バロール
悪魔の出現に備えて、サージュたちは交代で見張りをすることにした。
リエンテ、サージュ、イーシャの順で、夜悪魔の動きを監視することにした。
まずはリエンテが見張りをする番だった。
サージュは自室で休み、ベッドの中で眠った。
その夜、サージュは夢を見た。
夢の中で――
「ここは……」
サージュは海辺に立っていた。
波がサージュの腰に当たった。
「あれは、何だ?」
サージュは海の向こうに島を発見した。
島からは美女たちがサージュに手を振り、島に来るように呼び掛けていた。
サージュはこの島を見たとき、至福の島だと思った。
至福の島、いや至福の楽園だった。
あの島に行けば、この世のありとあらゆる苦痛から解放される、そんな気がした。
そして享楽と幸福に満ちた理想的生で満たされるだろう。
サージュの脚は自然とあの島に向かって歩き出した。
体が勝手に島に向かって動こうとしている。
サージュは強制的に島に引き寄せられた。
サージュは抵抗を試みた。
そしてサージュはあの島に不審を抱いた。
これは何かおかしい。
しかし、そのうちサージュの頭にまで甘い香りが侵入してきた。
「くっ、まずい!?」
サージュに甘い誘惑が襲ってきた、まさにその時。
「サージュさん!」
「は!?」
サージュはリエンテの声で目を覚ました。
「サージュさん、大丈夫ですか!?」
「リエンテ……俺はいったいどうしていたんだ?」
サージュはベッドから跳び起きた。
そして、窓の外からの視線で気づいた。
「なんだ、あれは!?」
サージュは窓の外から目玉の怪物がのぞきこんでいるのを見た。
「悪魔の目玉です!」
サージュは剣を手に取り、窓を開けると、悪魔の目玉に突き付けた。
悪魔の目玉は妖しく目を光らせつつ去っていった。
「あいつが睡魔の原因か!」
サージュは悪魔の目玉を見失った。
「イーシャは安全か?」
「行ってみましょう!」
サージュとリエンテはイーシャの部屋に入った。
「イーシャ、無事か!?」
「? サージュ? 何かあったの?」
イーシャは眠たそうに起きた。
「悪魔の目玉が現れた!」
「悪魔の目玉、ですって!?」
サージュさんが襲われました。残念ながら、見失いましたが」
「イーシャは襲われなかったようだな」
その後三人はまた、誰か一人を見張りに立てて、眠ることにした。
次はサージュが見張りをした。
その日の夜はもう悪魔の目玉は現れなかった。
次の日の朝、三人は朝食を共にした。
そしてサージュの部屋で今後の対応を話し合った。
「悪魔の目玉を見つけたのはいいけれど、昨日は倒せなかった」
「そうね。逃げられたらどうしようもないわ。何か方法はないのかしら?」
「方法ならわたくしに任せてください。あの悪魔の目玉を探知、追跡します」
「今日は夜に備えて早めに眠っておこう。今夜ケリをつけたい」
サージュたちは宿で悪魔に目玉を監視することにした。
昨夜はまた何人もの市民が睡魔にかかった。
夜、三人はサージュの部屋に集まった。
「どうやって、悪魔の目玉を探知するんだ?」
「任せてください」
リエンテはテーブルの上に水晶球を用意した。
リエンテが手から魔力をこめると、水晶球は光出した。
「これでフィオレンティア全域を探知できます。ただ、わたくしは探知に集中しなければならないので、追跡はお二人にお任せします」
「わかったわ」
三人は夜、静かに悪魔を待った。
リエンテはイスに座ったまま水晶球を見つめていた。
サージュとイーシャはベッドの上に座った。
「睡魔に沿われた人たちがなんで幸せそうだかわかったよ」
サージュが口を開いた。
「どういうこと?」
「俺は昨日の夜、夢を見た。そこには至福の島があった。その島はまるで楽園のようだった」
「至福の楽園?」
イーシャはけげんに思った。
「ありとあらゆる苦痛から解放されるようなところだった。気が付くと、俺の体は勝手に島に向かって歩き出した。俺はまずいとわかっていても、自分の体を止められなかった。リエンテが来てくれなかったら、俺も今ごろは睡魔にかかっていたかもしれない」
「それは恐ろしいわね」
「ああ」
「!? サージュさん、イーシャさん! 悪魔の目玉を探知しました!」
「どこだ!」
「宿の前です!」
「サージュ、行きましょう!」
「ああ!」
サージュとイーシャは急いで宿の外に出た。
悪魔の目玉は隣の家の民家にいた。窓から家の中をのぞきこんでいる。
「!? イーシャ、あそこだ!」
そこにサージュたちが現れた。サージュは悪魔の目玉を剣で斬りつけた。
悪魔の目玉は振り返り、サージュをにらみつけた。
サージュは悪魔の目玉を剣で突き刺した。
悪魔の目玉は緑の粒子と化して消滅した。
「ふう、なんとか防げたな」
「サージュ、あれを見て!」
「!? あれは!?」
そこには何体もの悪魔の目玉が浮遊していた。
「あんなにいたのか!」
「降りてくるわよ!」
サージュは悪魔の目玉を攻撃した。
一体、一体はさほど強くなかった。
イーシャは氷の魔法を唱えた。
イーシャは氷の魔法で悪魔の目玉を攻撃した。
氷の刃は悪魔の目玉に突き刺さった。
サージュとイーシャは次々と悪魔の目玉を仕留めていった。
「これならなんとかなりそうだ」
サージュがそう言った時、一匹の悪魔の目玉が逃亡した。
「サージュ、逃げられるわ!」
「逃がすか!」
サージュとイーシャは走って悪魔の目玉を追った。
二人は夜の町を疾駆した。
そこにリエンテから声がかかった。
「サージュさん、イーシャさん! そのまままっすぐ行き広場を右に曲がってください! そこからより大きな悪魔の存在を探知しました!」
「より大きな悪魔だって!?」
「おそらく目玉は使い魔のような存在にすぎないんだと思います! 真の元凶は別にいます!」
リエンテの声はテレパシーで二人に伝わった。
二人はリエンテに誘導されて大通りにやってきた。
「ここは……」
「ここから、邪悪な魔力を感じるわ!」
二人は立ち止まった。
二人の前で魔力が噴き上がった。
その中から、大きな目を持つ異形の化け物が姿を現した。
悪魔バロール(Balor)。邪眼の悪魔バロールである。
「こいつが睡魔の元凶か!」
「来るわよ!」
バロールは木の実のような爆弾をばらまいた。
爆発が二人を襲う。
この攻撃を二人はバリアで防いだ。
バロールは浮遊してサージュに大きな毒の実を投げつけてきた。
サージュはさっとよけた。
サージュがいたところが毒で汚染された。
バロールは目を妖しく光らせた。
「きゃああああああ!?」
バロールの目から妖しい光が放たれ、イーシャを吹き飛ばした。
「イーシャ!?」
サージュは前に出て、バロールを攻撃した。
サージュに剣がバロールにダメージを与えた。
バロールはサージュに反撃してきた。
バロールは目から妖しい光を放った。
サージュはとっさにその場からよけた。
衝撃によってその場が割れた。
バロールは目からビームを放った。
膨大な魔力が撃ちだされた。
サージュは水の刃でそれを防いだ。
しかし、サージュは徐々に押された。
サージュは力づくでビームの軌道をそらした。
サージュは大きくジャンプして跳びこみ、バロールに斬りつけた。
バロールは後方に退いた。
そこに雷の魔法がバロールに当たった。
イーシャがバロールに反撃したのだ。
「なんて不気味な魔力なの……」
雷がバロールに隙を作った。
サージュはそれを見逃さずに、バロールに攻め込んだ。
剣でバロールの体を攻撃する。
イーシャは炎の魔法を唱えた。
バロールの周囲に炎が囲み、中心から揺れる大きな炎が膨らんだ。
バロールは悲鳴を上げ、バロールの体は炎上した。
サージュはさらに攻撃を加えた。
バロールは目を妖しく光らせ、紫色の霧を発生させた。
「これは……」
「サージュ! これは毒の霧よ! まずいわ。早くケリをつけないと、私たちが倒れるわ!」
毒の霧が二人のあいだを吹き抜ける。
二人は球状のバリアであふれる霧から身を守った。
毒の霧は二人から少しずつ、体力を奪い取った。
バロールは毒の実を投げつけてきた。
「くっ!?」
サージュは前へ出ると毒の実をかわした。
毒の実は着弾すると、辺りに毒をまき散らした。
「燃え盛る炎よ!」
イーシャはバロールの下から炎を噴出させた。
イーシャの炎でバロールはよろめいた。
「今だ!」
サージュはバロールの目に剣を突き刺した。
バロールは大きな絶叫を上げた。
バロールはよろめき、地上に倒れこんだ。
バロールの姿は緑の粒子と化し、消えていった。
バロールは消滅した。
「勝てたな」
「ええ、それでも町が毒で汚染されてしまったわ」
「何とかできるか?」
「やってみる」
イーシャは水の魔法を唱えた。
清らかな水が毒の跡を浄化していく。
「ふう、なんとか浄化できたわ」
そこにリエンテが声をかけた。
「お二人とも、無事ですか? 悪魔を倒したようですね。お見事でした」
「じゃあ、宿に戻ろうか」
「ええ」
サージュとイーシャは宿へと戻った。宿の前ではリエンテが立って待っていた。
「お二人が悪魔を倒したおかげで、目玉の反応がすべて消えました。これで町の人々も睡魔から解放され、目を覚ますと思います」
「これ事件が解決したのか」
「やったわね、サージュ!」
リエンテの言う通り、フィオレンティアで睡魔に犯されていた人々は続々と目を覚ました。
かくして謎の睡眠病は収まり、町に平和が訪れた。
結局、市民たちはこの睡眠病が何なのか最後まで分からずじまいだった。
ただ市民たちは睡眠病から治ったことを喜んだ。
市民たちはこの一件を「病気」と結論付けた。
医者たちは昏睡状態からの回復だと答えを出した。
市長の娘も目を覚ました。
市長は「娘は病気ではなかった」と決めつけた。
「市民たちは病気が治って喜んでるみたいだ」
「なんか、やるせないわね。病気じゃなくて睡魔だったのに……」
「結局は信じたいことを信じたいんじゃないか?」
「それもそうね。睡魔より、病気の方が納得できるのかしらね」