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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
14/65

トリデント

トリデント(Tridento)は民主政の国である。

国家は評議会によって治められ、国政の最高職「評議会議長」=ストラテゴスは市民の投票によって選ばれる。

豊かな海港を所有しており、制海権と海上貿易によって栄えていた。

隣国の軍事大国ラケドニア(Lakedonia)とは対立関係にあり、戦争状態が続いていた。

陸軍よりも海軍と、艦隊、船の漕ぎ手に重きを置いている。

特に漕ぎ手は下層の市民で構成され、彼らの活躍によって、漕ぎ手は投票権を得て、有権者になっていた。

現在のトリデントでは海軍派と陸軍派に分かれており、海軍派が優勢だった。

このトリデントにサージュとイーシャが訪れた。

「ここがトリデントか」

「すごい都ね。港からたくさん物が運ばれているみたい」

サージュはトリデントに圧倒された。

今までこんな大都市は見たことがなかった。

トリデントは都市国家として出発した。

それから陸の領土や海の領海を得るに至った。

トリデントが都市国家であることは今でも変わりがない。

国の名と都市の名が同一なのである。

それはラケドニアも同じだった。

ラケドニアは少数の軍事戦士たちから出発した。

彼らは共同体を作った。

それも普通の共同体ではなく、戦士のための共同体だった。

市民は戦士のみで、戦士以外には市民権は与えられなかった。

ラケドニア市民の義務は戦争であった。

ラケドニアは軍事優先の国家として続いており、国政は王政であった。

今のところ、トリデントとラケドニアのあいだでは停戦状態が保たれていた。

そのおかげでトリデントは海上貿易や海運業、都市商業に打ち込むことができ、繁栄を享受していた。

二人は、宿の受付を済ませると、都市の散策をしに都へと出て行った。



一方、ラケドニアでは――

ラケドニアは精強な陸軍を保有していた。

この当時としては珍しく、常備軍を保有していた。

軍隊は専門の職業軍人によって構成されていた。

また、軍事と国家は一つであり、軍人が国家の要職に就いた。

トリデントには常備軍はなく、戦時には市民たちで構成される市民軍が編成された。

ラケドニアとトリデントは長年にわたって敵対関係にあった。

ラケドニアは陸側の領土拡張を狙っており、それがトリデントの神経に触れる原因だった。

ラケドニアの王宮には一人の客人が招かれていた。

王は彼を最高級の待遇でもてなした。

彼は王の、私的な、個人的な顧問であった。

「ラケドニアの念願の目的、国家の領土拡張……これほど精強な軍があらば今度こそ、トリデントを屈服させることができるだろう。ご協力感謝しますぞ」

王リュクルゴス(Lykurgos)が言った。

客人は答えた。

「ラケドニア軍に闇の力が与えられればトリデントの征服、陥落も夢ではないでしょう。今のラケドニア軍は死を一切恐れません。だじゃくな市民軍で構成されたトリデント軍など、もはや敵ではないでしょう」

リュクルゴス王は彼・客人を夕食に招いていた。

テーブルの上には豪勢な食べ物が運ばれてきた。

「どうぞ召し上がってください、イシャール殿」

「いえ、特におなかがすいているというわけでもありませんので」

イシャールは王の隣の席で答えた。

イシャールは王の助言役でもあった。

ラケドニアでは軍の栄光は高く評価されていた。

したがって活発な軍事活動を行っていた。

軍はあらゆる分野の上に君臨した。

今のように、ラケドニアとトリデントのように停戦状態が続いていることの方が異常なのである。

リュクルゴスは自らの軍事的名声と、領土的野心を持っていた。

リュクルゴスは闇の力に魅力を感じた。

そして、闇の祝福を受けた。

「王よ、戦争の準備は進んでおりますか?」

「今、進めております。今度の戦争ではトリデントを攻略できると思っております」

「それは良き事ですね」

「それもイシャール殿の協力あってのことです」

「いいえ、私たちはただ、闇の力をラケドニア軍にもたらしただけのこと。おほめいただくには及びません」

「今から戦争が楽しみですな。わが軍がどこまで行けるのか」

王は食べ物を食べ始めた。

イシャールはワインに口をつけた。

イシャールは不気味な笑みを浮かべた。

王は気づかず、食事を続けた。



「何? ラケドニアに軍事行動の兆し在り、だと?」

アガトン(Agathon)議長は答えた。

「はい、我が方のスパイからの確かな情報です」

「ラケドニアめ、我が方の領土に手を付けるつもりか。そうはさせんぞ。スパイにはラケドニアの行動を見逃さずに監視するよう伝えよ」

「は!」

部下は執務室から出て行った。

「ラケドニアめ、戦争を仕掛けてくるつもりか。だが奴らは我々の市民軍の力を過小評価しているようだな。市民たちの国防意識は高い。いかに精強なラケドニア軍とはいえただではすまい」




サージュとイーシャは宿に戻ってきた。

二人は都の見物をし終えたばかりだった。

「ふう、疲れたわね。それにしても、なんて大きな都なのかしら。一日じゃ回りきらないわ」

「しばらくこの都に滞在しよう。俺もまだこの都を見てみたい」

「ふふふ、そうね。ところで、サージュ。私、都の中で不吉なうわさを耳にしたの」

「不吉なうわさ?」

「隣国のラケドニアこのトリデントが戦争になるんですって」

「戦争に?」

「ええ、もしそうなるならこの都に長くいるのは危険よ。戦争の巻き添えになるわ」

イーシャは不安そうに言った。

「そうだな。その時は早めにトリデントを発とう。俺たちは冒険者であって、兵士じゃないからな」



突如としてラケドニア軍がトリデントの領内に侵攻した。

トリデント側は不意を突かれた。

アガトン議長の努力は失敗に終わった。

アガトン議長はすぐさま市民軍を組織した。

トリデントでは国防は市民の義務だった。

アガトン議長はラゴス(Lagos)を将軍に任命し、トリデント軍を出撃させた。

出撃したトリデント軍はラケドニア軍と対峙した。

双方とも会戦を挑むつもりだった。

トリデント軍とラケドニア軍が激突した。

白熱した戦いだった。

トリデント軍はラケドニア軍に押された。

動員できる兵力はトリデントの方が上だった。

ラケドニアは軍事優先主義と寡頭政という政治システムのため、動員できる兵力に限りがあった。

ところが少数のはずのラケドニア軍がトリデント軍を上回る。

トリデント軍は浮足立った。

「全線戦局を維持せよ! その場にとどまり、戦うのだ!」

ラゴス将軍が馬で駆けって叫んだ。

しかし、トリデント軍にはいたるところでラケドニア軍に粉砕された。

ラケドニア軍には何か狂気のようなものが伴っていた。

ラケドニア軍兵士は普通ではない。

ラケドニア兵は狂人だ。

そうトリデント兵は思った。

ラケドニア軍の猛攻をトリデント軍は抑えきれなかった。

ラゴス将軍は軍の隊列を再編しようとしたが、もはや無駄なあがきであった。

トリデント軍左翼がラケドニア軍によって撃破されると、ラケドニア軍右翼はそのままトリデント全軍を包囲しにかかった。

トリデント軍は背後をつかれた。

ラケドニア軍はトリデント軍の殲滅にかかった。

一方的な虐殺が始まった。

トリデント市民軍はラケドニア軍に敗北した。

ラゴス将軍も戦死した。

トリデント軍は敗走した。

降服したトリデント兵はラケドニア兵の手で皆殺しにされた。

トリデント軍敗北! 

その知らせを、議長は受け取った。


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