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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
21/65

忍び寄る睡魔

サージュとイーシャはフィオレンティア市内を観光して回った。

もっとも、それほどおカネがあるわけではないので、見て楽しむだけだったが。

二人はアルジェンタ川の橋の上で一休みをしていた。

「ふう、きれいな川ね」

イーシャの長い髪が風でそよいだ。

「また、起きたんですって」

「また!?」

「ウソ、怖いわ……」

「いつになったら治るのか……」

「いや、これは一部の者だけがかかる病気だろう、ただの病気さ。いずれ治るに決まっている」

「だが、医者に見せても原因がわからないらしいじゃないか」

「これは悪魔のしわざよ」

「バカな……悪魔や悪霊のしわざのはずがない」

橋の上では一部の人々が何やらウワサ話をしているようであった。

サージュは静かにそれを聞いていた。

「もう、一週間も眠ったまま起きないんですって」

「ぼくが聞いた話では三週間も眠り続けているらしい」

「これは睡魔だ」

「睡魔だって? バカげている。何か昏睡状態になっているだけだ」

「いずれ医学的に解明されるさ。医者が何とかしてくれる」

「睡魔か、病気か、はっきりしてほしいわ」

「君は睡魔なんて信じているのかい? バカバカしい。病気に決まっている」

サージュには彼らが何について話をしているかはわからなかったが、睡魔と病気という二つの単語が印象に残った。

「でも、病気ならとっくに治っていてもおかしくないじゃない。変よ」

「何か伝染病の一種じゃないだろうか」

「市庁舎はいったい何をやっている? これだけ被害が大きくなったのだから政治が介入すべきだ」

「睡魔か、病気か……」

サージュはつぶやいた。

「? どうしたの、サージュ?」

「いや、別になんでもない」

サージュはイーシャと共に宿へと戻った。



宿へと戻る途中で、サージュとイーシャは病院の前を通りかかった。

病院には人々の長い列ができていた。

「ああ、なんでこんなことに!?」

「もしかして、あなた方も同じですか? 私たちは息子が目を覚まさなくなったんです」

「うちは娘が」

「ぼくのところは妻です」

サージュは人々の列の近くで足を止めた。

「ちょっと、サージュ、どうしたの?」

「少し話を聞いてみよう」

サージュは近くの人に話を聞くことにした。

「すいません。いったい何の話をしているのですか?」

「ん? ああ、今フィオレンティアではやっている睡眠病のことだよ」

「睡眠病?」

「そうなんだ。ずっと眠ったまま、目を覚まさない病気さ。この人たちはみんな医者に診てもらいにやってきているんだ」

「治らないんですか?」

「医者が言うには原因不明らしい。ただの昏睡状態とも言われているけど、結局のところこの病気が何なのか、まだわかっていないんだ。今までまったくの健康状態だった人が急に昏睡状態になるらしい。まったく、原理もメカニズムもわからない、謎の病気さ」

「ありがとうございました」

サージュはそう言うと、若い男性から離れた。

「何を聞いていたの、サージュ?」

「どうやら、今フィオレンティアではずっと目を覚まさずに眠ったままの人たちがいるらしい」

「ずっと眠ったまま?」

「ああ。今のところ、真偽はよくわからない。原因も原理も不明らしい」

「なんだか怖いわね……」

二人はその後、宿に戻った。



一方、市庁舎の側はフィオレンティア市内で謎の睡眠病が流行り出したことを知ってはいた。

しかし、医者と病院が解決してくれるだろうと甘く見ていた。

市長――民主的に選挙で選ばれた人物――は当初この問題をあくまでごく一部の人たちの病気と事態を軽んじていた。

ところが、実の娘が同一の「病気」にかかるや否や、顔色を変えた。

バカな……「うちの娘が」そんな病気にかかるはずがない。

心底そう思っていたのである。

そのうち、市庁舎の役人の中にまで同様の病にかかるものが現れた。

市長は娘のもとに、市一の名医を呼んで診察させた。

診察の結果は原因不明――

医学的にはまったく正常であるはずなのに眠り続けている、だった。

市長はほかの医者を呼んで診察させたがいずれも答えは原因不明。

「あなた、娘も同じ睡眠病にかかってしまったんじゃないの!」

「そんなバカな……きっとすぐに治って目を覚ますだろう。心配はない」

と市長は根拠のない楽観論と、希望的観測で現実逃避的な考えに身をゆだねた。

不安になった市民たちは市庁舎に押し掛けた。

市庁舎側はあくまで医者が解決することと認識を改めなかった。



サージュとイーシャは宿に戻った。

「色々見て回ったけど、本当に大きな都市だな」

「ほんとね。フィオレンティアって美しい都だわ」

サージュたちが宿に戻ってきたとき宿はあわただしかった。

時刻は夕暮れになっていた。

「? どうしたんだ? なんだかあわただしいな」

人が宿の中をひっきりなしに出歩いていた。

「何かあったのかしら?」

「すいません、何かあったんですか?」

サージュは出歩く人を捕まえて尋ねた。

「実は宿の経営者の男の子が例の睡眠病にかかったらしいんだ」

「睡眠病に?」

「今、病院から帰ってきたところさ」

「それで、どうなったんですか?」

「結局、ほかの人と同じさ。医学的には健康そのもの。まったくの正常で原因不明だってさ」

「もしよろしければ見せてくれませんか?」

「ええ!? 君たちにかい!?」

男性は戸惑った。そしてどうしたものかと……

「う~ん、今経営者はいないから、ちょっとだけだよ?」

「ありがとうございます」

サージュとイーシャは男性の後をついて行って、男の子のもとを訪れた。

部屋の中で一人の男の子が安らかにベッドの上で眠っていた。

サージュは男の子に近づいた。

「本当にただ、眠っているだけなんだな」

「それになんだか、幸せそうに眠っているわ」

「謎の睡眠病か……どうしてそんなものにかかるんだろう?」

サージュとイーシャは男の子の部屋を後にした。

途中で二人はリエンテと出会った。

リエンテは階段の上から下へと降りてきた。

「あら? お二人とも、戻られたのですね。フィオレンティアの町はどうでした?」

「リエンテ……どうやら今、このフィオレンティアでは謎の病気が流行っているらしい」

「謎の病気、ですか?」

リエンテはきょとんとした。

「ずっと眠ったまま目を覚まさないの」

「医者に見せてもお手上げらしい」

「ずっと眠ったまま目を覚まさない病気ですか?」

「医者が言うには全くの正常で健康だってさ。だから謎の睡眠病って呼ばれている」

「謎の睡眠病……」

「この宿の男の子も同じ病気にかかったみたいなの」

「そうだ、もしよろしければリエンテもその男の子を見てくれないか?」

サージュはリエンテをその男の子の部屋に案内した。

三人は男の子の部屋に入った。

もう外は薄暗くなり始めていた。

「リエンテはどう思う?」

「これは……」

「こうして見てると、なんだか幸せそうなの」

「サージュさん、イーシャさん、これは病気ではありません」

リエンテはけわしい表情をした。

「病気じゃない?」

「どういうことなの?」

「これは明らかに睡魔です。おそらく悪魔のしわざでしょう」

「悪魔だって!?」

サージュは驚いた。

「はい。フィオレンティアに睡魔をもたらす悪魔が潜んでいると思います」

「このフィオレンティアに悪魔がいるの!?」

リエンテは冷静だった。

「悪魔らしきものが目撃されたという証言はないんですか?」

「ああ、全くなかった」

「ではおそらく、夜に悪魔が動き出しているんだと思います。夜中に悪魔が活動しているのなら人の目で見られないことも納得できます」

「じゃあ、このまま自然に目を覚ますことはないの?」

「はい、まずありえません」

リエンテは断言した。

「じゃあ、どうすれば解決できる?」

「睡魔をもたらす悪魔を倒すことです」

「わかった。ただ今は、何の手がかりもないんだ」

「そうね。悪魔のしわざとわかっても、どこにいるのかわからないんじゃ何ともしようがないわ」

「そうですね。しばらくは情報を集めるしか、ありません」

サージュたち三人は男の子の部屋を後にした。

それから夕食を取った。

夕食中、地区の女の子が睡眠病にかかったという話をサージュは耳にした。

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