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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
19/65

旅の話

サージュとイーシャがターレント行きの船に乗っているころ。

南の村では――

「ちと、話をしたいんじゃが、いいかのう?」

「これはこれは村長さん。どうぞいらしてください。今おもてなししますから」

南の村の村長オシャハットがフォルトゥナの家――つまりサージュの家を訪れた。

フォルトゥナはオシャハットを家の中に招くと、お茶を入れてもてなした。

オシャハットはイスに座った。

「ところで、最近ぼうずの姿が見えんが、どうしたんじゃ?」

オシャハットはお茶を口にした。

「息子のサージュは旅に出て、村を出ました」

「そうか、旅に出たんか。いつかは旅立つと思ったが、案外早かったようじゃのう」

「ええ、でもこれは息子が決めた道ですから。私も息子がいつか旅に出て、村の外に出て行くと思っていましたわ。あの子は黙っていたつもりでしょうけど、私にはわかりました」

フォルトゥナはにこやかに答えた。

「ほっほっほ。さすがじゃのう、最初からわかっておったんか」

「これでも15年いっしょに暮らし、育ててきたんですから」

「15年か。15年の歳月は大きいのう」

「ふふふ、それにあの子はどこか運命じみたところがありまして、あの子が隠しても私にはバレバレでしたわ」

「ほっほっほ。こりゃ、ぼうずもかなわんのう」

穏やかな雰囲気が二人のあいだに流れた。

「それだけじゃなく、隣の家のイーシャちゃんもサージュといっしょに旅に出たようなんです」

「隣の家の娘がか?」

「どうやら、手紙は置いて行ったみたいなのですが、両親には何も言わなかったようで……」

「青天の霹靂へきれきじゃのう」

「隣の家は大慌てでしたわ。でも、二人は幼なじみですから、こうして二人そろって旅に出るのも自然かもしれません」

南の村は穏やかでのどかだった。

ここには都会のあわただしさはなく、安らかな空気が漂っていた。

この村では時間に追われることがない。

オシャハットはお茶を飲み、ゆったり過ごした。

「15年前――確かおぬしがぼうずを見つけたのがそうだったかのう?」

「ええ、そうです。15年前のある日に、私はあの子と出会ったんです」

フォルトゥナは過去を振り返るように言った。

「あの時はたまげたぞい。なにせおぬしが自分の手で育てるというもんじゃからのう。確か、おぬしが15歳のころではなかったか?」

フォルトゥナは嬉しそうに笑った。

「うふふふ、そうですね」

「里親になれる家ならば村にはいくつもあったが、それを断って、自分の手で育てると、硬く言って聞かなかった」

オシャハットの話しぶりは昔を懐かしんでいるようであった。

(しゅが私たちを出会わせてくださったのです。これも運命かもしれません」

「そうじゃのう。ほっほっほ、それではわしは帰るとするかのう。ちそうになったな」

オシャハットはフォルトゥナの家から、立ち去っていった。

フォルトゥナは家の外に出た。

今日も晴れ晴れとしたいい天気だった。

(しゅよ、そうかあの子をお守りください。そして、イーシャちゃんにも(しゅの憐れみと恵がありますように」

フォルトゥナは祈りを捧げた。

「ふふっ」

フォルトゥナは自然と笑みがこぼれた。

「あの二人がいっしょなら、きっと元気に違いないわ」

フォルトゥナの体に風が吹きつけた。

「ただ、あの子はいつになったらイーシャちゃんの気持ちに気づくのかしら……いつまでたっても何も進展がないようだけれど……」



「くしゅん!」

サージュは大きなくしゃみをした。

「うう……」

「? どうしたの、サージュ? 風邪?」

「いや、別にそうじゃない」

イーシャは心配そうにサージュの顔をのぞきこんだ。

真昼に船は港町ターレントに到着した。

ターレントは漁業が栄える港町で、ゆたかな海産物に恵まれていた。

「さて、船を降りようか」

「そうね」

サージュとイーシャはいっしょに船から降りた。

「ここは港町なんだな。海産物が多い」

「本当ね。ねえ、せっかくだからお昼ご飯はお魚にしない?」

「そうだな。ん? リエンテが来るぞ」

リエンテは船から降りて二人のもとにやってきた。

「あら、お二人とも。こんにちは」

「こんにちは」

「こんにちは」

二人そろってあいさつを交わす。

「それにしてもすごく多くの魚ですね。驚きました」

ターレントの港には多くの種類の魚が運ばれていた。

「ねえ、リエンテさん、これからお昼ご飯にするつもりなんだけど、よかったらいっしょにどう?」

「そうですね。よろしければごいっしょしましょう」

「それじゃあ、店を探すとしようか」

三人は港から街に出て行った。

三人は街の一角でレストランを見つけた。

そこで食事をすることになった。

「おいしいですね。さすが海の幸ですわ」

魚料理が三人の前にあった。

三人はテーブルに着き、イスに座っていた。

食べ方は各人各様だった。

サージュはがさつに、イーシャはきれいに、リエンテは上品に、それぞれ料理を食べた。

「はあ、おいしかった。さすが、新鮮ね」

「ところで、リエンテは旅をしているのか?」

サージュがリエンテに尋ねた。

「はい、そうです。わたくしは旅をして、この目で見ているのです、人間の営みを」

「そういえば、リエンテさんの考えていたことはどうなったの? え~と、確か……」

「人間と竜の共存です」

「あ、そうだったわね」

三人は食事を終えて話し始めた。

「人間と竜の共存か」

「そうです。わたくしは人間と竜が共存できる可能性を求めているのです。そのために諸国をめぐり、旅をしています」

「それで、どう? 何か進んだ?」

「いいえ、特別何か成果はありません」

リエンテは顔を振った。

「リエンテさんはどうしてそんなことを探求しているの?」

イーシャはふしぎそうに聞いた。

「今、人間と竜のあいだで、大きな摩擦が起きているのです」

「大きな摩擦?」

「はい。人間と竜が接触する可能性ができてしまったのです。お二人も、ヴェノーザで見た通りです」

「そうね。人間と竜が接触するなんてことなんてなかったのにね」

「元来、人間と竜が接触することはまれでした。ところが、人間たちが現実世界で、このオイクメネで、活発な活動をするようになり、しだいに竜がいる領域に足を踏み入れるようになったのです。人間も竜も、お互いにどうすればいいのか、答えが出ていません。今のところは、敵対関係になりかねない、というところです。竜たちも戸惑っています。人間と竜は近い存在ではありませんでした。竜たちも考えはバラバラです。一致した考えを持ってはいません。危険なのは、一部の竜の中には人間に敵愾心てきがいしんを抱く者がいることです」

「人間に敵愾心を?」

サージュが言った。

「そうです。全ての竜がそうではありません。あくまで一部の竜が人間を敵視しています。わたくし個人としては人間と竜は共存できると考えています。双方の種族で友愛があればですが……」

「なんか難しい問題ね……リエンテさんはどうしてそんなに竜のことに詳しいの?」

「それは……すいません、言えません」

サージュは改めて、リエンテを神秘的なふしぎな女性だと思った。

三人のあいだに難し気な空気が漂う。

「今はまだ、可能性の段階です。双方の種族が衝突し、敵対するまでには至っていません。ですが一部の竜の中には人間と武力衝突する可能性を持つ者がいます。いずれ近いうちに本当に対立するかもしれません」

「まるで爆弾みたいだ」

「この話はこれくらいにしましょうか。暗いムードを作ってしまってすいません。話題を変えましょう。お二人はどこからいらしたのですか?」

「俺たちは南の村から来たんだ」

「そう、のどかなところよ。特に目立った特産品とかはないんだけどね」

「海の近くの、南の村だ」

「まあ、それはきれいな海なんでしょうね」

「そうね、海はきれいよ」

三人は明るいムードになった。

「お二人は旅をしているのですか?」

「そうだ。冒険の旅をして、各地を巡っている」

「リエンテさんはこれからどうするの?」

「わたくしはこれからフィオレンティアに向かおうと思っています」

「フィオレンティアか。もしよかったら、俺たちといっしょに行かないか?」

「そうね。リエンテさん、どう?」

サージュはリエンテを誘った。

「ええ、よろしければわたくしもご同行させていただきます。うふふ」

リエンテに明るい笑顔が現れた。

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