ネクロマンサー
サージュとイーシャは湖のそばで宿営した。
湖のそばの空気は澄んでいた。
二人は天幕をたたんで、朝食を済ませると、街道に沿って歩き出した。
道の途中に看板があった。
二人は立ち止まった。
「パルム(Parm)の村?」
「今日の夜は村の宿で過ごせそうね」
「訪ねてみるか」
「じゃあ、いきましょう!」
男は無造作にツボを投げ捨てた。
男はさびれた遺跡で金目の物を探していた。
男はなにか金目のものでもあるかもしれないと思い、遺跡に来ていた。
男は盗賊だった。
男は台になりそうなところに腰かけた。
「くそっ! カネになりそうなものがねえ! こんちくしょう!」
男は悪態をついた。
この遺跡はもともとは神殿だった。
屋根はもうなく、列柱と床が当時の面影を残していた。
男の背後で黒い闇が吹きだしていた。
闇は割れたツボから出ていた。
男はそれに気づかなかった。
立ち込めた闇から異形の魔道士が現れた。
「ここがパルムか」
「やっと着いたわね」
サージュとイーシャはパルムの村に到着した。
パルムには特別目立ったところはなかった。
主に農業と工芸が盛んな村である。
二人がパルムに着いたときには夕方だった。
「まずは宿を取らないと」
サージュが言った。
二人は村の入口近くで、宿屋を見つけた。
中に入り、受付を済ませる。
それから部屋に入った。
サージュは今夜は静かにゆっくり眠れると思った。
サージュは風呂に入り、体を洗った。
それからベッドで横になり、休んだ。
サージュはいつの間にか眠ってしまった。
サージュは安心して、つかれた体を休めると思っていた。
「サージュ、起きて! 大変なの!」
「ん? なんだよ、イーシャ……」
よく眠っていたところをサージュはイーシャにたたき起こされた。
「そんな悠長な場合じゃないのよ!」
「いったいどうしたんだ?」
サージュはベッドから起き上がった。
もう夜になっていた。
「サージュ、外を見て!」
「外?」
サージュは寝ぼけた頭で窓から外を見た。
「!? なんだ、これは!?」
サージュの眠気は一気に吹き飛んだ。
夜の外には多くのゴーストがいた。
ゴーストたちは村中を徘徊していた。
「いったい、何なんだ!?」
「ゴーストの群れよ。夜になったら突然現れたの」
サージュのそばでイーシャが答えた。
「とにかく、何とかしないと!」
サージュは剣を手に取った。
「今のところ、建物の中に入ってくる気配はないわ」
「今のところ、ね」
サージュは宿の二階の部屋で事態を眺めていた。
ゴーストの姿はどくろの顔に角があり、下半身はもやになっていた。
「村の人々は?」
「みんな混乱しているんじゃないかしら? 建物には明かりがともっているけど」
「俺は外に出て、ゴーストを退治する!」
「私も行くわ!」
サージュとイーシャは宿の外に出た。
「行くぞ!」
サージュは近くのゴーストを聖なる刃で斬りつけた。
ゴーストは妖しい光を放って四散した。
イーシャは聖光を放った。聖なる光がゴーストを消し去っていく。
「光よ!」
イーシャは光の魔法を唱えた。上空から光線が次々と落ちてきた。
ゴーストたちは一度に何体も消し去られた。
「だいぶ、数を減らしたな」
「この調子なら、全部倒せそうね」
「!? ゴーストたちが……」
ゴーストたちはふと村から退き始めた。
サージュはゴーストたちが逃げていく方向を確かめた。
遠くにさびれた神殿があった。
そこにゴーストたちは向かっていた。
「あれは……神殿跡か?」
「ゴーストたちが向かったところ?」
「ひとまず安心できるな」
サージュは剣をさやにしまった。
「詳しいことは明日調べよう」
「そうね。今日はもう休みたいわ」
サージュとイーシャは宿に戻った。
二人は武器の準備をしてから、眠ることにした。
「サージュ、おはよう」
「ああ、おはよう」
朝方二人ともあいさつに力がこもらなかった。
イーシャは眠たそうな顔をしていた。
サージュは今一つ眠れなかった。
もしかしたらまたゴーストが襲ってくるかもしれないと思ったからだ。
「あんまりよく眠れなかったみたいね?」
「そっちこそ、まだ眠そうだな?」
「今日はどうするつもり?」
「今日は昨夜のできごとを聞きに行こうと思っている」
サージュとイーシャは宿の受付で昨日の夜のことを尋ねた。
「あんなことは初めてです! 幽霊が村の中を徘徊するなんて! 幸い、建物の中には入って来ませんでしたが……また今夜も来るんでしょうか? 怖くて眠れませんよ!」
二人は宿の外に出た。
朝日が村中に注がれていた。
昨夜、ゴーストが徘徊したとは思えない陽気だった。
二人はパルムの村長のもとに訪れた。
「昨夜のことは初めてです! 今まであんなことはありませんでした! 村人たちには夜、家の建物の鍵を閉めた後、明かりを消すように伝えておきました。今夜もまたゴーストが来るんでしょうか……」
「ゴーストが現れる原因に心当たりはありませんか?」
「まったくございません。ここは田舎の農作の村ですから。わたくしどもはいったいどうしたらいいのでしょうか……」
村長は途方に暮れた。
「なあ、イーシャ」
「何?」
「俺はあそこの神殿に行こうと思う」
「あのさびれた神殿に?」
「昨日ゴーストたちはあそこに向かった。何か手がかりがあるかもしれない」
二人はさびれた神殿に向かった。
そして村から外れる道を通り、神殿にたどり着いた。
「なんか遺跡って感じね」
「誰も手を付けていないのか?」
二人は神殿跡地に足を踏み入れた。
階段らしきものもあり、奥へと進んでいく。
建物は雨風にさらされており、倒れている柱もあった。
サージュは神殿を見わたした。
「あそこに人が倒れている!」
「ほんとうね」
サージュとイーシャは倒れている人に近づいた。
サージュは手で揺さぶった。
「もしもし?」
倒れている男からは何の反応もなかった。
「……この人は死んでいる」
「身なりからすると、まっとうな人には見えないわね。おおかた遺跡荒らしってところかしらね」
「そうだな、ん?」
サージュは割れた破片に目がいった。
「どうしたの、サージュ?」
サージュは手で破片に触れた。
この破片からは明らかに魔力を感じる。
「イーシャ、この破片から魔力を感じないか?」
「どれどれ……ほんとね。魔力を感じるわ。これはいったい何だったのかしら?」
「破片を集めてみよう!」
サージュとイーシャは割れた破片を集めた。
原型が何だったのか、可能な限り復元を試みる。
「とりあえず、こんなところね」
イーシャは破片を集め終えた。
サージュはかけらをじっと凝視した。
「これは何か容器のようなものだったのかもしれない」
「容器?」
「おそらく、この中に何かが封じられていた。それもゴーストとは違う別なものが」
サージュは推理を進める。
「この男が封印を割った。それで何かの封印が解けてしまったんだ」
「ということは何が封印されていたの?」
「わからない……もしかしたらゴーストは使役されていたのかもしれない。この男が死んだのは封印されていた存在を復活させてしまったからだろうね。あくまで推測だけど」
「すると、今夜もまた、ゴーストが現れるわね」
サージュは無言で立ち上がった。
「今日はもう戻ろう。今夜に備えて」
「ええ」
サージュとイーシャは神殿を後にした。
二人はパルムの宿に戻ってきた。
二人は夜に備えて、早めに寝ることにした。
サージュとイーシャは夕方に目を覚ました。
それから夜になるまでずっと起きていた。
「今夜もゴーストは来るかしら?」
「おそらくね」
サージュは部屋の窓から外を見張っていた。
いつでも戦いの準備はできている。
「! 来た!」
「来たわね!」
「行こう!」
夜、暗くなったころ、ゴーストたちが大勢出現した。
ゴーストたちはわが物顔で村中を徘徊した。
サージュはゴーストを攻撃し、撃退していった。
イーシャは光の魔法でゴーストたちを消し去った。
「数が多いな!」
サージュはゴーストを剣で斬りつつ言った。
「まったくもう!」
イーシャはワンドから光線を出して、ゴーストを退治していった。
状況はサージュとイーシャに不利だったが、やがて改善されていった。
ゴーストたちはサージュとイーシャに倒されて、数を減らしていった。
ゴーストたちは一斉に同じ方向に逃げ始めた。
「ゴーストがいなくなっていくわ」
「イーシャ、ゴーストの後を追おう! この事件の核心に迫れるかもしれない!」
「そうね!」
サージュとイーシャは走って、ゴーストの後を追いかけた。
「ここは……墓場か?」
サージュとイーシャは村の墓地にたどり着いた。
石碑が立ち並び故人をしのんでいる。
「! あれは!?」
サージュはゴーストたちの奥にいる存在に目を止めた。
杖を手にした異形の魔道士。
この魔道士はゴーストを束ねているようだ。
「サージュの言った通りね。この事件の首謀者はあいつよ」
「ゴーストを使役する魔道士……ネクロマンサーだ!」
ゴーストたちはサージュとイーシャに敵意を向けた。
「来るぞ!」
ネクロマンサーがゴーストに攻撃を命じた。
ゴーストのうち一体がサージュを鋭い爪で攻撃してきた。
サージュはそれをかわし、下から上へとゴーストを斬った。
そのゴーストは消滅した。
ゴーストたちが一斉にサージュに襲いかかる。
「サージュ、持ちこたえて! そのあいだに私は光の神聖魔法を準備するわ!」
「わかった!」
ゴーストは冷たい息をサージュに吹き付けた。
サージュは水の盾でそれを防いだ。
サージュはゴーストたちと斬り結ぶ。
サージュはイーシャへの関心をそらした。
そのあいだにイーシャは大魔法の発動準備ができた。
魔法にはランクがある。
初級・中級・上級・最上級である。
イーシャの発動した魔法は光属性最上級ランクであった。
「聖なる光よ! 我にあだなす敵を滅せ! 聖光陣!」
すると地面から六芒星の魔法陣が現れ、神聖なる光を噴き上げた。
密集していたゴーストたちは聖なる光を受け消滅していった。
「これで、どう?」
イーシャが得意げに答えた。
ネクロマンサーは杖を上に上げた。
地面から何かが出ようとしている。
盛り上がった地面から、ガイコツ兵士・スケルトンが現れた。
スケルトンたちは右手に剣を持っていた。
「ゴーストの次はスケルトンか」
今度はスケルトンたちが二人に襲いかかってきた。
しかし、スケルトンの動きは緩慢で数が多くても、十分に対処できた。
サージュは聖なる刃でスケルトンに斬りかかった。
「くらいなさい! 雷よ!」
雷がスケルトンたちを上から襲った。
なん十体ものスケルトンが葬られた。
サージュは積極的にスケルトンに斬りかかった。
見る見るうちにスケルトンはその数を減らしていった。
「これで残るはネクロマンサーだけだ」
ネクロマンサーは浮遊し、闇の球を作り出した。
闇の球はネクロマンサーの周囲を回転し、サージュに向かって飛んでいった。
サージュは迫り来る闇の球をすべて剣で斬り捨てた。
イーシャは光の球をネクロマンサーに撃った。
ネクロマンサーは光の球を杖で迎撃し、弾き飛ばした。
ネクロマンサーは闇の火花を放った。
サージュとイーシャの周囲で爆発が起こった。
「くっ!?」
二人は爆発の直撃は免れた。
ネクロマンサーは杖を上に上げた。
地面から石の槍が現れた。
サージュはそれを横に跳んでよけた。
サージュはネクロマンサーに接近し、剣で斬りつけた。
ネクロマンサーは杖でサージュの攻撃をガードした。
そこにネクロマンサーに雷が落ちた。
「今よ、サージュ!!」
イーシャが雷の魔法を放ったのだ。
ネクロマンサーはたじろいだ。
「この隙を逃しはしない! くらえ!」
そこにサージュがネクロマンサーに剣で横に斬りつけ、さらに上から下に一刀のもとに斬り捨てた。
「やったわね、サージュ!」
「ああ!」
ネクロマンサーを倒した二人は墓地から宿に戻った。
二人の活躍で事件が解決したため、宿は無料になった。