04
翌朝、平日より少しだけ寝坊して起きる。やっぱり新君、襲いに来なかったな。
とりあえず着替えてリビングに行くと、新君が布団の上で丸まって寝ていた。
顔を洗って戻ってきても、まだ寝ている。
「新君、おはよう。血、吸う?」
「………ぅわぁ!」
寝ぼけまなこだった新君は、私に焦点を合わせるとビクッと体を跳ねさせて叫んだ。そんなに驚かなくても良いのに。
「朝ご飯の準備、いろいろ説明しながらするから顔洗ってきて」
「う、うん」
私に言われるがまま顔を洗って戻ってきた新君に、トーストの焼き方や目玉焼きの作り方などを説明しながら朝食の準備をする。
一通り準備すると、2人で朝食を食べながら、今日の予定を説明する。
「今日なんだけど、とりあえずご飯食べたら洗濯して、新君の服とか必要なものを買いに行って、外でお昼ご飯食べようかと思う。帰ったら掃除して夜ご飯の買い出しに行って、夜ご飯は一緒に作ろうか」
「…分かった、けど、由奈さんは本当に良いの?」
「何が?」
「僕を家に置くこと」
良いことか悪いことかで言えば、これは良くないことなんだろう。でもこんな面白い状況、せっかくだから楽しみたい。身の危険もあまり感じないし。
「良いの良いの。あ、新君は嫌だった?」
「いや、僕はありがたいけど」
スパルタお兄さんのせいで家に帰れない上に、仕事も強制的に休まされてるんだっけ。私の血を吸えば全部解決するのにねぇ。
ウチに居候するということは、世間的に見ればいわゆるヒモ状態だけど、新君的には良いんだろうか?というかヒモ状態って気付いてるかな?
「じゃあ良いんじゃない?食後に血、吸う?」
「…吸いません」
朝食を終えると、とりあえず新君に洗濯の仕方を教える。まぁ洗濯機に洗濯物を突っ込んで洗剤入れてスタートボタンを押すだけだけど。
洗濯機を動かしている間に私は化粧をして、新君には皿洗いをお願いする。
「新君、買いたいものをメモに書き出しておいてくれる?」
一度に全部買いたいから、駅前のショッピングモールに行こうかな。
洗濯機が止まると、干し方を教える。新君は本当に家事をほとんどしたことがないらしく、たどたどしい手つきだ。
聞けば、ご両親がいる頃から家政婦を雇っていて、家事はほとんど家政婦任せだったらしい。両親が田舎に隠居した今は、家政婦さんとお兄さんの奥さんがほとんど家事をやっていて、やっぱり新君はほとんど何もしていないのだとか。
というか兄夫婦と同居とか、居づらいのでは…家政婦を雇うくらいだから大きいお屋敷とかに住んでいて、そこまで気にならないのかな?
「ゆ、由奈さん、これ…」
新君が洗濯かごに入っている私の下着を見て、動揺している。
「ん?私の下着だけど」
「僕が触っていいの?」
「触らないと干せないじゃん。あ、洗濯済みでも他人の下着とか抵抗ある感じ?」
「そうじゃなくて、由奈さんは気にならないの?」
うーん、まぁ普通に考えたら良く知らない男に自分の下着を洗濯されるのって嫌なんだろうけど、私はあまり気にならない。なんたって色気ゼロ下着だからね!むしろこんなくたびれた下着で申し訳ない。
「私は別に。新君が気になるなら下着は自分で干すけど。でも面倒臭いから新君がやってくれると助かる」
「うーーーーーん…」
ずいぶん悩むなぁ。
「分かった。由奈さんが良いのなら」
3日分くらい溜めていた洗濯物を干し終えると、もう10時を過ぎていた。仕事でもそうだけど、教えながらやるのって時間かかるよね。しょうがないけど。
洗濯が終わったので、次は買い物だ。私と新君は駅前のショッピングモールに到着すると、まずは服を買うためにメンズファッションのお店に向かった。
普段着や下着、靴などを購入し、新君の買い物メモに従って細々とした日用品を買いそろえていくと、結構な金額になった。
まぁ私は自分にお金をかけない女なので、たまにはお金を使わないとね。経済を回すのに貢献した気分。
買い物が終わる頃には13時近くになっていた。レストラン街は混んでいたので、フードコートで各々好きなものを食べる。
「由奈さん、ありがとう」
「何が?」
「怪しい僕を泊めてくれて、いろいろ買ってくれて」
「気にしなくて良いって。私も面白半分でやってるし。家事はやってもらうけど、新君が血を吸う決心がつくまで居ればいいんじゃない?」
あの様子ではいつになることやら、というのが正直な感想だけど。
「うん、僕頑張るね」
何を頑張るつもりなのやら…吸血?それとも家事か?それって頑張るようなことか?と思ったけど、新君がなにやら決意を新たにしているっぽかったので、言葉にはしなかった。
昼食後はまっすぐ家に帰った。これから掃除の仕方を教えるのだ。
新君にとりあえず着替えてもらって、私は掃除機の使い方やトイレ掃除などを教えていく。そんなに難しいことじゃないし、広くもない部屋なので思ったよりはすぐに終わった。
洗濯物が乾いていたので取り込んで、畳み方をレクチャーする。新君は意外と器用で、すんなり覚えていった。
「ちょっと休憩にしよっか」
私がお茶にしようとキッチンに立つと、新君が付いてきた。
ついでに紅茶の淹れ方を教えると、真剣な目で私の手元を見ていた。うん、私の紅茶の淹れ方はなんちゃってだから、そんなに真面目に覚えなくて大丈夫だからね?
紅茶は熱湯、緑茶は少し冷ましたお湯で淹れるんだよ、と教えてあげると、なるほどと頷いていた。まぁ私も美味しく淹れられるわけじゃないんだけど。