ルミナ
ルミナの町――
サージュとイーシャはルミナに到着した。
「へえ……運河が流れてるのね。運河の町だわ」
「まずは宿を取ろう。町に出るのはそのあとからだ」
「わかっているわ、そんなこと。それじゃあ、宿屋を探すとしましょうか」
サージュとイーシャは宿屋を探した。
宿屋はさして苦労もなく見つかった。
町の入口のすぐそばにあった。
サージュとイーシャは宿に入り、部屋の予約をした。
「ねえ、サージュ。外を見に行かない?」
「そうだな。町を見て回ろう」
サージュとイーシャは宿屋の外に出た。
「あの、お訪ねしたいのですが……」
サージュとイーシャは宿屋を出るなり若いシスターから声をかけられた。
「何でしょうか?」
「こんな人をどこかで見かけませんでしたか?」
それは似顔絵だった。
髪の長いきれいな女性だ。
「いいえ、見かけていません」
「私たちは今さっきこの町についたばかりなので……」
「そうでしたか。それは申しわけありませんでした」
「その人がどうかしたんですか?」
サージュはシスターに尋ねた。
「この方の名前はリベカと言います。聖歌隊の歌姫です。ところが先日から消息を絶ってしまって、私たちは必死に探しているんです」
「歌姫のリベカさん、ね」
イーシャが似顔絵をのぞきこんだ。
「もし見かけたときにはわたくしどもの教会に連絡をいただけないでしょうか」
「わかりました」
「教会ってどこにあるんですか?」
「あれです。あの丘の上にある建物が教会です。それでは」
シスターは二人のもとから去っていった。
「聖歌隊の歌姫リベカ、か」
サージュはつぶやいた。
「私たちが見つけられるとは思わないけれど、一応気にしておきましょうか」
「はは、そうだな。じゃ、町を見て回るか」
「行きましょ」
サージュとイーシャは町に出て行った。
二人は町を見て回った。
運河をボートに乗ってこいでみたり、市場でたくさんの果物を見て回った。
ほかにも家や武器屋、道具屋なども見て回った。
運河の上にかかった橋には大道芸人がいてパフォーマンスを見せていた。
二人は夕刻が迫ってきたため、宿屋に戻ることにした。
おカネはあまり持っていないため、見て回ることしかできなかった。
サージュとイーシャは宿屋の前に戻ってきた。
「なかなかおもしろかったわね。もう時間が迫ってきているし、今日は休みましょ」
「そうだな。あ、いてっ!?」
「あ!?」
ふとサージュは誰かとぶつかった。
サージュはぶつかった相手を見てみた。
どうやら女性のようだ。
「大丈夫、サージュ?」
イーシャがサージュを気遣って声をかける。
「ごめんなさい、私がよく前を見ていなくて」
相手はサージュとぶつかって地面にへこんでいた。
「いえ、俺の方こそうっかりしていました。すいません、立てますか?」
サージュは手を出して相手を立たせた。
「ありがとうございます」
女性は深々と礼をした。
「あら、あなたはどこかで会ったかしら? 何か見覚えが……あー--! あの似顔絵の人!」
イーシャはシスターが見せた似顔絵を思い出した。
この女性は似顔絵で描かれていた人物だ。
「あっ、あの、すいません! ちょっと!」
女性は慌てて、フードをかぶって顔を隠した。
「そういえばシスターが探していた人だ」
女性は困った顔をして。
「あの、宿に入りませんか? お話はそのあとからで」
すると女性は一人先に宿に入った。
「あ、待って!」
「入ろう」
サージュとイーシャも宿に入った。
さっきの女性は受付の前に立っていた。
「ねえ、もしかしてあなたが歌姫のリベカさん?」
イーシャは小さい声で女性に尋ねた。
「ほかの人には言わないでくれますか? はい、私がリベカです」
リベカはどうやら困っているようだった。
「ここじゃ何だから、私の部屋に行きましょ」
三人はイーシャの部屋に入った。
リベカはベッドに座ると、フードを取った。
「まず、名前ね。私はイーシャ」
「俺はサージュ」
「イーシャさんにサージュさんですね。私はリベカです」
「それにしてもどうしたの? 町でうわさにもなっていたし、シスターさんたちが探しているのもみたわよ?」
「失踪したんだって?」
「はい、教会の寄宿舎から失踪しました。あの……通報はしないでくれますか? お願いです」
リベカは二人に頭を下げた。
「なにか事情でもあるの?」
「まあ、俺たちは旅の者だから密告したりはしないけど……」
「ありがとうございます」
「どうして失踪したの?」
「私、歌姫って呼ばれていますよね? そのプレッシャーや重圧に耐えかねて寄宿舎を脱走したんです」
「でも、歌姫って呼ばれるくらいなら歌がうまいんじゃないの?」
「それほどではありませんが、聖歌隊の中ではうまい方だと思います」
「さて、これ、どうする?」
「そうね。リベカさん、泊まるところはあるの?」
「いいえ」
「なら今日は私の部屋に泊まって。狭いところだけど」
「俺たちはシスターにしゃべったりしないよ」
「はい、お二人の心遣いがほんとにありがたいです」
「じゃあ、イーシャ。リベカさんのこと頼むな」
「わかったわ」
「俺は自分の部屋に行くから」
そう言って、サージュはイーシャの部屋から出た。
なんだか妙な展開になった。
サージュはまさかシスターが探していた人物と出会うとは思わなかった。
これからどうするんだろうか、彼女は。
「聖歌隊の歌姫リベカ、か」
サージュにはリベカがきまじめすぎるため、歌姫と言う肩書にプレッシャーを感じているように見えた。
とりあえず、サージュはベッドに寝転んで休んだ。
そして、夜になると眠りについた。
次の日。
サージュは太陽の光を顔に受けて目を覚ました。
ベッドから立ち上がる。
サージュは全身でのびをした。
「ふう」
するとサージュの耳に歌が入った。
きれいな歌声だ。
どこかで誰かが歌っているんだろうか。
サージュが窓から顔を出すとそれは隣の部屋から聞こえた。
「イーシャの部屋からだ。もしかして、これはリベカさんか?」
リベカは朝歌を歌っていた。
リベカは歌を歌うことが大好きだった。
「きれいな歌……さすが歌姫って呼ばれるだけのことはあるわね」
「私、歌を歌うのは好きなんです」
「でも、歌姫って呼べれるのは嫌なのね?」
「私にとっては重荷なんです」
そこにノックがあった。
「入るよ」
「いいわよ」
サージュはドアを開けてイーシャの部屋の中に入った。
「きれいな歌声だった」
サージュはリベカに言った。
「ありがとうございます。うれしいです」
「さて、今日はどうしようか」
「私のことは大丈夫ですから、どうぞ出立なさってください」
「でも、ここまでかかわっておいて見捨てられないわよ」
「でも……」
「俺たちは先を急いではいない。それに俺たちは厄介ごとに首を突っ込む方だ。今日はリベカさんにつき合うよ」
「そうね。一人にしておけないもの」
「サージュさん、イーシャさん……」
「ところで、教会に戻ることは考えていないのかい?」
「ええ、今のところは」
「ねえ、リベカさんだって普通の女の子なのよ」
「私も普通の女の子の一人、ですか?」
「そう、歌姫じゃない、普通の女の子。周りの人は歌姫って押し付けているかもしれないけど」
「そう、ですね。もっと普通に考えてよかったんですね」
リベカの顔に希望が宿った。
「決めました。私、教会に戻ります。私自身が何より、歌姫と言う型に自分を入れていたんですね。今、気づかされました」
「じゃあ、教会に行こうとしようか」
サージュとイーシャはリベカを教会まで送って行った。
「リベカ様、よくお戻りに!」
「リベカ様、今までどこに行かれたのですか!?」
教会につくなり、リベカはもみくしゃにされた。
「お二人のおかげです。どうもありがとうございました」
「俺たちは大したことはしていないさ」
「そうそう、お礼を言われるほどのことじゃないわよ」
「私はお二人の旅の無事を祈っています。神があなたと共にあられんことを」
「君にもね。それじゃあ、もう行くよ」
「さようなら、リベカさん」
サージとイーシャはリベカに別れを告げると丘を降りて行った。
「さて、ルミナの町を出ようか」
「ええ」