表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
13/65

バヤガ

サージュとイーシャは森の中を歩いていた。

陽光が木々のあいだからさしていた。

「ねえ、サージュ」

「どうした?」

イーシャが先を歩いていたサージュに声をかけた。

サージュは振り返った。

「そろそろ休まない?」

イーシャが提案した。

「そうだな。そうしよう」

サージュはうなずいた。

イーシャは池の近くの石に腰を下ろした。

「はあ、疲れた」

サージュはイーシャの隣に座った。

「ふう……」

とりあえず、一息つく。

風が二人のあいだを通り過ぎていった。

「ん~! 気持ちいい風ね」

イーシャが背伸びをした。

「どうしたの、サージュ? 考え事?」

「いや、ずいぶん遠くまで来たと思ってね」

「そうね。村がずいぶん懐かしいわ」

二人のあいだには沈黙が続いた。

「もし?」

「はい? なんでしょうか?」

そこに一人の老婆が二人に声をかけてきた。

サージュはそれに答えた。

「お二人は旅の方でしょうか?」

「そうです」

「それはそれは。どこからおこしになられたのですか?」

「南の村からです」

「そうですか。ずいぶんと遠いところからおこしになられたのですね。それではお疲れでしょう? もしよろしければ私の家におこし下さい。旅の方を迎えたいとおもいますので」

「あなたの家に、ですか?」

サージュはいぶかしみ答えを渋った。

悪気があるわけではないが、こういう好意をすなおに受けるのは苦手でもあった。

「どうするイーシャ?」

サージュはイーシャに相談した。

「そうね。せっかくだし、ご好意に甘えましょうか」

「そうか、わかった」

「それでは私の家までご案内します。ついていらしてください」

老婆が歩き出した。二人は老婆の後からついて行った。

「ここが私の家です」

老婆は二階建ての古風な家に二人を案内した。

入口のドアを開けてサージュとイーシャを招き入れる。

「二階に部屋があります。これから食事の用意をしますのでそれまで休んでいてください」

老婆は二人をもてなした。

サージュとイーシャは言われた通り、二階に上がって部屋で休んだ。

「森の中の一軒家か」

サージュはつぶやいた。

辺りでは鳥の鳴き声が聞こえた。

サージュはふわふわのベッドに腰かけた。

家具はよく手入れがなされていた。

部屋にはごみやほこりがなかった。

サージュはベッドで横になった。



イーシャは階段を降りて一階にやってきた。

「おばあさん、私が手伝います」

「おや、これは助かります」

老婆は優しく答えた。

「しかし、あなたはもてなされる立場なのですから、手伝わなくともよいのですよ?」

「私は実家にいたときから、料理の手伝いをしてきたんです。慣れてますから」

「それはそれは……」

テーブルには豪勢な料理がすでにでき上っていた。

「これ、クッキーですよね?」

「ほっほっほ。できたてですよ。食べてみませんか?」

「はい、いただきます」

イーシャはクッキーを一つ口にした。

「おいしい!」

「もっとどうぞ」

「はい」

イーシャはほかのクッキーを食べた。

どれも香ばしい味が舌全体に広がった。

「ふにゃ……?」

ふと、イーシャは急激な眠気に襲われた。

体がふらつく。

意識を保てなくなり、イーシャはその場にばたりと倒れこんだ。

老婆はイーシャを見おろした。

「イヒヒヒヒ。食べ物には眠り薬を入れておいたからねえ。うまい具合に眠ってくれたね。それにしても、若くてうまそうな人間の娘だねえ」

「イーシャに何をした!」

そこにサージュが現れた。

サージュは老婆の妖しい言葉を聞いていた。

老婆はサージュに向かいなおった。

「ヒヒヒヒ、おや聞かれてしまったみたいだねえ。余計なことに首を突っ込まなければ穏やかに死ねたのにねえ!」

老婆は杖を取り出した。

そして、魔法陣を展開し、サージュを亜空間に引きずり込んだ。

「亜空間!? おまえは何者だ?」

サージュは剣を抜いた。

亜空間には荒野が広がっていた。

「あたしはバヤガ(Bajaga)。魔女バヤガさ! それにしても、おまえに気づかれるとは予想していなかったよ! 見られた以上ただで帰すわけにはいかないねえ!」

「つまり、俺たちを殺して食べることが目的だったのか。とんだもてなしがあったものだ」

サージュは剣をバヤガに向けて構えた。

「イーヒヒッヒッヒ! 気づかれたんじゃ、力づくでいくしかないね。いい焼肉にしてやろうじゃないか!」

バヤガは杖を上に上げた。

バヤガの杖から火炎が放射された。

サージュは水の剣を振るい、火炎を斬り裂いた。

「ヒヒヒヒ! ずいぶんといきがいいじゃないか。だが、これならどうだい!」

バヤガは杖から炎の列を放った。

サージュはそれを水の剣で斬り払った。

炎の列は一つずつに分かれてサージュの周囲を取り囲んだ。

「!?」

炎が一斉にサージュに迫り来る。

サージュは大きく跳んで炎を跳び越えた。

そのままバヤガに水の剣で斬りかかる。

バヤガは杖で、サージュの剣を防いだ。

サージュは剣に力をこめる。

「くっ、やるじゃないか!」

バヤガの目が赤く光った。

バヤガは杖から炎を出した。

サージュはとっさに後ろに跳びのいた。

バヤガの炎がサージュに向けて吹き付けられる。

サージュは走って回避した。

バヤガは杖を前に出した。

「火祭りだよ!」

バヤガはいくつもの炎を上空から降り注がせた。

燃え盛る火球がサージュに迫った。

火球は地面に落ちると、爆発した。

サージュは炎の隙間に入り、火球をかわした。

「なかなかしぶといじゃないか。ならこれならどうだい?」

バヤガはサージュの周りに炎を多数出現させた。

炎は踊り、サージュに襲いかかった。

「ヒヒヒ、ようやく焼け死んだかねえ」

バヤガの炎が燃え盛る。

その炎の中から青い光が上がった。

サージュは海の力を解放したのだ。

水が炎をかき消していく。

「何だい、その力は!? あたしの炎を無力化しただって!?」

バヤガは驚愕した。

「これで燃え尽きな!」

バヤガは杖から炎を放った。

サージュはダッシュして水の剣で炎を斬り裂いた。

そしてサージュはバヤガに近づき、剣で斬りつけた。

「ぐぎゃああああ!?」

バヤガが大きな悲鳴を上げた。

「この、あたしが……」

バヤガはそのあと数歩歩くと、そのまま倒れた。

「倒したな」

バヤガの死によって、亜空間は消失した。

もとの世界にサージュは戻ってきた。

すると、そこには家はなく、ただ野原があるだけだった。

「あの家も、バヤガの作り物だったのか」

サージュはイーシャに近づいた。

「イーシャ!」

「ん? サージュ?」

サージュはイーシャを起こした。

「あれ、私はいったい?」

サージュはイーシャに事の結末を話した。

「ウソ……信じられない……何もかも私たちをだます罠だったなんて……」

「結局はすべてバヤガのたくらみだった。家も消えてしまったよ」

「はあ……ショックよ……まんまとだまされたなんて」

イーシャは手で頭を抑えた。

「ごめんね、サージュ。助けてもらって」

「別にいいさ。イーシャの善意が悪かったんじゃない。バヤガの策略が巧妙だった」

「うん、ありがとう、サージュ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ