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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
20/65

美竜王

フィオレンティアは金融業――銀行から発展した都である。

フィオレンティアでは商工業が栄えており、莫大な富を得ていた。

また職人たちが活躍する伝統工芸も盛んだった。

一流の文化人や芸術家がその腕を振るっていた。

美しい建物で都はあふれていた。

さらに美食の都でもあり、チョコレートやパフェが特産品だった。

ゆえにフィオレンティアは「花の都」と呼ばれていた。

サージュ、イーシャ、リエンテの三人はターレントから出ている街道を通り、フィオレンティアを訪れた。

「すごいな。都市そのものが芸術作品みたいだ」

サージュはフィオレンティアの美しい建築物に驚いた。

「ほんときれいな建物ね。うっとりしちゃう」

「お二人とも、まずは宿を取りましょうか」

「そうだな」

三人は宿で受付を済ませた。

フィオレンティアの中はアルジェンタ(Argenta)川が流れており、都市の美しさを高めていた。

「ねえ、街に出て行かない? いろいろ訪ねてみたいの」

「ああ、行こうか。リエンテはどうする?」

「わたくしは宿で休んでおりますわ。お二人だけで楽しんで来てください」

「わかった。それじゃ、イーシャ、行こうか」

「ええ、行きましょ! ほんとにすてきな都市ね」

サージュとイーシャは宿から出てフィオレンティアの観光に出て行った。

「ふう……」

リエンテは自室に入り、ベッドの上に座った。

「疲れているようだな。あなたは難題を抱え込んでいるからだ」

「白竜……」

リエンテはテレパシーで会話していた。

「あなたは旅をしているのか?」

「そうです。旅をして、人の営みを見ています」

リエンテはベッドから立ち上がり、窓の前に移動した。

窓から都を見わたす。

それだけで、フィオレンティアの美が一望できた。

「旅は順調か?」

「はい、共に旅をできる友人ができました。一人で旅をするよりもうれしいですわ」

リエンテは窓を開けた。都会の騒々しさが入り込んでくる。

「人の営みは心に触れます。この都ではどれほど多くの人がどれだけ努力を重ねたのでしょうか」

「あなたはいまだ人間と竜が共存できる可能性を探しているのか?」

「ええ、そうです。わたくしの友人たちはとても信頼できる良き人です」

「それは一つの可能性か。人と竜が共に生きられるということの……」

「白竜、あなたのほうはお変わりないのですか?」

「何も変わりはない。私はここ竜の庭に住んでいるだけだ」

「白竜、わたくしからお願いがあります」

「何か?」

「わたくしの友人たちと会っていただけないでしょうか?」

「!? 人間をこの島に連れてくるのか?」

「はい、ぜひ会って話をしてもらいたいのです」

「話が通じる人間なのか? あなたの友人は?」

「人間と竜の共存について、真剣に考えてくれると思います。わたくしは彼らを信じています」

「……あなたが見込んだ人間か。いいだろう。会ってみよう。そして話をしてみよう」

「ありがとうございます」

「ほかならぬあなたが友人と言う人間であればこそだ」

「白竜……」

「旅をして人の営みを見る……あなたの目には何が映っているのだ?」

「人の平和です」

「人の平和か。我ら竜の平和とは異なるものだ」

「わたくしたちはまだ人間を理解しきっていません。わたくしたちは出会うのが早すぎたのではないでしょうか」

「早すぎたか……そうかもしれぬな。それにしても気がかりなことがある」

「なんでしょうか?」

「ルブリウスとフォルネウスだ。ルブリウスは武力を所有している。その武力で人間世界に侵攻するやもしれぬ。つまり、人と竜の戦争になりかねん」

「ルブリウスはわたくしが説得したいと思うのですが」

「無理だ。ルブリウスは野心を抱いている。人間の世界を征服するつもりだ。だが、それより恐ろしいのがフォルネウスだ」

「フォルネウスは何を考えているのですか?」

「フォルネウスは人間を一人残らず、殺す気だ。人間の世界を滅ぼすつもりであろう」

「青竜バハムート(Bahamut)……珍しいですね、あなたの方から話しかけてくるのは」

「フン。我は人間と竜の共存になど期待していない。ただあなたの努力、いや願いや祈りは認める。何か吉報でもあるかと思ってな。それで、なにか収穫はあったのか?」

「ええ、良き友人を得ました。二人とも信じられる人です」

「そうか。だがフォルネウスには気をつけておくがいい。奴が一番危険なことを考えているからな。では、さらばだ」

「フォルネウスか……話をしても応じまい」

「フォルネウス……白竜よ、あなたはどう思いますか?」

「私はここから見ているだけだ。ただ、あるがままの自然を。私にはそれしか必要としていない。私は人間の営みには興味がない。私にはあなたのように人間を信じることはできない。人間と竜――出会わぬことこそが一番いいのかもしれぬ。なぜ、あなたは人間を信じられる?」

「わたくしにもわかりません。わたくしは人を信じたいのです。でも、わたくしたちと人間には一定の距離が必要なのかもしれません。まだわたくしは答えを出せていません」

「答えが出るとも限らぬであろう。ともかく、客人のことは承った。好きな時に連れてくるがいい」

「白竜よ、感謝します」

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