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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
31/65

開戦

サージュは急いでリエンテの部屋を訪れた。

「リエンテ! 大変だ!」

「サージュさん!」

サージュがリエンテの部屋に入ると、すでにイーシャがいた。

「サージュも来たの!?」

「イーシャもいたのか!? リエンテ、竜たちがアスカニアの国境に攻め込んだってニュースがあった!」

「はい。わたくしもそのニュースを知りました。とうとう竜の戦いになってしまいましたね……」

リエンテは力なく言った。

アスカニアでは情報、通信技術が発達していた。

そのため、国境で起きたこともすみやかにニュースとしてアレンタに伝わった。

「美竜王よ、とうとう始まってしまったな、人と竜の戦いが」

「青竜バハムート……」

バハムートがテレパシーで告げた。

「これは局地的な紛争では終わらんぞ。竜の国と人の国の戦争になるだろう」

「皇竜ルブリウスが武力行使に出たと、いうことですね。軍事力によってアスカニアを侵略するつもりでしょう」

「この戦争をどうやって止める? それはあなたに突き付けられていることだぞ、美竜王よ」

「わかっています」

青竜バハムートは感応を断った。

「リエンテ、今の話は?」

「何を話していたの?」

「今青竜バハムートからテレパシーがあったところです。どうやら皇竜ルブリウスが人間世界への侵略戦争を開始したという……」

「アスカニアはどう出るつもりなんだろう?」

「アスカニアは元老院での討議で事を決するでしょう。アスカニアの最高機関は元老院ですから」

「私たちには何もできないの?」

「そうだ。俺たちには何かできることはないのか、リエンテ?」

「サージュさん、イーシャさん……直接の武力行使となってはもうわたくしにもどうすることもできません。ただ事態を見守っていることしかできないのです」

リエンテはうなだれた。

「くそ! 人間と竜の戦争になるしかないのか……」


ベイン率いる竜族軍はアスカニアの国境を突破した。

そしてアスカニア領になだれ込んだ。

竜族軍は南下し、アスカニアの首都アレンタを目指した。

その途中で、ベイン率いる竜族軍は都市ウォルテラエを蹂躙し、破壊した。

「ぬるい、ぬるすぎるわ。人間どもなどこの程度か。烏合の衆にすぎぬわ」

ベインは人間たちを見下した。

リキニウス率いるアスカニア軍は竜族軍が南下していること、ウォルテラエが破壊されたことを知り、街道を北上した。

リキニウスは竜族軍に会戦を挑み、戦争の早期決着を計るつもりだった。

アスカニア軍はカンナエ(Cannae)の平原で竜族軍を発見した。

竜族軍もアスカニア軍を目にとめた。

アスカニア軍は騎兵を繰り出し、小規模な牽制ををして竜族軍の出方を計った。

アスカニア軍と竜族軍はカンナエの平原で対峙し、布陣した。

双方互いに会戦の構えを取った。

ベイン率いる竜族軍の編成は、

第一戦列――四つ足歩行の小型の竜。

第二戦列――斧を装備した竜戦士。

第三戦列――曲刀を装備した竜戦士。

「フン、人間どもの軍など烏合の衆、ザコの集まりにすぎぬわ」

ベインはそう言い切った。

一方、あアスカニア兵たちは初めて戦う竜たちの威容に圧倒された。

リキニウスは兵たちが恐れをなしているというのを見て取ると。

「敵を恐れるな! 我々は秩序ある戦陣を組めば必ず勝てる! 敵はしょせん、怪物の群れにすぎない!」

アスカニア軍と竜族軍は激突した。ベインは第一戦列の竜たちを突撃させた。

ベインの狙いは第一戦列の突撃でアスカニア軍重装歩兵の戦陣を崩すことにあった。

ベインの狙い通り、アスカニア軍の隊形は崩れた。

竜族軍の攻撃力はすさまじく、重装歩兵は押された。

「押し込め! 敵の中央を突破せよ!」

ベインはアスカニア軍を中央突破するよう、第一戦列に命じた。

アスカニア軍は竜たちの突撃を持ちこたえられなかった。

アスカニア軍の隊形に乱れが生じ、兵士たちには動揺が走った。

執政官リキニウスはまずいと思った。

ベインは第二戦列を戦場に本格的に投入した。

竜たちは斧をアスカニア兵の血で染めていった。

「殺せ! アスカニア人どもを皆殺しにするのだ!」

ベインはさらに第三戦列をアスカニア軍の左右両側面に展開させた。

アスカニア軍は正面からだけでなく、側面からも攻撃されることになった。

アスカニア軍重装歩兵の密集隊形は側面が弱点であった。

第三戦列の竜戦士は狂ったように剣を振るった。

アスカニア兵はつぎつぎと倒されていった。

一方的な展開となり、竜族軍はアスカニア兵を血祭りに上げた。

すさまじい殺戮が行われていた。

「ゆけ! 大地をアスカニア兵の血で満たせ!」

執政官リキニウスは会戦での敗北を悟らざるをえなかった。

リキニウスはやむなく全軍に撤退を指示した。

戦いはアスカニア軍の敗北で終わった。


執政官リキニウスとアスカニア軍の一部は首都アレンタへと何とか逃げ延びた。竜族軍の侵攻は緩慢で、アスカニア軍は竜族軍の追撃を逃れることができた。

執政官リキニウスを待っていたのは元老院からの不信任だった。

リキニウスは動揺した。

元老院は竜族軍との戦いで敗れたリキニウスに対して、不信任案を提出した。この不信任案を元老院に提出したのは元老院議員カッシウスであった。

理由は戦時の指導者としてふさわしくない、であったが本当の狙いはリキニウスの失脚にあった。

真の黒幕は法務官イシャールであった。

不信任案は圧倒的多数で可決された。

これによってリキニウスは失脚し、代わって執政官選挙が元老院で行われることになった。

執政官には三人が立候補した。

イシャール、ホルテンシウス、イサウリクスの三人であった。

選挙の結果、イシャールが第一位で当選し、執政官となった。

闇は元老院を侵食し、この時すでに元老院はイシャールの傀儡となっていた。

執政官イシャールは元老院で演説した。

「元老院議員諸君、国家の父たちよ、この非常時に執政官という大任を私にゆだねてくれたことを、私は誇りに思う。それは私が望んだからというよりも、諸君らが戦時の指導者として私を選んだからだ。私は諸君らが与えてくれたこの政務官職を全力で務め切る覚悟がある。私は執政官という国家最高の公職を諸君らの信認に忠実に果たすつもりだ」

元老院議員たちはイシャールに礼賛の拍手を送った。

つまり、イシャールを止められる者はもはや誰一人としていなかった。

すべてはイシャールのシナリオにのっとって進んでいた。

「元老院議員諸君、私は国家第一のしもべとして執政官を務めよう。そこで緊急の要件がある。それは竜族との戦争である。邪悪な竜どもは我々の国アスカニアの領土を侵犯した。残念ながら、前の執政官リキニウスは竜族軍に敗れたが、私はすみやかに軍を再編して、出撃するつもりだ。アスカニアに栄光あれ! 元老院に栄光あれ! アスカニアの国政と国家を主導するのは執政官ではなく、元老院である。元老院こそ、国家最高の機関であり、国政にかかわるすべては元老院で討議されねばならない。私はこれから軍総司令官として戦場に赴く。そして私はこの戦争を勝利で飾ろう。大事なことは何より、私が望んだからではなく、諸君らが望んだからなのだ。国家および国政は元老院議員諸君、すなわち、国家の父たちの肩に担われている。私は国家の代理人としてこの戦争に臨もう」

イシャールの演説を議員たちは熱狂的に迎え入れた。

国家アスカニア――アスカニアの国政はあくまでも元老院の討議で決めねべならない。国家最高の公職・執政官といえども元老院を無視することは許されない。執政官はあくまで元老院から権力を委託されているにすぎない。

アスカニアの最高権威とは元老院なのである。

元老院議員たちはイシャールの禁欲的な態度を称賛した。

実際はすべてイシャールが望んだことなのであったが……

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