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海の子供たち   作者: Siberius
竜との邂逅編
1/65

旅立ち

その日15歳のフォルトゥナ(Fortuna)は浜辺を歩いていた。

フォルトゥナは見習い祭官で今日も祭儀に参加した。

フォルトゥナは久しぶりに海が見たいと思った。

だから海辺を歩いていたのだ。

晴れやかな青い空にマリンブルーの海がフォルトゥナの前に広がる。

波の音が耳に入る。

「あら?」

ふとフォルトゥナは海辺に落ちていたかごに目を向けた。

気になって中を覗いてみる。

かごには波が押し寄せていた。

かごの中には赤ん坊がいた。

きらめく太陽の光を受けて、赤ん坊は眠っていた。

「この子、どうして……迷っている場合じゃないわ。すぐに保護しないと」

フォルトゥナはかごをかかえて村にある家へと赤ん坊を連れて行った。

赤ん坊の名前はわからなかった。

名前が書かれているようなものは見つからなかった。

フォルトゥナは困った。

名前がなければ呼びようがない。

「困ったわ。この子の名前は何なのかしら」

フォルトゥナは赤ん坊と出会った時を思い浮かべた。

波の音が印象的だった。

「そうね……あなたは海に運ばれた海の子。名前は波にちなんで『サージュ』(Saajhu)としましょう。あなたの名前はサージュよ」

フォルトゥナはサージュを育てることにした。

以来サージュはフォルトゥナによって育てられた。



太陽がさんさんと輝いている。

陽光がまぶしく照り付ける。

空は晴れわたり、すがすがしい。

風が穏やかに吹き抜けていく。

サージュ15歳は村長のオシャハット(Oshahatto)と海辺で剣術の訓練をしていた。

波が優しく浜に打ちつける。

オシャハットはサージュの剣を受け流すと、サージュの首元に剣を運んだ。

「うっ!?」

「ほっほっほ。まだまだじゃのう」

サージュの体が硬直した。

サージュはオシャハットからよく剣術の訓練を受けていた。

オシャハットが剣をさやに収めた。

「今日の訓練はこれくらいにしておこうかのう」

「ありがとうございました、村長」

サージュは礼をした。

オシャハットは海辺から去っていった。

サージュは剣をさやに収めた。

サージュが使っている剣はブロードソード――幅の広い剣であった。

サージュは全身で伸びをする。

さんさんと輝く陽光と、きらめく陽光。

天気は快晴だった。

サージュは海を見つめた。

波の音が耳に入る。

サージュは砂浜に寝転んだ。

太陽がまぶしい。

「何してるの、サージュ」

「イーシャ(Iisha)」

寝転んだサージュを女の子がのぞきこんだ。

彼女はイーシャ。

サージュと幼馴染の女の子で年は15歳。

長い茶髪の髪に、紺のワンピースのスカートを着ている。

サージュは幼いころからイーシャとよく遊んだ。

「天気が気持ちいいから寝転んだんだ」

「ほんと、今日はいい天気ね。海がきれい」

イーシャはサージュの隣に腰を下ろした。

「また、村長さんと剣術の手合わせをしてたんだ?」

「ああ」

「それで、どうなの? 村長さんに勝ったことある?」

「いや、一回も勝ったことない。あの人はすごいよ」

サージュは寝転ぶのをやめて座りなおした。

「サージュはどうして剣術の訓練をしているの?」

イーシャはサージュを見ながら言った。

「俺はこの村を出ていきたいからさ。別にこの村が嫌いってわけじゃない。もっと外の世界を見てみたいんだ」

「それって、冒険をしたいってこと?」

「そうとも言えるな。冒険の旅に出かけるなら、護身術は必要だろ?」

「そうね」

イーシャの長い髪が風で揺らいだ。

「そろそろお昼になるわよ。もう帰らない?」

イーシャは立ち上がった。

「ああ、そうだな。もう帰ろうか」

サージュも立ち上がった。服についた砂を落とす。

「お母さんがね、今日はサージュといっしょにご飯を食べたいって言っているんだけど、どう?」

「それじゃあ、ありがたくいただくよ」

「決まりね!」

サージュとイーシャの家は隣同士だった。

そのため、小さいころから互いの家に出入りしていた。

その日の昼、サージュはイーシャの家でごちそうになった。



ある日サージュは自らの意思をフォルトゥナに告げるつもりだった。

「母さん、話があるんだけど」

「少し待って。今、片づけるものがあるから」

サージュとフォルトゥナが住んでいる家は開放的な作りになっていた。

通気性もあり、南の国のような住まいだった。

サージュはテーブルのイスに座った。

そうするとフォルトゥナが奥からやってきた。

「それで、何? 話と言うのは?」

フォルトゥナがイスに座った。

フォルトゥナは30歳。

サージュがフォルトゥナに拾われてから、十五年の月日がたっていた。

フォルトゥナは正式な祭官となっていた。

「俺、明日からこの村を出ようと思うんだ」

フォルトゥナは特別驚かなかった。

ただ、穏やかな表情を浮かべた。

「あなたがいつかそうする日が来ると思っていたわ。私の手から、そしてこの村から離れていくことが」

「母さん……」

「いいわ。行ってきなさい。でも気をつけるのよ。外の世界にはこの村にはなかった危険があるはずだから。十五年になるわ、私がおまえを育ててから」

フォルトゥナは感慨深く言った。

フォルトゥナは席を発つと、サージュを抱きしめた。

「くれぐれも気をつけて。けがや病気にもね」

「母さん、今まで育ててくれてありがとう」

「私が好きでやってきたことよ。お礼を言われることではないわ」

フォルトゥナのぬくもりをサージュは感じた。

「思い出すわ。あなたと初めて出会った時のことを。あの海で出会った時のことを」

フォルトゥナはサージュを離した。

「イーシャちゃんには言ったの?」

「いや、イーシャには言わないつもりだよ。明日、一人で出ていくよ」

「わかったわ。イーシャちゃんには私から言っておきましょう」

「ありがとう、母さん」

「おまえは海の子よ、サージュ。そしておまえの名前は「波」、「サージ」にちなんでいるの。それを忘れないで」



次の日――

「じゃあ、母さん、行ってくる」

出発の準備をサージュは整えた。

「ええ、行ってらっしゃい。海の祝福があなたにありますように」

「うん、母さんにもね」

サージュは住み慣れた家と村から出て行った。

空にはカモメが飛んでいた。

サージュはイーシャの家を一瞥いちべつした。

イーシャには何も言わないつもりだった。

どこか言いづらかったからだ。

サージュは坂を上っていった。

この坂からは空と海がよく見える。

空には雲が漂い、海には波が打ちつけている。

晴れわたる青い空と、マリンブルーの海。

サージュはこの二つのはざまで育った。

ふとサージュの前に人影が現れた。

「私に言わないでどこに行くつもり?」

「イーシャ……」

人影はイーシャだった。

イーシャの声には怒りが伴っていた。

「私はあなたの幼なじみなのよ? それなのに一言もないなんてひどくない?」

「イーシャ、旅は危険だよ」

「私だって戦えるわよ。これでも少しは魔法が使えるんだから」

イーシャはワンドを振った。

「何を言ってもついてきそうだな」

「だいたい、あんたには私がついていないとだめなんだからね」

イーシャはほおを赤らめていった。

「よく先回りできたね?」

「何年、あんたの幼なじみをやっていると思うの? あんたがフォルトゥナさんのところにやってきてからよ。あんたが出ていくなんてお見通しよ。私もいっしょにいくわ」

「わかった。そうまで言うならいっしょに行こう」

サージュは仕方なく、イーシャの同行を認めた。

「ところでこれからどこに行こうと思っているの?」

「ルミナ(Lumina)の町に行こうと思っている」

「ルミナの町ね。わかったわ。じゃあ、行きましょうか」

こうしてサージュの旅が始まった。

幼なじみの予期せぬ待ち伏せにあったとはいえ、サージュは足を踏みだして歩いて行った。

目標はルミナ。

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