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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
23/65

ミイラ男

フィオレンティアに傭兵隊が凱旋した。

フィオレンティアの傭兵隊は隣国のペーザノ(Pesano)とのあいだで戦争状態にあった。

領土と国境を巡って、フィオレンティアとペーザノは対立していた。

フィオレンティアは国防を自分たちでは行わず、もっぱら傭兵隊と契約し、国防は傭兵隊に任せていた。

これはフィオレンティアの愚行であった。

国防を傭兵隊に任せることで、傭兵隊長個人の利害に翻弄された。

これはペーザノでも同様であった。

傭兵隊長は互いに打ち合わせを行い、その打ち合わせ通りに戦闘を行った。

つまり、傭兵隊長は八百長戦争を行っていた。

かくして誰一人死ぬことのない、理想的な戦争が行われた。

傭兵隊長は都市の中に入ることを禁止されていたので、町のそばで宿営していた。

フィオレンティアで契約していたのはロベルト(Roberto)という傭兵隊長であった。

この傭兵隊長というものは極めて信用がおけなかった。

傭兵隊長の中には契約金の支払いが悪いと、敵国への寝返りを画策する者までいた。

このような傭兵隊長に国防をゆだねるなど愚か以外の何物でもなかった。

つまり、フィオレンティアはカネは出すが兵は出さなかったのである。

経済活動に打ち込むため、国防はカネで解決したのであった。



サージュとイーシャとリエンテはフィオレンティアに長期滞在していた。

三人はフィオレンティアの町を楽しんだ。

フィオレンティアには大学もあり、知的研究の分野でも、一流で高名な学者たちを多数輩出していた。

フィオレンティアを象徴する言葉は「美」である。

美こそ、フィオレンティアを最も特徴づけるものであった。

美的なものこそフィオレンティア的であった。

フィオレンティアは洗練された美の文化を持っていた。

一流の芸術家が作った作品は莫大な利益を芸術家にもたらした。

サージュたちが悪魔を倒したため、フィオレンティアは富の追求に走ることができた。



「余は永遠の命を手にした、不死の王である。我がしもべどもよ、現世に侵攻せよ。現世を我らのものとするのだ。闇は無限の力を我らにもたらした。我ら闇の軍勢が現世を支配するのだ。不死の王アスタロト(Astaroth)の名において命じる。現世を我らのものとせよ」

闇の軍勢は出撃していった。

フィオレンティアに闇の影が近づいていった。



フィオレンティアの郊外では農園が盛んだった。

郊外から農作物がフィオレンティアに流れ込んでくる。

またブドウ園もあり、ワイン作りも盛んであった。

サージュたち三人はカフェにいた。

三人はここでフィオレンティアの美食文化に触れていた。

「まあ、これがパフェというものなのですね」

リエンテはパフェを見て驚いた。

イチゴシロップとバニラアイス、ソフトクリーム、プリンなどがトッピングされていた。

「おいしそうだな」

「そうね。食べましょ」

「それではいただきます」

三人はパフェを食べた。

「おいしい! さすがフィオレンティアね」

「まあ、なんておいしいんでしょう! 口の中でとろけるようですわ!」

カフェはアルジェンタ川沿いにあった。

サージュはアルジェンタ川の輝きを見ながら、パフェを食べた。

「サージュさんは今一つ食べられていないようですが、お口に合わないのですか?」

「どちらかというと、甘いものは苦手なんだよ」

「そうでしたか」

相変わらず、リエンテの食べ方は上品だった。

育ちの違いだろうか?

「ん?」

サージュはなにやらあわただしく走っていく一団に目を止めた。

「あれはなんだろう?」

「何、サージュ?」

「どうかいたしましたか?」

一団は武装しており、急いでいるようだった。

「町の自警団ではないでしょうか?」

サージュは彼らのあわただしさが気になった。

「後をついて行ってみよう」

サージュたちは代金を支払うと、自警団員の後を追いかけた。



「なんだと!? 町にミイラ男が押し寄せてきただと!?」

市長は市庁舎で報告を受けた。

その内容は信じられないようなものだった。

町へとミイラ男どもが群れを成して迫ってきている……

とても現実的とは思わなかった。

「それは本当に事実なのか!? ミイラ男だと!? まったくありえんことだ!」

「しかし、市長、それは事実です。突如として、謎の建物が現れると、その中からミイラ男が現れたのです」

市長は非現実的な事態に怒りをあらわにした。

「目下、自警団がバリケードを作り、ミイラ男を迎撃する準備を整えています」

「ロベルトを呼べ! これはフィオレンティアの一大事だ!」

数時間後、傭兵隊長ロベルトから回答があった。

ミイラ男と戦うことは契約に含まれていない。我々はミイラ男と戦うことで我々の戦力を失いたくはない――であった。

傭兵隊長ロベルトはミイラ男との戦闘を拒否した。

フィオレンティアは自警団のみで、ミイラ男と戦わざるをえない状況に陥った。

自警団は警察に相当する。

傭兵隊が使えないことでフィオレンティアは危機に直面した。



「あの建物は何だ?」

サージュは町からそう遠くないところに、三角の建物を見つけた。

「何、あれ? あんなものはなかったはずだわ」

「あれは……ピラミッドですね。確かに今まで存在していませんでした」

「ピラミッド?」

フィオレンティアの近郊に突如としてピラミッドが出現した。

「ねえ、見て、あれ!」

イーシャは全身を包帯で巻かれたものたちに言及した。

「ミイラ男のようです! すごい数です! この町の自警団では持ちこたえられないでしょう!」

三人が見ているうちにミイラ男たちと自警団が戦闘に入った。

フィオレンティアは混乱した。

ミイラ男現る、というニュースは市民を混乱させた。

「俺たちも戦おう!」

サージュが言った。

「いえ、サージュさんわたくしたちが戦っても無駄でしょう」

リエンテはあくまで落ち着いていた。

「それでも、何かしないよりはましだ!」

「サージュさん、あのピラミッドを見てください」

「ピラミッドを?」

「あれが敵の本拠地です。あそこにこの事件の元凶があるはずです。サージュさんたちはあのピラミッドに乗り込んで、その元凶を叩いてください」

「でも、どうやってあそこまで行けばいいの? 途中にはミイラ男がたくさんいるわ」

「サージュさん、イーシャさん、わたくしがお二人を転送します。フィオレンティアに近づいてくるミイラ男はわたくしが結界を張って防ぎます」

「わかった。俺たちを転送してくれ」

リエンテは六芒星の魔法陣を作った。

「この中に入ってください」

サージュとイーシャは魔法陣の中に入った。

「これでいいの?」

イーシャは不安そうに答えた。

「はい。ではお二人を送ります!」

リエンテは杖を構え、サージュとイーシャを転送した。

二人の姿は魔法陣の中に消えた。

「あとはこちらだけですわね」

そう言うと、リエンテは町全体を包み込む結界を張った。

「これでミイラ男たちは町の中に侵入できませんわ。あとはサージュさんとイーシャさんしだいです。お二人とも、よろしくお願いします」

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