タイラント
サージュとイーシャはパルムを去り、北へと続く街道を歩いていた。
ここ数日は野宿の日々だった。
サージュは宿の寝心地が恋しかった。
サージュとイーシャは川のそばで休むことにした。
そのにはすでに先客がいた。
「こんにちは」
「ん? こんにちは」
サージュは先客の男性に声をかけた。
彼は大きな剣を持ち、川の前に座っていた。
彼は身長は大きく巨体だった。
筋骨たくましい体つきをしている。
「隣に座ってもよろしいでしょうか?」
「うむ。かまわんぞ」
サージュが男性に尋ねた。
「じゃあ、イーシャ、ここで休もうか」
「ええ」
サージュとイーシャは川のほとりに座った。
のどかできれいな川がサージュたちの前を流れていた。
「おぬしらは旅の者か?」
男性が口を開いた。
「そうです。いろんな町を訪れています」
「この先にはダイク(Deik)の村がある。もしよろしければ寄っていくといい。周りのは田畑しかないが、いい村だ」
「ダイクの村ですか? そうですね。イーシャ、寄ってみないか?」
「いいわね、そうしましょう」
「この川はダイクの村の中まで流れている。この川に沿って行けばダイクにたどり着ける」
「ありがとうございます。ところで、あなたは?」
「わしはガストン(Gaston)。ダイクの村の剣士だ。おぬしらは?」
「俺はサージュです」
「私はイーシャと申します」
「サージュにイーシャか。わしには敬語は不要だ。普通に話すがいい」
「わかったよ、ガストン」
「ところでおぬしも剣を持つ者だ。ここはひとつ、腕試しでもしてみようではないか」
「いいよ」
サージュとガストンは立ち上がり、間合いを取って剣を構えた。
サージュから見るとガストンの巨体は圧倒的だった。
「うむ。よし。ではかかってこい」
ガストンは大剣を構えた。
サージュはガストンに斬りこんだ。
ガストンは軽々とサージュの剣を受け止めた。
サージュはガストンに攻め込んでいった。
ガストンは徐々に後ろに下がりながら、サージュの剣を受け止めた。
「なかなかいい剣筋だ」
ガストンが剣に力を入れ始めた。
サージュの側に圧力がかかってくる。
「くっ!?」
「では今度はこちらから行くぞ!」
ガストンが力を入れて剣を振るった。
ガストンの一撃は重かった。
サージュはガストンのパワーに押された。
一撃の重みはサージュよりも上だった。
サージュはスピードでガストンの剣に対抗した。
「むっ、やる!」
二人の剣の刃が交差する。
二人はそのまま膠着状態になった。
「ここまでとしようか」
ガストンは剣を収めた。
サージュも剣をさやにしまった。
「強いな、ガストン。力の重みが違いすぎる」
「おぬしこそいい腕をしている。見事だ」
そんな二人のやり取りをイーシャはずっと見ていた。
「ねえ、そろそろ出発しない?」
「そうだな、そうしよう」
「夜になる前にダイクに入りたいわ」
「ではダイクまでわしが案内しよう。なに、心配せずとも夕方には着く」
サージュとイーシャはガストンに案内されて、ダイクの村へと向かった。
闇の魔道士ウンベルト(Umberto)は塔の中で水晶球をのぞきこんでいた。
「闇の魔法の力を世に示さなくてはならん。闇がすべてを呑み込み、広がっていくのだ。今こそ、闇の力を見せる時じゃ。クックック」
ウンベルトは台座に置かれた水晶球に左手を添えた。
ウンベルトの右手には木の杖があった。
「儀式はすでに終えた。闇の世が実現する日は近い。闇こそが正統なものとして君臨するのじゃ」
ウンベルトは妖しく水晶球を見つめていた。
「ついたぞ。ここがダイクだ」
サージュたちはダイクの村に到着した。
サージュとイーシャの前には簡素な家に畑、庭があった。
「そこが宿だ。旅する者を暖かく迎えてくれるだろう」
「ありがとう、ガストン」
サージュはガストンに例を述べた。
「何、礼など無用だ。特に目立ったものもないが、ゆっくりと休むがいい。ではわしは自分の家に帰るとしよう」
そう言うとガストンは去っていった。
サージュとイーシャは宿に入り、部屋を取った。
「今夜は野宿せずに眠れるわね。よかったわ」
「そうだな。ガストンが道案内をしてくれて助かった」
「サージュ、夕食にしましょう」
二人は宿で夕食を取った。
その後、各自の部屋で休んだ。
そうして次の日を迎えた。
次の日――
あいにくと天気は晴れなかった。
朝から雨が降っていた。
空は灰色に染まっていた。
「おはよう、サージュ」
イーシャがサージュの部屋にやってきた。
「おはよう、イーシャ」
「今日は雨ね。一日中止みそうもないわ」
「雨が降っているのか。嫌な天気だな」
サージュは窓から外を眺めた。
「ん!?」
サージュは雨に不信感を覚えた。
何かおかしい。
「どうしたの、サージュ?」
「これは!?」
サージュはイーシャに答えずに宿の外に出た。
サージュの体に雨が当たる。
サージュは両手で雨水に触れた。
「これは、ただの雨じゃないぞ!?」
「何? どういうこと?」
「これは、毒の雨だ!」
「毒の雨!? どうしてそんなものが!?」
イーシャが驚きの声を上げた。
「今はまだ毒性が強くないが、それが増したら猛毒になる! ガストンは!?」
「おお、おぬしらも外に出ていたのか!?」
そこにガストンが走ってやってきた。
彼は村中を駆けてきたようだ。
「ガストン! これは毒の雨だ! 普通じゃない!」
「わしも今朝起きてから気づいたところだ! 不浄な雨が降っているとな! とにかく村人には外に出るなと言っておいた」
「ねえ、この雨が普通じゃないなら自然に止むこともないんじゃない?」
「そうだな。逆に言えば、こんな毒の雨を降らせている何かがあるはずだ」
「このまま毒の雨が降り続けたら、田畑の農作物に甚大な被害が出る! 何とかしなくては……」
ガストンは途方に暮れた。
「何が原因なのかしら?」
状況は一刻の猶予もなかった。
「あれは……」
サージュは丘の上に視線を移した。
「サージュ?」
「どうしたのだ?」
サージュの目は何か歪曲したものを捉えた。
「あそこに何かある」
「それは何なの?」
「ぼやけていて何かわからない。おそらく塔だと思う」
「塔だと? あの丘の上にはそんなものはなかったはずだが……」
「空間を歪曲させてその姿を隠しているんだ。何かがおかしい。ただ、邪悪な魔力を感じる」
サージュは歪曲した空間を直視した。
「あそこに行ってみよう!」
「わかったわ」
「うむ、わしも行くぞ!」
サージュ、イーシャ、ガストンの三人は丘の上を目指した。
三人は空間の歪みがある場所までやってきた。
「本当にここなのか? わしの目には何も見えんが?」
「どうするの、サージュ?」
サージュは剣を抜き構えた。
「こうするんだ!」
サージュは剣を思いっきり振りかぶった。
サージュの一撃が歪曲した空間に当たった。
空間の歪みはガラスが割れるように破裂した。
そして一本の塔がその姿を現した。
「おお! あったぞ! 塔だ!」
ガストンは大声を出して驚いた。
「こんなものが隠されていたなんて……」
「入口がある。入ろう」
ウンベルトの間にて。
「何!? バカな!? 空間の歪曲を見破られたというのか!? いったい何奴じゃ!?」
ウンベルトは驚愕した。
この塔は魔法でその存在を巧妙に隠していたのだが……
「塔の姿が明るみに出てしまったのう……しかも何者かがわしの塔に侵入したようじゃな……」
ウンベルトは水晶球に手をかざした。
「いったい何奴じゃ?」
水晶球に侵入者の姿を映し出させる。
「小僧に、小娘、大男だと? こんな奴らにわしの魔法が破られたというのか……ええい、忌々しい奴らめ! 奴らは階段を上に登ってきよる。ここに来るであろうな」
サージュたちは塔の中の螺旋階段を上に上がっていった。
「いったい、どこまでつながっているんだ?」
サージュは最上階にまで到達した。
そこは開けた場所だった。
そこに老人の魔道士がいた。
右手には木の杖を持っていた。
「小僧ども、よくここまで来れたものじゃな。このわしの魔法を見破るとは」
「おまえが毒の雨を降らせているのか?」
「フォッフォッフォ! その通りよ。このわしが毒の雨を降らせているのだ」
「では今すぐこの雨を止めろ!」
ガストンが剣を取り出した。
「どうしてこんなことをするの!?」
「フォッフォッフォ! すべては闇が世を支配するためじゃ。この雨は闇の祝福よ」
「なら、おまえを倒してこの雨を止める!」
サージュが言った。
「愚かな。きさまらにわしを止めることなどできぬ! ここまで来た以上、生かしては返さんぞ。闇の魔法の力の前にひざまずくがいい!」
ウンベルトは魔法の球を作り出し、三人に向けて飛ばした。
サージュとガストンは剣で防ぎ、イーシャは防壁を張った。
「くらうがいい!」
ウンベルトの杖から、闇の蛇が現れ、三人を取り巻いた。
蛇の目が光り、闇の爆発が起こった。
「うわああああ!?」
「うおおおおおお!?」
「きゃあああああ!?」
三人は悲鳴を上げた。
サージュは蛇の首を剣で斬り落とした。
闇の蛇は消えた。
「災いをもたらした咎人よ! その罪、その命で支払ってもらうぞ!」
ガストンが剣でウンベルトを斬りつけた。
しかし、ウンベルトは闇の魔力でガストンの剣を平然と受け止めた。
「フン! 何か言ったかのう?」
ウンベルトはガストンに闇のいかずちを放った。
「ぐあああああああ!?」
ガストンは闇のいかずちをくらった。
ウンベルトは魔法の球でガストンを吹き飛ばした。
ウンベルトの攻撃が続く。
ウンベルトは魔弾を連発してきた。
魔弾はサージュとイーシャを襲った。
サージュは剣で魔弾をはじいた。
イーシャは光の球で迎撃した。
「これはどう?」
イーシャはワンドからイナズマを放った。
イナズマは正確にウンベルトを狙う。
「その程度か!」
ウンベルトは左手でイナズマを受け止め、無力化させた。
「くらえ!」
サージュはウンベルトに斬りつけた。
ウンベルトは杖で防御した。
サージュは海の波動を剣から放った。
「ぐおおおおおお!?」
ウンベルトは防御したまま壁に吹き飛ばされた。
「おのれ! 許さんぞ!」
ウンベルトは杖をつかんで立ち上がった。
ウンベルトは杖でサージュを打撃してきた。
ウンベルトの「スタン・ブロウ」である。
ウンベルトの攻撃には大きな衝撃が伴っていた。
「うわっ!?」
サージュは剣で打撃を受け止めたものの、押された。
しかし、サージュは踏みとどまり、ウンベルトの杖を切断した。
「なっ!?」
ウンベルトは瞬間移動で後方に下がった。
「クククク……よもやここまでやるとは思いなんだぞ。このわしを追いつめるとはな。だが、これで終わりだと思うな! 闇の魔法の真髄を見せてやろう!」
ウンベルトは手を高く掲げた。
「なんだ!?」
「何!?」
「クックック、いでよ!」
ウンベルトの背後に魔法陣が現れた。
その中から竜の影が姿を見せる。
現れた竜は紫色で、二足で立っていた。
「竜か!?」
「召喚したの!?」
「フハハハハハ! これはタイラント! さあ、その力を思い知るがいい!」
すると、タイラントは口に炎を宿し、ウンベルトにはきつけた。
「ぐあああああああああ!? な、なぜじゃ……」
ウンベルトはタイラントの炎によって火だるまになった。
そして息絶えて、ウンベルトは死んだ。
タイラントは大きなうなり声を上げた。
「くっ! 召喚者にも手に負えない怪物か!」
「どうやら奴は自分で自らの破滅を招いたようだな」
ガストンが前方に出て言った。
「戦いしかないわね!」
イーシャが雷の魔法でタイラントを攻撃した。
雷がタイラントに降り注ぐ。
しかし、あまりダメージを与えているようには見えなかった。
ガストンが剣でタイラントを攻撃した。
続けてサージュがタイラントに攻撃した。
タイラントは口に炎をたくわえた。
「ガストン! 炎の息が来る!」
「むう!?」
タイラントは口から燃え盛る炎をはいた。
サージュとガストンはとっさに左右によけた。
イーシャは水のバリアを張って防いだ。
サージュはタイラントを攻撃した。
タイラントは豪腕で薙ぎ払った。
サージュはすばやくかわし、タイラントに斬りつけた。
今度はタイラントは豪腕で押しつぶそうとしてきた。
サージュは後方に跳びのいた。
ガストンは再びタイラントを剣で打ちつけた。
「ぬう! 何という耐久力だ!?」
タイラントはガストンを右腕で払いのけた。
ガストンは吹き飛ばされた。
タイラントは倒れたガストンめがけて、炎の息をはいた。
「まずい!」
サージュは水のバリアを張って、ガストンの前に出た。
燃え盛る炎の息吹がサージュを通り過ぎた。
「くっ、強い!?」
タイラントはまた炎の息をはこうとしてきた。
「氷の槍よ! 氷結槍!」
イーシャは氷の魔法を唱えた。
氷の槍がタイラントの口元に届いた。
そこのタイラントの炎と氷がぶつかり、爆発が起きた。
タイラントは苦しみの声を上げた。
「今だ!」
サージュは海の斬撃でタイラントを斬りつけた。
「まだまだ!」
サージュは連続で攻撃した。
タイラントは検圧にのけぞった。
そこにガストンが爆裂の一撃を繰り出した。
剣から爆発が起きて、タイラントを吹き飛ばす。
イーシャは大きな水の球をタイラントに放った。
タイラントはのけぞった。
サージュとガストンはいったん後方に下がった。
タイラントは三人をまとめて焼きつくそうと、炎を吹き付けた。
「はあああああ!」
サージュは海の波を放った。
炎と水がぶつかり、衝撃を巻き起こしていく。
タイラントはさらに炎の息を出した。
サージュは水の槍を形成すると、それをタイラントの口に投げつけた。
再び炎と水がぶつかり、爆発した。
タイラントは口を開けて悲鳴を上げた。
「この隙を逃しはしない!」
サージュはタイラントに接近し、口元に剣を突き付けた。
タイラントは絶叫を上げて倒れた。
タイラントは紫の粒子と化して消滅した。
「やったわね、サージュ!」
「うむ! 見事だ!」
「二人の援護のおかげさ」
突然、塔に振動が走った。
「これは何だ!?」
「この塔が消えようとしているんだ」
ウンベルトの塔はグラグラ動いて消滅していった。
塔が消えた後、三人は丘の上に残された。
「見て、雨がやんでいるわ!」
イーシャは上空を見た。
雨雲は消え去り、空から陽光が降り注いだ。
「毒の雨は消えた、か」
「今回の一大事、おぬしらがいなければ止められなかった。協力を感謝する」
ガストンがサージュとイーシャに言った。
「それでは、村に戻ることにしようか」