだ。
サージュはふらつきながらも立ち上がった。
「くそ! あいつの力は何なんだ!?」
サージュはけわしい表情をした。
「サージュさん! おそらくベインの力の正体は『重力』です!」
「重力?」
「そうです。重力を軽くしたり、重くしたりして、操っているのです!」
「フン、私の力を見破ったか。『美竜王』というのはただの肩書ではないようだな。だが、気づいたところで私の攻撃を破ることなどできぬわ!」
今度はサージュたちが三人とも浮き上がった。
「まただ!」
「何、これ、変な感じ!?」
「お二人とも、冷静に対処してください!」
「燃え尽きるがいい!」
ベインは口から黒炎の息をはいた。
「イーシャさん、水の魔法を!」
「わかったわ!」
イーシャはワンドから水流を放った。
リエンテも杖から水の波を放った。
水の魔法がベインの黒炎を消し去った。
ベインの魔力が効力を無くした。
三人は床に着地した。
「くっ! やりにくい!」
サージュはベインの攻撃に戸惑った。
「水よ!」
イーシャはワンドから水の衝撃弾を撃った。
「まだまだ!」
更にイーシャは水の衝撃波を撃ちだしていく。
ベインはガードしてこの攻撃に耐えた。
「氷結の刃よ!」
リエンテは氷の刃をいくつもベインに降り注がせた。
「ぐう!? おのれ!」
サージュは水の力を集め、刃に乗せてベインを斬りつけた。
「ぐあああああ!?」
「どうだ!」
ベインはよろめき、叫び声を上げた。
「くらえい!」
ベインは口元に重粒子を収束させた。
「!? 来るぞ!」
サージュはイーシャとリエンテに警告を発した。
ベインは口から重粒子のビームを発射した。
サージュたちは左右にそれてビームをかわした。
ビームは直線的にものすごい速さで通り過ぎた。
「おのれ! いきがるな!」
ベインの全身から魔力が発せられた。
ベインの足元には魔法の円が展開された。
「なんだ!?」
「何が来るの!?」
「まだ、未知の力を持っているのですか!?」
ベインは大魔法「重雷」を唱えた。
「闇の深淵より来たりしイカズチよ! 我が敵に打ちつけよ!」
サージュたちの上に紫色の雷の球が出現した。
大きな紫色の球は雷を伴い、サージュたちに打ち付けた。
「うわああああああ!?」
「きゃああああああ!?」
「ああああああああ!?」
三人は悲鳴を上げた。
雷の球体はサージュらを呑みこみ、放電した。
「くっ……」
サージュは膝をついた。
雷の球体はすさまじかった。
ものすごい威力だった。
「はあ……」
イーシャも膝をついた。
「サージュさん、イーシャさん! 癒しの水よ、ここに!」
リエンテは回復魔法を唱えた。
水のしずくが三人に降り注いだ。
二人の体力をリエンテが回復させた。
「ありがとう、リエンテ!」
「これで、なんとか戦えるわ」
「渦巻く風よ!」
リエンテは旋風を放った。
旋風はカマイタチとなり、ベインにダメージを与えた。
「フン! 人間ごときが、こざかしいわ!」
ベインは口から黒炎の息をはきつけた。
サージュは剣を構え、水の刃でベインの息を斬り裂いた。
そしてサージュはベインに接近し、ベインの腹を聖剣シャイネードで貫いた。
「どうだ!」
「ぐああああああああああ!?」
ベインは大きな悲鳴を上げた。
ベインの体から血が大量に流れた。
「ぐっ……この私が、人間ごときに……!? ぐあああああああ……」
ベインは大きな体を仰向けに倒れさせた。
ベインは死んだ。
「やったか……?」
サージュはベインを見つめた。
もう動きそうもない。
「なんとか倒せたようだ……それにしても、強かった……」
「サージュさん、お見事でした。ベインは倒れました」
「こんなに強い敵と戦ったのは初めてよ。強かったわ……」
「サージュさん、イーシャさん、傷はありますか?」
リエンテが尋ねた。
「リエンテさんが治してくれたから大丈夫よ」
「ああ、リエンテに回復してもらったから問題ない」
「では、ルブリウスのもとに行くとしましょう」
三人は再び歩き出した。
「それにしても、ルブリウスはあのベインより強いのか……」
「ほんとうね……あのベインよりさらに強いんでしょう、ルブリウスは?」
「サージュさん、イーシャさん。まだ、戦うと決まったわけではありません。それは最後の手段ですから。焦ることはありません。ゆっくり向かいましょう」
リエンテはあくまで冷静な顔で告げた。




